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田中耕太郎の心変わり

砂川事件の時の最高裁長官として知られる田中耕太郎の評伝を読んだよ。東大教授の政治学者の牧原出さんが何年か前に出したものだね。この砂川事件で、集団的自衛権が合憲とされているということが、安倍内閣時代の、集団的自衛権の部分容認の根拠となったっていう話を、当時自民党の重鎮だった高村さんが回顧録で書いているね。

この辺のところは立派なんだけれども、ちょっと気になったのは、教育基本法を制定するときのこの人の振る舞いだね。それまでは教育勅語を支持していて、戦後も続けるべきだと言っていたんだけれど、GHQがやってきて憲法を作ると、手のひらを返したように教育勅語をあきらめてしまうんだよね。別に教育勅語が最高に素晴らしいとは思わないけれども、これはもともと石田心学で知られる石田梅岩の教えを取り入れたもので、8割位は石田心学から取り入れられているらしいね。このことは、山本七平の「勤勉の哲学」に書いてあるんだけどね。これは日本の思想には珍しい自助努力の教えで、二宮尊徳の教えや、中村正直が訳したスマイルズの「自助論」と並んで、明治以降の日本人が刻苦勉励することになった大事な考え方だよね。田中氏が、コロコロコと方針を変えていくところは、ちょっと気になるね。

ただ、教育基本法の第1条に、教育は人格の完成を目指しとあるけれども、この人格の完成と言うのは、当時文部大臣だったこの人が入れるように強く主張したから入ったようだね。とても勉強になったのは、この人格と言うのは、神への信仰を通じて全体性を求めて、それによって完成に至ると考えていたカトリックの哲学者、ジャックマリタンの人格概念から来ているんだね。

この人は、共産主義には徹底的に反対していたけど、共産党員の友人が捕まえられて入獄すると、奥さんを通じて密かに差し入れをしていたそうだから、とても立派なところがある人だよね。この人は、もともと内村鑑三の弟子で、その後内村と喧嘩してカトリックになった人なんだけどね。

この人は、死んだ後で、一体どこの世界に還っているのかな。閻魔大王にでもなって、地獄のお裁きをつかさどっているのなら、失礼なことを言わない方がいいよね。ちなみに、この奥さんは、ご主人が亡くなった後で、修道院に入っているんだね。これも素敵な生き方だね。

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