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消し去られた村 リディツェに行く ~チェコ旅行2023夏(13)

チェコ旅行5日目の土曜日は、プラハ日本人学校の三浦一郎先生ご夫妻が車を出してくださり、プラハを離れて遠出しました。

ドイツ占領下、強制収容所が設けられたテレジーンという街にご一緒する計画でしたが、その途中にドイツが村ごと消し去ったリディツェ村跡があるので、よかったら寄りましょうかと言っていただきました。

先生ご夫妻は日本人学校の行事で何度も訪問されているので、私たちの見学中はお待たせすることになって申し訳ないと思いつつ、リディツェも今回の旅で必ず行こうと思っていたところなので、ありがたくそうさせていただきました。

リディツェは、プラハから車で20-30分ほどのところにあった小さな村でした。1942年、チェコを占領していたナチ・ドイツの高官ハイドリヒが暗殺されると、犯人を匿っただの犯人の出身だのといった疑いをかけられ、男性約200人は全員射殺、女性約200人や子ども約100人は連れ去られて、強制収容所に送られたり、一部の子どもはドイツに連れて行かれて養子にされたりし、村は跡形もなく破壊され、更地にされてしまいました。


この景色だけを見ていると、そんな悲劇があったとは想像しがたい


村のなかの少し高い位置にある記念館(建物前の広場は補修中)


三浦先生ご夫妻がどうぞどうぞとおっしゃってくださり、私と息子で記念館を見学してきました。

まずは事件の概要を映像で見ます。チェコ語版と英語版があるようでした。そのあと、パネルや現物の展示を見ます。

いい表現ではないかもしれませんが、スタイリッシュに展示されています。最近の雰囲気のする展示の仕方でした。



500人が暮らしていた村なのに、遺品はそうたくさん展示されていません。そのこと自体が、いかに徹底的に壊滅させられたかを物語っています。


別の建物の無料展示コーナーには、リディツェの虐殺のきっかけとなったハイドリヒ暗殺事件についての展示がありました。


この↑パネル展示↑の右側にもありますが、もう一つ、山あいのレジャーキという村も、同じ目に遭っています。住民33人(女性18人、男性15人)が殺害され、子ども13人が連れ去られました(のちにガスで殺害)。レジャーキ出身の兵士も銃殺されたそうです。

レジャーキ村もやはり完全に破壊され、地ならしされてしまいました。(レジャーキ・メモリアルのサイト)リディツェは、その後、元の村に近いところに再建されましたが、レジャーキはそのままのようです。こちらもいつか訪ねようと思います。

さて、記念館から離れて、村の跡地を歩いていくと、子どもの群像の彫像があります。犠牲になった82人の子どもたちを悼んで作られたものです。プラハの日本人学校では、例年、記念式典に参加し、この像のそばで合唱を捧げているそうです。

この像は、チェコの女性彫刻家マリエ・ウヒチローヴァさんが、犠牲となった子どもたちの像を反戦の祈りをこめて、二十年かけて作りました。日本からも秋田の二人の女性が中心となって支援を続けました。

↑この記事にも書いていますが、リディツェ村の生存者の女性2人の証言が、早乙女勝元『プラハは忘れない』(草の根出版会 1996年)に載っています。1994-95年頃に現地を訪ねて関係者と直接会って聞き取った貴重な記録です(今は発行されていなさそうです)。

こうして活字で残っていると、そのときの様子(事件当時と1990年代半ばのチェコの様子)がわかってありがたいです。次の訪問地テレジーンについても記述があります。それについては、次の記事で。

さらに進むと、数か所だけですが、かつてここが村であったことを示す痕跡があります。

村の男性たちが射殺された現場である、ホラーク家の農場の跡地。

聖マルティン教会の跡

学校の跡

バラ園には、世界中から贈られた様々なバラが植えられているそうです。広島からのバラもあるとか(早乙女勝元『プラハは忘れない』より)。

私は、こうした場所を訪れるときは快晴のことが多いこともあって、その場に立ったからといって、ぞくぞくするような恐怖や悲しみに囚われるとか、具合が悪くなるというようなことはありません。

それよりも、そのような悲劇の場を残そう、追悼の場にしよう、伝え続けよう、繰り返さないようにしようと尽力してきた人たちの苦労も含めた「場の歴史」を実感しつつ、ここまで見事に整備され、維持されている場で、恐怖や悲劇を継承していくにはどうしていくことが必要だろうと考えたりします。

リディツェでも、すばらしく美しい自然のなかをアップダウンしながら歩いて回り、やはり同じようなことを感じたのでありました。


テレジーン収容所跡へとつづく。

チェコ旅行2023夏シリーズはこちらからまとめて見ていただけます。

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