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「太った?」という言葉の呪い

「また太った?」子供の頃からほぼ毎日かけられてきた言葉。

自分が太っていて醜いと思い込み、食べることに対しての罪悪感が異常だった。
3食食べることに対しても罪悪感があり、食事を減らして減らして、少しの量で満足できるようになってもまだ悪いことをしているような気がしていた。

けれど最近は、罪悪感が少しずつ薄れてきた。やっと普通の状態になれたのかな?とふとした瞬間に涙が出てくる。

なぜ食べることに対して罪悪感があったのか?

昔の写真を見ても、特に太っている印象は受けない。どこでも見かける、子供らしい体型に見える。

物心ついたときから、親戚が集まると「体パンパンだな」「丸くてコロコロしている」などと言われていた。

小学校に入るころには自分のことを醜い体型だと信じて疑わなかったし、【クラスの子の中でも一番脚が太い】など、他と比べてものすごく落ち込んでいた。
クラスの子から直接言われたわけでもないのに、みんながデブだと笑っている気がした。

田舎だったので、地域の交流も結構あった。八百屋さんや魚屋さん、顔見知りの大人からは「ぽっちゃりちゃん」と呼ばれていた。
挨拶は「また太った?」。ニヤニヤしながら言われて、周りの大人も笑っているように見えた。少なくとも反論する人は、親含めていなかった。

外食にいくことになっても、食べるたびに店員さんから「デブ」と笑われているような気がして食べられなくなった。

小学校4年生くらいになると、生理が始まった。どんな変化が自分に起きているのか知らなかったし、病気だと思った。身体つきも周りの子より早く成長して、胸やお尻が大きくなっていくのが怖かった。

そこから、また周りの大人たちがからかうように「胸が大きくなった」「気を付けないと一気に太るぞ」などと言ってくる。なんだか気持ち悪くて、スッキリしたくて吐くようになった。周りにいる華奢な女の子が憧れだった。


中学校に入り、身長が一気に伸びた。そのころの写真をいま見ても、びっくりするほど細い。けれど当時の私は、自分が太っていることに悩んでいた。
全ての基準が太っているかどうか、なんだ。


食べる事、をやめれば解決するのではないかと考えた。
もともと朝食をとらなかったうえに、中学校の給食の時間はなにも食べず机に伏せていた。忙しい中で作ってくれた母親の前で夕食を残すこともできないし、カロリーの高いものが出ると悲しい気持ちになった。


高校生になった。周りよりも、自分は顔に肉がつきパンパンに見えた。
ハードな運動部に入り、お弁当は子供用の小さいもの。けれどお腹は空くし、体調を崩すこともあった。

周りの子からは「ちゃんと食べないとダメだよ!」と言われたけれど、なんでダメなのかは分からない。仲の良い友達のお母さんがお弁当を作ってくれたり、何度も家に招待してくれて食事の大切さを説明してくれていた。

けれど当時の私には全く理解できなかった。
こんなに醜いのだから、一緒にいる友達は恥ずかしくないのかな?と申し訳なく思ってしまった。


大学生になった。この頃も写真では細く見える。
家庭の事情で急激に貧乏になり、1日1食の生活を繰り返していて、学費を稼ぐためにバイト三昧。

太るのが怖いって話を周りにできるようになった。
「また太った?」と挨拶してくる人たちのいる地域から引っ越した。
引っ越したところのパン屋さんで、よくパンの耳を買っていた。パン屋のおばあちゃんは、心配だから、とこっそりサンドイッチを渡してくれた。

1日の活動量が尋常じゃないから、まかないを食べても太らなくて安心した。友達や、そのお母さんからも「しっかり食べても太らないよ」という話をされて、それを少しずつ受け入れられるようになって、回復していった。


社会人になり、アパレル系の会社に入った。160cm 45kgだったと思う。

入社初日に「あなたは太っているから、1ヶ月で10kg痩せて」と言われた。
日報に毎日体重を書いて提出していた。1ヶ月で10kg落とす方法が分からないからパニックに陥り、またご飯を食べるのが怖くなった。

先輩は「一緒に頑張ろう」「帰ったら2時間走ってから寝て」と言ってくれた。朝から日付が変わるまで働き、走って、少し寝てという生活になった。
当然体調を崩してしまった。

いま思えば、痩せなさいといってくる会社もよく分からないし
痩せろという言葉で、ご飯を食べないとなる自分の思考も極端すぎる。
けれど、食べたら太る、自分は醜いと思っているから、それしかできなかった。無気力で、生理も止まっていた。

一種の呪いじゃないかな、と今では思う。

今までの経験が病気かどうか、というのは正直よく分からない。病院に行く、という選択肢がなかったから。

けれど、体型についての言葉がささり続けていたし
体型についての呪いがずっとあって、それが食べることへの罪悪感に繋がっていたのかなと思う。

「あなたが大切」「そのままで良いんだよ」と伝えて続けてくれる周りに支えられて、30歳になってようやく自分のことを大切にしようと思えるようになった。

まだ完全に罪悪感がないわけではないが、好きなものを「おいしい」と言って食べられるようになった。生きづらかった世界が少しだけ広がった気がする。

あのころ「また太った?」と言ってきた大人たちは、言ったことすら忘れているだろう。同じような呪いをかけない世界になってほしいと思う。



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