【弱ウソ日記】 僕が笑う時
夜。
録画しておいた番組を観ようとテレビをつける。
真っ暗な部屋、存在感を示すように輝くテレビ。
その中では、芸人さんたちが己が身を削って笑いを生み出している。
笑う、ただ笑う。
誰も起きていない家の中、ひとり笑う。
「気持ち悪い、笑ってんじゃねぇよ」
ひとしきり観終わって、余韻に浸っていると不意にあの言葉が脳裏をよぎる。
あぁ、やだな、また嫌なことを思い出した。
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学生時代。
いじめっ子グループの長が言っていたのがこの言葉。
常日頃、気持ち悪いと言われ続けてきた僕はきっと、気持ち悪い人間なのだろう。
「気持ち悪いやつは笑っていけない」
彼の一言は、そんな暴論を生み出した。
流石に、それはどうだろうか?
そんなことを思い、時に声に出す者はいた。
しかし、学生という限定された環境において彼の絶対的立ち位置は、そんな暴論すら正論へと変えてしまう。
いつしか、僕は笑うと罵倒されたり、殴られたり蹴られたりするようになった。
周りも、それが正論であればと、見て見ぬふりをしていた。
あぁ、笑っちゃいけない。
笑ったら、また怒られる。
殴られる、蹴られる。
そんなことばかり考えていた。
思い出してもヘドが出る...ほどでもなく、軽く嫌だなぁと思う程度なのだが、心が歪んだ時期の一つの強い記憶として、こびりついている。
大人になって、ある程度そんな気持ちから解放されてからも、人前で笑う時は多少なりとも気にしてしまう。
自分の笑い方で人を不愉快にさせていないだろうか、と。
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寝床につく。
笑うこと、について、もう一つ思い出したことがある。
それは大人になってからの出来事。
嫌な思い出、というよりは苦い思い出。
街やイベントで度々会う人と、たまたま隣同士の席になり、一緒に劇を見た。
その人は、よく笑っていた。
僕は、笑わなかった。
決して、面白くなかった訳ではない。
面白くて、笑ってしまいそうになった。
でも、僕が笑って、引かれてしまわないだろうかと、そんなことを気にしてしまった。
その人は、僕のことを気味悪がったことだろう。
劇が終わると、何も言葉を交わすことなく去っていった。
その後ろ姿を、僕はただ見つめていた。
あぁ、嫌われたな。
きっと、嫌われたことだろう。
あれから顔を合わせても、僕はすごく気まずくなった。
向こうは今まで通りの感じだったが、僕は何だか申し訳なくて。
会話をすぐ切ってしまうようになった。
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いつの間にか寝ていたらしい。
時刻、朝6時。
家、会社、プライベート。
乾いた笑みを浮かべる自分がそこにいる。
心の底から笑える、そんな時が来るといいな。
どこからが嘘で、どこからが本当か。
ご想像にお任せします。
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