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一人ひとりの力で世界は変わる|the Blind Donkey 原川慎一郎さん

緊急事態宣言が発令され、外出自粛が呼びかけられた5月。STAY HOMEでおうち時間を過ごす方々に、少しでもCHEESE STANDらしいメッセージを届けできないかと考えて、私たちのチーズを使ってくださっているシェフの方々をお招きしたインスタライブを企画しました。テーマは「with coronavirus 飲食店の未来を語りましょう」。手前味噌ながら、自由な感性で料理を創造するシェフにご愛用いただいていることもあり、コロナ禍でもしっかりとしたビジョンで、芯のある内容になったと思っています。
 全7回のシリーズの第3回目は、東京・神田にある「the Blind Donkey」の原川慎一郎さん。インタビュアーのCHEESE STAND代表の藤川真至が、CHEESE  STANDを作るに至る上で、もっとも影響を受けたレストランのひとつであるカリフォルニア・バークレーの「シェ・パニーズ」で研修をなんども経験した原川さんに、the Blind Donkeyもテーマに掲げる「エシカルな食」について話を聞きました。(インタビュー日:2020年5月15日)

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エシカルフードと飲食店の未来とは?

――飲食業に入った時に、カルフォルニア・バークレーにある「シェ・パニーズ」に連れて行ってもらったんです。地産地消とか、顔の見える生産者ということを学んで、衝撃を受けたんです。その遺伝子を受け継いだ、しん(原川)さんや、シェフのジェローム(・ワーグ)さんたちに僕たちのチーズを使っていただけるのは、本当に嬉しいです(藤川、以下同)。

藤川くんに会った時のことは、よく覚えています。東京で「EATRIP」の野村友里さんが中心になって、2011年にシェ・パニーズのメンバーを集めた食のイベント「OPENharvest」があったんです。その頃に藤川くんが東京でCHEESE  STANDを作ろうとしているのを聞いていました。それ以来、ずっと同じ時間を歩んできたなっていう印象があります。

the Blind Donkeyは、日本の農業を盛り上げたい。自然農法とか有機農法とかありますが、農法はおいておいて、自然に歩み寄って日々農業をしている人たちを東京で紹介したい。志のある作り手さんのものを紹介しているなかで、CHEESE  STANDのチーズもお世話になっている感じです。

なので、何だか別のお店ではありますが、藤川くんとは、どこか同じような影響を受けてきたんだよな、という印象があります。

――すごくうれしいです。OPENharvestは、神山町でやったのと、東京現代美術館でやったの両方行ったんです。鹿をその場で解体したり、稲を米に脱穀したり。食ってすごくおもしろいなというのを感じたイベントでした。

しんさんも、コロナ禍でインスタライブ始められましたが、どんな心境だったんですか?

コロナ禍で時間ができたので、この機会に作り手さんとか、ものづくりをされている方の話を聞きたいなと思ったんです。この状況で、みなさんは何を思っているのか。話を聞くことで、自分を含めて不安だったり、大袈裟にいうと、光だったり、ポジティブなエネルギーを発信できたら、ちょっと明るくなれるかなと思って始めました。

――僕たちも、同じです! 僕らは、コロナによってお客さんとより密接になったと思っているんです。今後もコミュニケーションを大事にしたいなと思っています。

自分も含めて、経済を中心にし過ぎて生きてきたのかなと考えるようになりました。コロナ禍でも職業として料理はしてますけど、休みの日に料理をする時間もできました。

そうしていると「暮らし」と呼べるような時間を生きてきたのかという疑問を自分に投げかけられたような気がして。「あれ、暮らすために働くんだったよね? 生きるために働いているべきなのに、働くために生きているようになってないか?」と思うようになったんですね。立ち止まってちょっとひと息おいて、「なぜ自分は生きているのだろう」ということを考えさせてもらう時間になったと思います。

――コロナ禍の4月に雑誌のRiCEの最新号で「エシカルフード ・カタログ」という特集をされていました。そのなかでしんさんも、音楽プロデューサーの小林武史さんと森枝幹さんと鼎談されていましたね。しんさんが考える「エシカル」ってどんなことですか?

エシカルは、わかりやすくいうと「選挙に行く」みたいなことだと僕は考えています。自分の行動が、マス(集団)の中にいると埋もれてしまって、「自分の力なんて、社会に対して何の影響もない」と思ってしまうことがあると思います。だけど、やっぱり自分の一つひとつの選択というのが、社会に影響を持たせることができる。それは、食でも同じことだと思います。

――コロナ禍にあって、テイクアウトやお取り寄せが増えていく中で、とうぜんゴミも増えていって。「あれこれっていいんだっけ?」って思ったりもしたんです。RiCEの特集は、ビフォアーコロナでのお話だったと思うのですが、エシカルフードは、ウィズコロナ・アフターコロナの世界ではどうなっていくと思いますか?

テイクアウトのゴミについてはまさに、昨日知人と話したんです。テイクアウトを始めて包材を膨大に使っているけど、これどうなんだろうねって。かといって、テイクアウトやめるわけにもいかない。そこでその知人は「洗い物は減ったよ。だから水は使わなくなった」ということを話していて、別の視点で見れば違う現象が見えてきます。

ビフォーコロナ・アフターコロナの世界のことを考えるとき、バランスをもっていろいろな物事を見たり聞いたりすることが必要だと思います。それは、いまのテイクアウトの話だけじゃなくて、お店の運営の仕方だったり、暮らし方もそうだったり。「どんどん」「もっともっと」という感じで経済中心に回しすぎてきたことを見直して、バランスをどこに置いたらいいんだろうか、ということを考え直すような物事の選択をしていくことが大事なんじゃないかと思います。

そのうえで、一人ひとりの力っていうのは、すごく大きいんだよということを考えるきっかけになって欲しいです。コロナ禍を経験に、人ってすぐに忘れちゃうけど、一度立ち止まって考えて、バランスをとるという選択をすると、社会やいろいろなことが大きく変わるんじゃないかな。

――じっさいにコロナになって、良くも悪くも世界は、こんなに一気に変われるんだ、ということがわかりましたよね。

そうだよね。コロナになって、東京の空気がめちゃくちゃきれいになったと思うんです。たかだか2週間くらいで、すがすがしいみたいな。みんながポジティブになればまだまだ変えられるパワーがあることを、コロナが証明してくれたと僕は思っています。

みんな一人ひとりが力をもっているということを知ったことは、改めて歩みだすとき自分の選択することが大事になりますよね。あとは、楽しみながらやっていけたら、ビフォーコロナ・アフターコロナの時代は、また面白い時代になりうるんじゃないかと思います。SDGsのこともポジティブに進められる可能性を秘めていると期待しています。

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エシカルな消費がなにを起こすのか

――生産者さんのところに、コロナ後も行きたいと思いますか?

もちろん。レストランで食材を日々使わせてもらっていて、僕たちがものづくりをするときのモチベーションになるので、産地巡りは欠かせないものです。ただ、気をつけなければいけないのは、時間があるから農家に手伝いにこう思っても、関東圏から行くと難色を示される方もいらっしゃいます。自分のことだけではないので、そのあたりは様子を見ながらとは思いますね。

――産地を知っていることで情景が浮かぶ、思いが浮かぶというか。自分が見た景色だったり、生産者さんの話を聞いたりとかすると、すごく思いが伝わってくる。僕らも産地巡りは続けていきたいと思っています。

それと今は、「何を誰から買うか」を意識しています。

思いのある人のコーヒーを買うとか。そういうことの積み上げによって選ぶときの選択基準ができればと思います。「CRAFTSMAN × SHIP」っていう、ものづくりをしている人が集うコミュニティを作っていこうと考えていて。自分が食べること、体に入れることは、自分自身に影響があるし、それが環境だったり、社会の仕組みに対しても影響があるから、それをちょっとでも頭の片隅に置いてほしいなぁと思います。

おいしいのは本当に大事ですよね。それに加えて、「この買い物をすると実際どういう影響があるんだろう」ということを、もうちょっと思って欲しいですね。あまり難しく考える必要もないと思うんです。ただ、意識を持って選択するということを、ひとつでも多くやってみる。その積み重ねが、実は社会の大きな仕組みや環境へのインパクトが生まれるんだと思いますね。

――しんさんのような方が自ら発信して、多くの人に気づいてもらうことも大事ですよね。さらにサービスマンもこれから大事になると思うのですが、ポストコロナのサービスってどうなると思いますか?

文化の違いなのか分からないですけど、日本ではシェフがすごく注目を浴びがち。だけど、サービスってむちゃくちゃ大事ですよね。同じ料理が出てきても、「はいっ」って渡されるのと、気持ちを込めて渡されるのでは、おいしさがまったく変わるじゃないですか。

いま、テイクアウトのお渡しをマスクしながらやっています。お客さまもマスクをされているので、お互い表情が見れない。渡すだけで、コミュニケーションがなかなかとれないんですよね。サービスする時間が限られると、やっている人間としての物足りなさ、淋しさがあります。

――飲食店のコミュニケーションって、サービスが占める割合が高いと思うんです。コロナ禍でコミュニケーションが限られたなかで、サービスの大事さを痛感しますよね。

そうだよね。レストランや外食は、それぞれの用途でシーンがある。その時間と空間を体験しにレストランに行っているんだと思うんです。僕はサービス以前に料理をしていたけど、そのときも食事をしている2時間や3時間という時間は、舞台やステージで場を作っているような感覚でやっていたなぁ。それはお客さんがオーディエンスであり、演じる役割のひとつであると捉えている。そうするとお客さまも大事だし、お客さまの空気も大事だと思う。

もちろんこちら側のエネルギーや、照明の明るさ、音楽、その音量、料理の音とか、すべてのことがレストランの時間を作っている。そのなかで、空間を作ることが僕は好きなんだよね。すべてがレストランに必要で、料理はそのうちの大事な一つであるととらえているんです。それらのバランスをとって、居心地のいい空間を作れるのがサービスだと思いますね。

――お客さまからいただくごあいさつひとつで、僕たちもすごくうれしく感じたりしますからね。みんなで空間を作っている感覚は、CHEESE  STANDも同じです。

チーズ作りはルーティーンに見えて毎日違う

僕からも、藤川くんに質問させてくださいよ(笑)。

――もちろん何でも聞いてください!

CHEESE STANDのチーズは、年々おいしくなっていて、明らかに変化や進歩をしていると思うんです。藤川くんが8年間、よりおいしいチーズを作り続けられるモチベーションって、どんなことなのかな? 最終的に思い描いているモッツァレラとかリコッタがあって、それに向かって作り続けている感じなのですか? 

――チーズ作りは、牛乳の状態やその日の気候など、毎日違うので、それがモチベーションになっています。

モッツァレラに関しては、おいしくなったとはいえ、イタリアで食べたやわらかさとかには近づけていないと自分では思っています。なので、他のモッツアレラと食べ比べたり、工房に見学させてもらったりしながら、ひとつずつ良くしている感じです。

なので、モッツァレラについては、大きな理想があって、そこに調整しながら辿りつくのを目指している感じです。

一方のリコッタやブッラータは、ある程度おいしく作る行程はできたと自負しています。おいしいものを作り続けていこうというのがモチベーションになっていますね。

チーズ作りを通じて伝えたいことなどもあるの?

――ありがたいことに多くの方に食べていただいてるとはいえ、まだ食べてもらえていない方がいらっしゃると思っています。僕たちのチーズを通じてチーズのおいしさ、新しい価値というのは伝えていきたいたな、と思います。それは僕の軸になっていると思っています。

渋谷で毎朝3時から作ってるんですからね。なかなかないですよ。ぜひ、たくさんの方に味わってもてもらいたい。僕が味を伝えるよりも、体感してもらうのが一番いいですよ(笑)。

――しんさんにそう言ってもらえるの、すごくうれしいです。じつは、今年1月に農水省の補助事業で、イタリアにチーズ作りの研修に行ってきたんですよ。そのときに、作り方を見直したのでまたおいしくなってきている気がしています。

ええ、またおいしくなっちゃったんですか? リコッタもめっちゃおいしくなってますよね。これはお世辞じゃなくて。僕お世辞いえないんですよね。だから、これ本当のことですよ!

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Shinichiro Harakawa

東京、フランスのレストランやビストロでのキャリアを経て、2012年に目黒に「BEARD」をオープン。カリフォルニアのシェフ達と交流が深く、毎年シェ・パニースで研修も行った。「BEARD」が2017年8月に閉店した後、「シェ・パニーズ」の元料理長のジェローム・ワーグ氏とともに神田に同年「the Blind Donkey」をオープンさせた。

CHEEASE STANDのオウンドメディア「CHEEASE STAND media」でも原川さんの記事を読むことができます!

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with coronavirus 飲食店の未来を語りましょう」の第4回は、東京・北参道のレストラン「シンシア」の石井真介さんを予定しています。CHEESE STAND公式noteをフォローしていただいて、次回もお見逃しないようにしてくださいね!

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文・構成=江六前一郎


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