【エッセイ】 キッザニアにて、重体の男性の視点
緊急事態宣言が一応、解除されたので、念願だったキッザニアに行きました。
娘は医者になるのが夢らしく、病院のコーナーにて受付をしました。
手術をしたかったらしく、人の内臓をギッチギチにいじる気マンマンだったのだが、救急隊員しか空きがなく、それに登録した。
時間になり、5歳と3歳の娘は小型の救急車に乗り、ピーポーとけたたましくサイレンを鳴らしながら、現場に急行した。
急行と言っても、大人がテクテクと歩けば追いつくスピードです。
現場に着いて救命活動があまりに衝撃的だったので、『倒れている人形の男性の視点』で小説風に伝えます。
――薄れゆく意識の中で――
急に体調が悪くなり、道端に倒れこんでしまった、俺。
なんとかポケットからスマホを取り出し、119へ電話した。
もう起き上がる事もできず、仰向けに倒れこんでしまった。
冷たいアスファルトが俺の背中に張り付いている。
―もう…ダメかもしれない…。
そう思っていたら、遠くからサイレンの音が!
助かったぁ……。
段々と近づく救急車。
あれっ……小っちゃくないか…。
救急車のサイズが軽ワゴンぐらいの大きさ。
こんなに頼りなかったっけ……救急車って……。
救急車の運転席から隊員が降り、後ろの扉を開けた。
「さぁ、こちらです、いらしてください」
ジャンプすれば普通に降りられる高さなのに、階段を設置している隊員。
態度も、うやうやしい。
大病院の名医みたいな人が出てくるのかな、と思っていたら、幼稚園児の女の子が二人、降りてきた。
「子供かぁーい!」
しかも、サイズが合わないらしくダボダボの服を引きづりながら降りている。
3歳ぐらいの子が階段が怖いとか言って隊員に抱っこして降ろしてもらっている。
早く! 早く俺を助けてくれぇぇ!
だけれど、二人の幼児の隊員は俺が怖いらしく、近づいてくれない。
周りの人だかりの大人たちに「頑張れぇぇ」と声援を送ってもらい、なんとか俺の横にまで来てくれた。
ヨイショッと。
3歳の女の子が俺の顔の隣で、お尻からつま先までべったり地面につけて座り込んだ。
「あっ! ママぁ~! イエーイ!」
5歳の女の子の母親がそばにいて、写真をとっている。
そのスマホに向かって満面の笑顔でピースサインをしている。
ねぇ……早く! 俺を救命してくれぇぇ?
大人の救命士が俺の胸に手を当てた。
「心臓が止まってます」
心肺停止状態の俺……。衝撃だよ!
「ドンマイ! ドンマーイ!」
5歳の女の子が、野球でエラーした程度の軽い言葉で、俺を励ましてくれた。
「今からAEDをします」
単なるダンボールにチープな配線が出ており、それを僕の胸にセットしてくれた、大人の隊員。
「はい、それではいきますよぉぉ、…いちっ、にぃぃ、さん、しぃぃ…」
そういいながら手を叩く大人の隊員。
それに合わせて手を叩く幼児の隊員。
AEDって『バシュュ』とか『バビュュン』とか高電圧の電流を俺に浴びせるとかじゃなかったっけ……、拍手って……。
本当にそれで俺の心臓は蘇生すんのかよ…。
3歳の隊員はAEDの拍手の趣旨を理解していないらしく、『むすんでひらいて』みたいな事やってるし……。
「心肺停止状態なので、病院に搬送いたします」
サッサとそうしてくれれば良かったのに……。
大人の隊員がそういうとタンカーに乗せ換えられた。
5歳の隊員は、重そうだから持ちたくないとダダをこねている。
もう…何かも諦めて、俺は空を見上げていた。
ずっとスマホで録画をしている、40代半ばの男が俺の耳元でコソッと言った。
「ごめんね、うちの娘たちのせいで……」
声が出せない俺は、その父親らしい男の顔を恨めしく睨みつけた。
終わり
無事? に、心肺停止の患者を病院に送り届けた娘たちは、帰りに表彰状を手渡されていた。
何を評価されたのかは分からない。
むしろ、見殺しにしてただけなのに……。
あと、ギャラを現金支給されていた。
(キッザニア内で使う通貨、キッゾという)
公務員って、日当を現金で支給されてたっけ?
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