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世界遺産検定マイスター試験合格記

こんばんは、チェ・ブンブンです。

この度、世界遺産検定マイスター試験に合格した。世界遺産マイスター試験とは、NPO法人 世界遺産アカデミーが主催する試験。

世界遺産について解説できるレベルだけでなく、世界遺産が抱える問題を分析しその改善点を考えられることが求められる。1級までは選択肢方式で知識を問われるのだが、マイスター試験では全て記述式となっている。問題に対し、適切に例となる世界遺産を提示し論じていく必要があるのだ。1級の合格率が20%ぐらいなのに対し、マイスター試験は40~50%ほど。1級合格者にとってマイスター試験は簡単なのだろうか?

答えは「否」である。

私自身、2回落ちている。映画ライター、ブロガーとして毎日数千字もの文章を書いているだけに、論述試験には自信があったのだがあっさり落とされてしまったのだ。

合格証を見た時、涙しました。

そんな私がついに合格の切符を手にすることができた。

今後、マイスター試験を受ける方のために勉強方法を書いておこうと思う。


★試験構成

まず、試験の構成から説明する。

マイスター試験は大きく分けて3つの設問から成り立っている。

◾️大問1:語句説明

世界遺産の基礎知識に関して説明が求められる。出題の90%はテキストに書かれているものである。ただし、50字程度で説明しないといけないので、本質的なポイントを2点押さえて書く必要がある。そのため、事前に単語帳を作っておかないと、50字にまとめられず詰む。

◾️大問2:世界遺産条約問題

世界遺産条約について4つのキーワードを用いて400字以内で記述する問題。一番簡単な問題でどんなキーワードが来ても同じような書き方になるので、2パターンぐらい用意すれば十分対応可能だ。

◾️大問3:時事問題

ここ半年ぐらいの世界遺産にまつわるニュースから出題され、1,200字で自分の論を展開する必要がある。完全な運ゲーである。また世界遺産ニュースネタは調べていても、当たらないことが多く2023年7月に出題された以下の問題には度肝を抜かれた。

『古都奈良の文化財』の平城宮跡を横切る近鉄奈良線の遺跡外への移設が、2021 年に鉄 道事業社と奈良県、奈良市の間で合意された。しかし 2023 年 4 月、奈良県に新知事が 就任し、当該事業の予算執行が停止となった(2023 年 5 月時点)。鉄道移設は遺産の景 観保護と、踏切改良による近隣の渋滞解消が目的であったが、総事業費として約 2,000 億円が見込まれる大規模事業であった。この鉄道移設事業についてどのように考えるか、 鉄道移設に対する賛否を示したうえで、その根拠や具体的な事例、比較となる世界遺産 の例を挙げながら、1,200 字以内で論じなさい。

第52回 世界遺産検定 マイスター試験より引用

対策1:単語帳作成(大問1)

50字説明用の単語帳を作成した

まず、大問1対策だ。これは簡単だ。テキストに掲載されている世界遺産の基礎単語をすべて50字で説明し直した単語帳を作成するに尽きる。正直、面倒くさいです。単語帳作成だけで3時間ぐらいかかります。しかも分かっていることがほとんどなのでやる気が出ません。でも全て作っておかないと当日痛い目を見ます。実際に、今回の試験では文化的景観の説明ページに記述されていた「有機的に進化する景観」についての説明が求められた。なので、腹を括って全て単語帳にまとめましょう。


対策2:世界遺産条約のフレーム作成(大問2)

大問2の世界遺産条約の説明はどんなキーワードが来ても対応できるようにフレームワークを作っておくと良いだろう。

個人的に以下の3部構成でフレームを作った。どんなキーワードが来てもこのフレームを用いることで円滑に記述を完了させることが可能となった。

①世界遺産条約の説明
 ▶︎ダム開発によるヌビア遺跡水没の危機と「従来とは異なる新たな破壊の脅威」を結びつける

②条約の内容(危機遺産リスト、世界遺産基金、教育事業計画)
 ▶︎他者の無理解から遺産や自然の破壊が発生しているので教育・広報活動に力を入れている旨を明記

③昨今の問題(世界遺産基金の減少)
 ▶︎アメリカのユネスコ脱退により世界遺産基金の減少が問題となっている。

対策3:世界遺産委員会のwikiを熟読(大問3)

問題は大問3である。これは、世界遺産が抱える問題について建設的に議論する必要がある。単なる政治批判を行ったり、単語を羅列するだけでは受からない。また、論述形式なので改行一字下げを行う必要がある。

そんな大問3、どのように情報収集をすれば良いのだろうか?1年半近くかけて友人と研究を重ねた結果、世界遺産委員会のwikiページが有効だということに気づいた。世界遺産委員会のwikiページは新書レベルに膨大な文量となっており、世界遺産の登録理由だけでなく、世界遺産が抱える問題と対策が事細かく記載されているのだ。つまりネタの宝庫と言える。

実際に今回のテストで、「記憶の場」が抱える課題の具体例を提示する局面では、wikiに記載されていたESMA「記憶の場所」博物館がアルゼンチン大統領選挙で利用されている事例を取り上げた。

論述では適切な例を出せれば良いので、wikiを読み、いくつか問いを立てて答えていくだけでも十分と言える。

対策4:参考資料

とはいっても、それだけだと心配に感じる人もいるだろう。そこで、勉強に使って参考になった本をいくつか紹介する。

◾️『なぜ富士山は世界遺産になったのか』(小田全宏)

2022年12月に行われた世界遺産検定マイスター試験では次のような問題が出題された。

『富士山-信仰の対象と芸術の源泉』にある富士山では、登山鉄道を整備する計画があ る。世界遺産としての富士山の遺産価値や抱えている課題を考えた時、登山鉄道の整備がプラスとなる点と懸念される点の両方が考えられる。そのプラスとなる点を増やして いくためにはどうしたらよいか、具体的な事例や比較となる世界遺産の例を挙げながら、 1,200 字以内で論じなさい。

世界遺産検定サイトより引用

これに対して、私は富士山を複合遺産に拡張するための開発といった路線で論じた。しかし、富士山はそもそも自然遺産としての価値はないとIUCNから判断されており、文化遺産としての登録を行った遺産である。テキストには書いていないのだが、世界遺産登録プロセスの内部にいる人からすると頓珍漢な解答をしてしまった。こうした専門家からみて的外れな解答をしてしまうと不合格になる。裏を返せば、専門家の本を読むことで適切な論を展開できるのだ。

ルネッサンス・ユニバーシティ代表取締役である小田全宏が富士山の世界遺産登録ミッションに取り組んだプロセスについて書かれた本書を読むことで、現場のリアルな感覚が掴める。サクッと1時間ぐらいで読めるのでオススメだ。

◾️消滅危機世界遺産: 人類が破壊した23の遺跡(ペーテル・エークハウト)

バーミヤン渓谷の文化的景観と古代遺跡群やナスカの地上絵などといった遺跡が抱える意外と知られていない問題が数多く取り上げられている。ここで書かれた問題に対して、自分なりの解答を書いていくことにより基礎体力がつくといえる。堅い本のように見えるが、唐突にピラミッドの上でSEXをした事件が取り上げられるお茶目さもあって個人的に好きである。

◾️羊飼いの暮らし イギリス湖水地方の四季(ジェイムズ・リーバンクス)

世界遺産「イギリス湖水地方」は、自然遺産に見えるが文化遺産である。18世紀以降、風景に絵画的価値を見出す運動「ピクチャレスク」の中で山や湖と庭園や公園の調和が作られたことが評価され、2017年に世界遺産登録となった。

しかし、それは外部からもたらされたもので、代々イギリス湖水地方に住んでいた者からすると「造られたイメージ」に過ぎないと語る者がいる。ユネスコ世界遺産・持続可能な観光プログラムアドバイザーであるジェイムズ・リーバンクスだ。彼は自伝である『羊飼いの暮らし イギリス湖水地方の四季』にて、古くからこの地に住む者の目線から観光化する世界遺産の問題点を鋭く指摘している。

◾️世界遺産で考える5つの現在(宮澤光)

世界遺産検定サイトにて研究員ブログ記事をアップしている宮澤光である。宮澤さんの文章は、小学生でもわかるような平易な文章で複雑な政治事情や最新の世界遺産事情を教えてくれるため参考にしている。そんな彼が、パレスチナ問題や都市開発、オーバーツーリズムなどといった観点から世界遺産を読み解くのが本書である。

実際に読んでみると、世界遺産を考えるアプローチのヒントがたくさん眠っていた。特に、アクチュアルな問題であるパレスチナとイスラエルの対立も分かりやすく書かれているのでオススメだ。

◾️世界遺産カレッジの動画

世界遺産検定マイスター合格者の動画や記事を漁っていたら、YouTubeの世界遺産カレッジが提供している動画群がテストの役に立った。大問3に「記憶の場」が出題されると予言し見事的中していることからも有益なチャンネルといえよう。


ここからは有料だが、実際のテストの再現解答と大問3の予想問題を掲載する。

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