君の行方 【明智光秀】-天下統一 恋の乱- ✎
ヒロインの名は陽菜です。
「比叡山を焼き討ちに処す」
「御屋形様!お待ちください」
私、明智光秀は声を荒らげ、御屋形様の前に出た。
「人質はどうするのですか?」
「見殺しにする」
冷たく言い放たれた言葉に、全身に寒気が走った。
「陽菜は…陽菜を見殺しにされると…」
陽菜は私の大切な人だ。
それを知った朝倉に、人質に取られてしまったのだ。
「女一人の為に計画は変えぬ。それとも貴様は戦に色恋を持ち込むと言うのか?」
「…」
私は唇を強く噛んだ。
口の中に鉄の味が広がっていく。
「光秀、貴様には比叡山焼き討ちの命を与える」
冷水を浴びせられように体が冷えていく。
身体の震えが止まらない。
「私に陽菜をみすみす見殺しにしろと…そうおっしゃるのですか?」
「だったらなんだと言うのだ」
顔を上げると御屋形様は冷たい目で私を見下ろしていた。
「御屋形様!俺を別部隊として…」
「ならぬ!」
陽菜の幼馴染である利家が堪らず声を上げたが、御屋形様の冷たい声に遮られる。
「比叡山に居る者は全て焼き払え。光秀…貴様の手でな」
御屋形様は冷たく言い放ち、その場を立ち去った。
「私は…どうしたら」
もう迷う時間は無かった。
比叡山は目の前にあり、合図を送れば火が放たれる手筈だ。
(こちらの策が漏れる事を恐れ、朝倉に探りを入れる事すら出来なかった…)
火が放たれた後、業火の中に飛び込み陽菜を探す事も出来る。
だが、それでは罪無き民や民兵を安全な場所に誘導する事が出来ない。
(陽菜と多くの命…どちらかを選べと言われれば、どちらを選ぶか心は決まっている。しかし…)
静まり返る闇の中で影が動いた。
「比叡山の僧兵か?!」
瞬時に刀を抜き構えると、その影は手を上げながら私の前に立ちはだかった。
「秀吉…」
「気配は消したつもりだったけど、さすが光秀さん、誤魔化せなかったか」
おどけた様子に気を削がれ、刀を下ろす。
「一体何故此処に?」
「御屋形様の命です」
「まさか…」
(私が裏切らぬように秀吉を…)
「火を放ったら混乱に便乗して陽菜ちゃんを助けに行ってください。俺が罪無き人達を安全な所に誘導します」
御屋形様の命とは俄に信じられず困惑していると、秀吉は私の肩を強く掴んだ。
「時間が無い。比叡山側に気取られる前に!」
私は頷き、比叡山の方を睨んだ。
「火を放て」
やがて小さな火は炎となり、比叡山を赤く染め始める。
「秀吉、感謝します」
「礼なら御屋形様に。武運を祈ります」
私は燃える延暦寺と走り出した。
混乱の中抵抗する僧兵を倒しながら陽菜を探す。
炎が広がる最中、焦りだけが募っていく。
そんな中、男女の諍う声が聞こえた。
(まさか…)
「陽菜!」
「光秀様!」
陽菜の傍らには朝倉義景がいた。
朝倉は私の存在に気づき、陽菜を引き寄せてその白い喉元に刃を当てた。
「ははっ…ついてやがる。貴様の首を差し出せば、あの織田信長も動揺し戦力が削がれるだろう。刀を捨てろ。さすれば女は助けてやる」
「くっ…」
私は静かに刀を手放した。
「ははっ!こりゃあ良い!第六天魔王の側近とあろうものが、女一人の為に命を差し出すとはな!」
陽菜はもがく事も出来ず、その顔に恐怖を浮かべている。
朝倉は陽菜を盾にしたまま私の刀に近づき、足でそれを蹴り飛ばした。
「明智!死ねぃ!女は後で貴様の元に送ってやるわ!」
陽菜を突き飛ばした朝倉は、私へと斬りかかってきた。
「ぐっ…」
「光秀様!」
私の脇腹に刃が食い込む。
しかし次の瞬間、私の右手は朝倉の首を掴み締め上げていた。
「ぐふっ」
喘ぐ朝倉を私は冷たい眼差しで見上げる。
「信長様はその様な事で心乱すほど、弱い方ではありません。だからこそ私はあの御方についていくと決めたのです。あの御方を見くびらないでいただきたい」
「かはっ」
苦しげな顔をする朝倉の首にかけた手に、さらに力を込める。
「陽菜触れ、あまつさえ盾にするなど…この下衆が」
「がっ…」
朝倉は口から泡を吹き意識を手放したと同時に、朝倉を体を放り投げる。
ドサリと朝倉が倒れると、陽菜が私の元へと駆け寄ってきた。
「光秀様!」
「陽菜!」
私の胸の中に飛び込む小さな体を、私は強く抱きしめた。
「遅くなりました…怪我はありませんか?」
「いいえ…光秀様が来てくれたおかげで大丈夫です」
揺れる瞳に愛おしさが募る。
「私が…怖くありませんか?」
一瞬戸惑う様な眼差しを向けたものの、陽菜は頭を振り精一杯の笑みを浮かべる。
「光秀様が守ってくださいました。だから…怖くはありません」
そう言って私にしがみつく。
そんな彼女を愛おしく想い、私は強く抱きしめた。
「さぁ、帰りましょう」
「はい…」
燃え盛る炎の中、そう呟く陽菜の言葉を塞ぐように私は唇を重ねた。
延暦寺を出ると、燃え盛る比叡山を見つめる御屋形様がいた。
「御屋形様…」
「光秀、貴様の目的は果たしたようだな」
御屋形様は私の傍らにいる陽菜へと視線を走らせる。
「貴様の葛藤する姿をもう少し楽しもうと思ったが、女に死なれて意気消沈する貴様など使い物にならぬかな」
「御屋形様、恩情感謝します」
「単なる気紛れだ」
隣の陽菜も慌てて頭を下げる。
「信長様、有難うございました」
「女…」
「はっはい」
「動けるのなら怪我人の手当をしろ。今は猫の手も借りたいくらいだからな」
「はい!」
薄く笑みを浮かべた御屋形様は私達に背を向け歩き出す。
「陽菜、行きましょう」
「はい」
私達は固く手を結び、燃え盛る比叡山を後にするのだった。
ꕀ꙳
動画【君の行方】のワンシーンを文字にしてみました。
歴史に詳しい方が見たら穴だらけだと思うのですが(*/ω\*)なんにせ私は似非歴女なので。
光秀さまは優しい印象なのですが、敢えて容赦ない様を書きましたが…如何だったでしょうか?
光秀は『下衆』なんて言葉は使わないだろうなぁと思いながら、わざと書きました。
信長さまも甘いなぁと思いつつ(〃ω〃)エヘヘ。
信長さまは本当はちゃんと優しい人だからね。
書いてから思い出したけど、光秀さまの本編のラストって比叡山の焼き討ちの話で、浅井長政殿と対決するんだよね(確か)
さらっと公式の小説で確認したら、綺麗にまとめたなぁって感じだった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?