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『NOPE』現代エンターテインメント映画を「視る」観客を「視返す」現代エンターテインメント映画 ※微ネタバレあり

NOPE/ノープ
Nope
監督
ジョーダン・ピール
脚本
ジョーダン・ピール
製作
ジョーダン・ピール
イアン・クーパー
出演者
ダニエル・カルーヤ
キキ・パーマー
スティーヴン・ユァン
音楽
マイケル・エイブルズ
撮影
ホイテ・ヴァン・ホイテマ


 『ゲット・アウト』や『アス』ジョーダン・ピール監督は自身のニヒルでダークなコメディ/ホラーセンスを用いて、未だなお黒人差別が続くアメリカ的俗世間への痛烈な批判を描いてきた。
 今作『NOPE』でもその作家性は健在で、現在のハリウッド・エンターテイメント産業の体制をより鋭く批判している。

 アフリカ系アメリカ人としてアメリカを生きる「居心地の悪さ」を観客に嫌というほど陰湿に味わせるのがジョーダン・ピール作品の一つの特徴であるが、今作はその「居心地の悪さ」に加え、「怒り」も語られている。

 冒頭からその「怒り」が早々語られるのであるが、筆者はここで呆気に取られた。
文字通り「サル」のように大衆に消費される個人の痛み、憎しみをこれほど直球なメタファーで描いたあたり、ジョーダン・ピールが長年沸々と煮えたぎらせてきたアメリカ俗世間に対する「お前ら全員FUCK OFFだ!!!」という激昂した気持ちがうかがえる

 かたや、劇中の主軸はというと、「黒人としての誇り」を語るため、エンターテイメントに特化した作りなのも素晴らしい。
社会で無視され、搾取され続けてきた存在が、だった一つの巨大な目的のために悪戦苦闘する王道のバディ映画として必見だ。
(ゲット・アウト』や『アス』 のような「どんでん返し」まで場持ちさせ、それ以降は作品のテンションが失速するような作風に頼っていないのも好ましい。撮影監督のホイテ・ヴァン・ホイテマのヒリヒリしたカメラワークもセンス・オブ・ワンダーを感じさせ、見事であった。)

だが、今作は人種差別等の問題を扱ったエンターテイメントの枠を使いながら、昨今のそのような映画を「視る」観客を「視返す」という構造が独特で、鋭利な魅力を持っている。
「人種差別問題はエンターテイメントとして大衆に搾取されて良いのか?」という監督の尖った、だがしかし普遍的な問いがエンドロール後まで貫かれており、筆者はそれをみた直後虚を衝かれ、本作を観ていた自分の姿を丸裸にされたような気分であった(『ファイト・クラブ』や『WALL・E』のような作品構造を用いたのはとても理に適っており、見事だ)。
 エンドロール後、冒頭のあるキャラクターからの視線が忘れられない。ぜひ必見してほしい。

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