岡本嗣郎『シベリアのトランペット もうひとつの「抑留」物語』(集英社 1999年)
新宿の平和祈念展示資料館の企画展示「極限下のエンターテイメント シベリア抑留者の娯楽と文化活動」で知った本の一冊、『シベリアのトランペット』を読んだ。
収容所や刑務所のような場所でも、いやそういった場所でこそ、人は娯楽や芸術を求めるようで、各地の関連施設を巡っていると必ず盤上のゲーム類(チェスや囲碁や将棋)や楽器、文芸、手工芸が展示されている。
本書は、極東のライチーハ収容所で結成され、評判になった楽劇団の関係者を訪ねてまとめたもの。
この収容所は所長らの運営方針が優れていたようで、浴場など衛生施設も整備されていた。所長ら管理者側が芸術活動を奨励したそうで、団員は肉体労働が免除され、毎日練習ができたという。
被収容者や職員、近所の住民らも彼らの舞台を心待ちにし、やんやの喝采が起こったが、僻みややっかみもあったという。
団員らも恵まれた状況をありがたいと思いつつ、飢えや疲労、病気で亡くなっていく仲間に申し訳なさを感じ続けたという。
ようやく帰国したあとも、団員らはソ連側に取り入れられた人物とみなされ、何度も尋問を受けたり、職探しに苦労したりした。なかには十年ほど警察の尾行がついた人もあったそう。
本書の舞台の収容所ではないが、評論家の山本七平と彫刻家の佐藤忠良の対談も紹介されていて興味深い。
家具職人、大工、製材職人らは、その腕を買われて仕事を与えられると、精神的に安定するのか、ピンとしていたという。
あるいは職人でなくても、木の根のようなものを探してきて、ちょっとした時間にそれを削ってパイプを作る。そうして物を作ろうとしたり、何かを創造しようとしたりすることが支えになっていたよう。
なお、本書で紹介されている、収容所で使われていたトランペットは舞鶴引揚記念館に展示されている。それがこちら。
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