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「ユーザーフォーカスにとことんこだわること」 バーティカルSaaSの成長戦略と日本の宿泊業界について 【DNX×Check Inn対談】

Check Innは、宿泊業界向けに予約・在庫管理・客室管理などを中心としたオールインワンSaaS事業を展開している企業です。

Check Innは、2023年9月1日にプレシリーズAのファイナンスとして、1億円の資金調達を発表しました。

そこで今回は、”バーティカルSaaSと日本の宿泊業界”をテーマとして、今回の共同リード投資家でもあるDNX Venturesマネージングパートナー/日本代表の倉林陽氏とCheck Inn CEOの田中との対談を行いました。

バーティカルSaaSの特徴や成功のカギ、宿泊業界の展望などについて、Check Innの話を交えて語ります。

▲DNX Ventures Managing Partner / Head of Japan  倉林陽
Salesforce Ventures、Globespan Capital Partnersの日本代表を歴任。2015年3月よりDNX Venturesに参画し、Managing Partnerに就任。の主な過去の投資、支援先はSansan、マネーフォワード、チームスピリットなど

目次


投資の背景について

田中:
本日は宜しくお願いします!
まずは今回の投資に至った背景からお伺いしたいです。

倉林氏(以下倉林):
初めに田中さんから話を聞いたとき、良いところに目を付けたなと感じたのが第一印象です。
僕は公然と言っていますが、市場の初期段階の小ささはあまり気にしません。よくTAMが小さいという理由でスタートアップが批判されることがありますが、実際にTAMの限界まで成長したが、そこで壁にぶつかる会社にはお目にかかったことがありません。優れたスタートアップは初期に構築した基盤を活用して次の市場を見出すと思っています。

田中:
そういう視点は新鮮でした。今まではずっと、サービスはコンセプトわかるし、業界構造の問題もわかるんだけど、この単価だとなかなかARR100億とかは単体のサービスだと難しいよねっていう議論になることがすごく多かったので。市場の大きさについての議論が多い中、DNXさんとの会話ではそういったことは一切出てこなかったのが印象的でした。

倉林:
そうですね。単に市場の規模だけではなく、シングルプロダクトでもお客様のセグメントやコホートについて詳しく分析することで、特定の業界を総取りするなどの方が意味を持つと考えています。

初対面時の印象について

田中:
初めてお話ししたときの印象は、いかがでしたか?

倉林:
最初の印象は、チームが非常に若いということでした。近年、20代中盤の若者が投資先に増えてきました。その中で皆さんに共通しているのはテクノロジーに精通していることです。日本ではテクノロジーバックグラウンドのアントレプレナーはまだまだ少ないなかで、デジタルネイティブな人が増えることは日本のスタートアップにとって良い兆しです。

逆に言うと技術だけではダメで、アントレプレナーシップも非常に重要です。若い起業家の方々はまだ成長余地が大きいので、皆さんにはもっと挑戦してほしいと思っています。
そんな中で面白いなと思ったのは、田中さんの経歴です。学生時代からプライシング関連のスタートアップをやっていたんですよね?

田中:
そうです、プライシングスタジオという会社で創業エンジニアをしていました。

倉林:
日本のスタートアップ経営者の方ってやっぱり経験がないんですよね。総合商社を辞めて起業する人や、コンサルティング会社を退職して起業する人も起業家としては1回目なので色々な壁にぶつかります。
なので、既にスタートアップの立ち上げ経験があることも魅力的でした。

バーティカルSaaSの魅力とは?

田中:
それでは、事業や業界について話していきたいと思います。
まずは、バーティカルSaaSの魅力について教えていただきたいです!

倉林:
バーティカルSaaSには圧倒的なメリットがあります。最大の強みは、競合の少なさと市場の特異性です。
もちろん、ホリゾンタル SaaSにも素晴らしい企業が多数ありますが、例えばSalesforce Japanのような大手と競合するのは大変です。
しかし、バーティカルSaaSの場合はそのような巨大な競合がほとんど存在しないのが魅力です。

田中:
それは確かに大きなメリットですね。

倉林:
また、人材の採用についてホリゾンタル SaaS企業と比較した場合、有利な点があります。
特に、社会性を訴えやすいようなバーティカルSaaS企業の場合、求職者からの注目度が高まるため、採用の成功率が上がります。

田中:
採用という面では、業界特化の基幹システムなどは地味なイメージで採用が難しいという印象があるため、そこは意外でした。

倉林:
バーティカルSaaS企業の場合、特定の業界のペインポイントを解決することがメインのミッションとなります。
強力なミッションを持つ企業は、その業界の人を含め、何らかの業界を良くしたいという想いを持つ人を集めることが出来るため、人材採用においても非常に魅力的に映りリテンションが高まるとともに、市場占有率も向上します。

さらに、バーティカルSaaSの場合は特定の市場や業界に特化しているため、競合との価格競争が少なく、最終的に利益率を向上させることが比較的容易に見えます。
特に、バーティカルSaaSが市場占有率を高めることができれば、企業価値を大きく高めることができることは確認されています。

田中:
確かに、日本の宿泊業界は海外と比べて独特な特徴を持っています。
例えば、海外では部屋を予約する際に部屋売りが一般的ですが、日本では旅館を中心に1泊2食付きでの販売が主流であり、海外のツールとは全く異なる仕組みが求められます。
このような特異な商習慣を持つ業界に特化したバーティカルSaaSは、非常に大きな価値を持つと考えています。つまり 、バーティカルならではの特長を活かしたビジネスモデルが肝になりますね。

倉林:
まさにその通りです。最終的には、市場占有率の向上と、それに伴うビジネスの拡大が最も重要です。バーティカルSaaSの最大の魅力は、その可能性にあります。

バーティカルSaaSを成功させるために必要なこと

田中:
バーティカルSaaSを成功させるために必要なことはなんでしょうか?

倉林
:
バーティカルSaaSの成功の鍵は、しっかりと顧客のニーズに合わせたプロダクトを作ることに尽きます。
プロダクトがPMFしてない時に営業人材を増やすと、その営業人材も存在意義を見せるためにいろんなセグメントに売りに行き、結果としてPMFから遠ざかります。
エクスパンションステージになったら、一気に営業人材を増やせばいいので、まずはその手前をしっかり丁寧に作り込むことが重要です。

後はとにかく占有率ですね。海外のバーティカルSaaSでバリエーションが高いところは、市場シェアが高いんですよ。市場の50%以上を押さえているような企業も存在します。一方ホリゾンタルSaaSの場合、20-30%程度で止まってしまうことが多い。

バーティカルSaaSの場合は、6割くらい獲れている会社もあって、そうなると無敵な状態です。
よってバーティカルSaaSをやるんだったら、とにかく市場占有率にこだわることが大事ですね。
また、市場占有率の観点で言うと、M&Aも大事ですね。それはホリゾンタルも一緒ですが、隣接領域に将来やろうと思ってたサービスやビジネスが出てきたら、投資やM&Aを検討することになります。
こうしたM&Aを通じた成長はバーティカルSaaSでもすごく大事だと思います。
とにかくSaaSだけで終わらないので、SaaSだけで将来を描く必要はありません。そういう視点で業界を捉えて、事業のフェーズ2、フェーズ3を最初から描けること、SaaSを含めた様々なビジネスを作れる構想力とプロダクトの磨き込み、業界理解が重要ですね。

トラベルテック領域が抱える課題とは?

田中:
続いて、トラベルテック領域の課題感について見解をお伺いしていきたいです。

トラベルテック領域、特に日本の宿泊業界では、業務を運営するにあたり非常に多くのツールを導入する必要があります。海外ではオールインワンツールが主流ですが、日本はサイトコントローラーを軸として5~10個のツールを利用しなければならず、海外に比べてかなりガラパゴス化している現状です。
先日も有馬温泉にてとある宿泊施設様で2~3週間業務を体験させていただいたんですが、 ツールを4、5個入れていて、それを全てサイトコントローラーに繋げているという状況です。
大規模な施設になればなるほど、それぞれの業務に併せて別々のツールを使っているため、そこに貯まるデータを取り出しにくく、ダイナミックプライシングもやり辛いし、データを使った経営もできません。

逆に小規模の施設の場合は、ツールに十分なコストをかけられないため、紙やエクセルを利用せざるを得ない状況になっており、結果としてオペレーションが煩雑になってるということが課題感としてあります。

様々な業界に投資されてきた倉林さんから見て、宿泊業界にどのようなイメージを持っていらっしゃいますか?

倉林:
私が思うに、宿泊業界はまだまだDX化が進んでいないと感じます。
宿泊者目線でも、オンラインの大手予約サイトで既に予約情報を入力したにも関わらず、ホテルで再度手書きの情報入力が求められるのは効率が悪いと感じることが多々あります。

その経験からもバックエンドがデジタル化されていないことが読み取れますし、地域や周辺の飲食店などと連動したらより良いサービスやユーザー体験を提供できるはずです。しかしながら、データが分散して細切れになっていることで、機会損失が発生しているというところまでは想像できます。

加えて、複数のツールを連携させて使わざるを得ない業界構造を知り、オールインワンのサービスによって、ユーザーも宿泊施設側にも大きなメリットがあるということを感じています。

既存の業界構造に産業の成熟が追いつかず、結果的にユーザーと宿泊施設の双方に負が生じているため、これまでにないオールインワンのサービスが普及することで、ユーザーと宿泊施設の双方がメリットを享受できると思います。

田中:
他の業界でも同様の事例や課題はあるのでしょうか?

倉林:
例えば、クラウド会計業界では、伝統的なパッケージソフトウェアの企業が多く存在しています。彼らは、変わることなく、既存のビジネスモデルを何十年も続けていました。しかし、新しいプレーヤーが市場に参入することで、業界全体のイノベーションが促進されました。

「Check Inn」の今後とトラベルテックの可能性について

田中:
Check Innへの今後の期待をお聞きしたいです。

倉林:
私はいろんなバーティカルSaaSの会社を見てきましたが、ホテル・宿泊領域には非常に大きなポテンシャルを感じています。
日本が観光立国としての成長を続ける中で、Check Innがそのリーダー的役割を果たすと期待しています。
あとはそれに合わせてチーム全員がどんどん貪欲に吸収していっていただいて、ワールドクラスのスタートアップ経営者に成長していくことにも期待しています。

田中:
そのような言葉をいただけると大変励みになります。ありがとうございます。
確かに、インバウンド観光の回復という大きなチャンスが再び訪れていますからね。

倉林:
まさにその通り。インバウンドの回復は大きな追い風となっており、これをサポートするシステムやインフラの必要性が増しています。その中で、Check Innがどれだけそのニーズに応えられるかが重要です。

田中:
その点に関しても、我々はまだプロダクト戦略の初期段階にありますが、しっかりと顧客ニーズを捉えていきたいと考えています。

倉林:
焦る必要はありません。まずはしっかりとリーチできる範囲で、ユーザーフォーカスしたセグメントにプロダクトを提供し、その価値をしっかり伝えることが大切です。私が見てきた中で、初速を重視しすぎるSaaSは多いですが、真に重要なのは顧客のエンゲージメントをしっかり実現することです。

田中:
その視点は大切にしたいと思います。ありがとうございました!

Check Innに興味のある方はぜひカジュアルにお話させてください!

採用情報:Check Inn採用ページ