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Playdead『INSIDE』 妄想。

Playdead『INSIDE』のプレイ後、なんとも言えないラストにモヤモヤして、感想を書いたり色々な考察を見ていた。

考察を漁っているうちに自分なりの答えを出してみたくなったのでプロローグとエピローグを書く。自己満。
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INSIDE Episode.0

災害仲違い

22XX年、地球規模の大規模な地殻変動が発生した。最も大きな被害を被ったのは、複雑な海岸線を持つことで有名な北欧のX国。これを発端にして、X国は大災害に陥った。洪水、豪雨、地盤沈下などの影響により、かつてはその美しさから多くの観光客と起業家たちを集め、コンピューター黎明期におけるシリコンバレーのような賑わいを見せていた海外線沿いの街はいまや跡形もなく、数多の建物が水の底に沈んだ。

それらの建物の中に、先進的なゲノム編集技術で世界の注目を集めていたある企業、R社があった。その企業が開発した技術は、この200年余りの数多くの優秀な研究者達の遺伝子分野への献身の結実とも言えるような革新的かつ圧倒的なものであり、世界の食料問題の解決の糸口となり得るようなものであった。既にこの企業は5億人以上の命を救ったとも推測されている。

もともとは大学で出会った2人の研究者が始めたベンチャー企業だった。あっという間に社員数数万人を抱える大企業に成長したかと思うと、農学や医学のみならず物理学や生物学、脳科学といった分野でも次々と成果を残す華麗さは世界中の研究者の羨望の的であり、入社希望者も後を経たなかった。噂では、最近1つの研究グループが重力を反転する技術に成功したとも言われている。

創業者の2人は研究部署を離れ、今は経営の2トップとなっていた。力関係は完全な50:50。若かりし創業の頃の2人の関係性がこれまでの10数年の間、ずっと続いているはずだった。しかし、大災害の2年ほど前からだろうか、2人の方向性は徐々に違え始めていた。遺伝子分野のある研究プロジェクトの方針で、それは決定的なものになった。

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「●●、どういうことだ! あの理論は倫理に反するから哺乳類以上の実験体には使用しないと決めただろう!」
「口約束でな、××。P社がこの研究が成功した暁には技術共有に最低5億出すと言っている。それにこの研究はこの国だけじゃない。今まで土壌と輸送の関係で着手できていなかった南半球の国々の食料、労働者問題だって一気に解決するんだ。」
「君が社会的意義を語るのはパフォーマンス以外で聞いたことがない。そうじゃない、結局君は金だろ。待て、労働者問題? まさか、君は動物だけじゃなく人間にもあれを試してるわけじゃ無いだろうな。」
「ま、それは俺の研究チームの内部機密とさせてもらおう。最近じゃ社内でも成果争いが激しいのは知っているだろ。…待て、緊急速報だって?」
「まだ話は終わってないぞ!」
「そんな場合じゃ無いだろ、今すぐ貴重な研究資材を持って逃げないともしかしたらっ」
「うわあああああ!」

躍進と確信

X国の比較的内陸に位置する集合住宅の一室で、男は決して座り心地が良さそうには見えないクッションの薄いソファに浅く座り、旧式の空間重畳型ディスプレイで論文を読み漁っていた。部屋の装飾は白が目立つものだったが、統一感のあるおしゃれな部屋というよりは簡素の2文字が相応しい、寂しい部屋でもあった。この部屋の住人にまだ10才の育ち盛りの男の子が含まれているとは中々に信じがたい。玄関のドアが開き、男の妻が帰宅したのでいつものように夕食を一緒にとることにした。

「××、今日**の様子を見に病院に行ってきたんだけど、今度はだいぶ長期の入院になるから着替えとかおもちゃとか用意して欲しいって。あと、、、」
「なに?」妻が言い淀むときはいつでも結構な悪い知らせが後に続くと決まっている。
「その、心肺の機能は問題ないけど、脳の方はもう取り返しがつかない可能性が高いって。いわゆる脳死みたいな状態に、いつでもなる可能性があるって言ってて」
「・・・」
「何が現代医療の進歩なんだか。あの子は何も悪くないのに。」

泣き出す妻をどうすることもできず、なんとか寝かしつけたあと、男は再び定位置の硬いソファに、今度は深くもたれかかった。

大災害から5年が経っていた。男は妻と息子とともに、国から与えられた避難所でひっそりと暮らしていた。研究への情熱を失ったわけではないが、男には家族を守る方が大事だった。それだけの話。

だが、男が学生時代からずっと寄り添っている愛しい妻と、災害に伴う事故で脳に障害を負ってしまった幼い息子を守るのに精一杯だったこの5年で、もうひとりの元R社トップは水没した会社の跡地を整備してさらに大きな研究所を建てていた。オフィス、農場や実験場、ラボの全てを含んだ巨大施設である。災害以前よりも深刻になった食糧難で、国民や政府も以前から倫理的な問題を疑われていた彼の研究の不透明性には目を瞑ったらしい。みないふり、という方が正しいか。遺伝子組み換えの範囲は以前から行っていたトウモロコシやニワトリの範囲をとうに超え、ブタにイヌ、海洋生物。そして恐らく、ヒト。少なくとも××はそう予想していた。

彼をトップとする新しい会社は厳しい情報規制を敷いているが、この3ヶ月の間、必死で調べあげた。もちろんひとりで。あの会社と取引のある名だたる大企業の全てで目撃されている、肉体労働に従事している寡黙な労働者達。彼らは世間に公開されていない闇取引の対象物だった。恐らく意思や行動の制御を他の人間が行うことができるシロモノ。戦争やら実験台やら無理のある宇宙開発やらの材料となる、権力者とマッドサイエンティストが大好物の危険物でもある。かつての研究所で、そう、おそらく5年前には既に着手されていた。●●を中心とした研究チームは地下のルームを好んで使っていた。

ー"地下組"はこれをずっと狙ってやがったんだ。

××の中で、予想は確信に変わりつつあった。とはいえ、あの不気味な労働者らが誰かのクローンなのか、遺伝子組み換えで誰かに産ませた赤ん坊なのか、それとも全くの違う素材から作り出したハリボテなのかはまだ定かではない。分かっているのは、彼らが寡黙であり、顔がどれも曖昧で生気がないということだ。

ー食品業界でもはや欠かせない企業にアイツの会社がなっている以上、他の倫理的な部分に関して国までもが逆らえない状態となっていても不思議ではない。アイツは災害が幸運だったとでも言いたげに、混乱に乗じて権力を握りやがった。俺が止めなければ、そう、俺が。

とはいえ、息子の病状を聞いて男の頭に心配よりも先に浮かんだあるアイデアのことを考えると、男がかつての相棒を非難する権利があったのか、それは今でも定かではない。

託す祝す

とうとうこの日がやってきた。
俺はアイツの会社から出荷されている肉体労働用の人間を1体手に入れ、それと、息子を、ついに医師による脳死判定がされた息子の臓器をもとに、”少年”を作り上げた。これは組織の破壊装置。肉体は頑丈、身体能力の高さはアイツの会社のお墨付きだ。そして、”少年”は息子の意思を持っている。人造人間にはなしえない、判断力、感情。妻は、全力で俺を止めたっけな。買い物に出て行って、それっきり。国の番号管理システムを使えばきっとすぐに見つかるんだろう。でも、しない。それだけ。

俺は"少年"を連れ、もう1人のマッドサイエンティストのいる研究所にヘリで向かった。ただの企業にしては過剰すぎる防衛線が張り巡らされているその施設の端。
「さあ、息子よ、全て壊してくれよ。」

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そう言って、男は少年が施設内部へ駆けていくのを確認した。その後、男の消息を知るものはない。
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「待っていたぞ、××。」
無機質な研究室の一室。もう1人の男は、モニターに映るヘリを見てほくそ笑んだ。

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INSIDE Epilogue -Another Side-

願いは叶い

ずっとあと1ピースが足りなかった。どうしても自分の力ではたどり着くことができなかった。

大災害以降、自分の専門である遺伝子分野のこれまでの研究成果をもとに会社を再結成し、以前とは比べ物にならないほどの金と権力を手に入れた。昔相棒だったあいつはいつも俺のことを金目当てと言ったが、そうじゃない。自分の大好きな研究を続けるために資金がどうしても必要だった、それだけだ。

そのためには倫理観など関係ない。もっとも、大災害で倫理や道徳より食べること、生きることが人々にとって重要だということは嫌でも証明された。俺はずっと正しかった。

まずはクローン豚から始め、犬、人間と対象を広げていくのにそう時間は掛からなかった。豚を研究しているときにどうしても個体の凶暴性が高くなってしまうのが課題だったが、そのおかげで有能な番犬を開発することができた。人間というのはガードマンに人を撃たせるのには罪悪感を感じるくせに、犬に頸動脈を噛み切らせるのはなんとも思わないらしい。犬は今でも高く売れている。

高等教育が後進国にまで十分行き届いた100年ほど前から、肉体労働のなり手がいないのはずっとどの国でも社会問題だった。大型ロボットの導入はその1つの解決策としてうちの会社でも使っているが、維持費や作業のできる幅を考えると、どう考えたって人間を使う方が都合が良い。忠実に言うことを聞き、きつい肉体労働にも耐えられる屈強な人間を作れば良い。小学生にだって思いつく簡単なことさ。

最近じゃ知的労働も可能な個体を計画中だ。既に買い手はいくつか決まっていて、お偉いさん向けの見学ツアーなんてものも毎日やっている。どうやらお坊ちゃん校向けの社会科見学も始めたみたいだ。まあ、あんなもの子供に見せるもんじゃないと俺は思うが。

重力反転装置も、水中で生存可能な人型個体も、リリース予定は後が詰まっている。そんな中、ずっとやりたかったことが遂に実現しそうなんだ。人間の知能を持ち、巨大な肉体を持った生物。ポストヒューマンと言っていい。今の実験体は、まあ、だいぶ不恰好になっているのが問題だが、肉体としては概ね完成している。あの形状で実現ができれば理論的にはどんな形状でも応用可能なはずだ。巨人だって小人だって。きっと。

子供の頃から、人間の肉体から逃れることができればどんなに世界が広がるだろうと思っていた。身体は感情や思考をも制限してしまう。

さあ、この化け物に足りなかった最後の1ピースがじきに向こうからやってくる。仲間の訪れに昂っているのか、化け物は水槽内で気味悪く蠢いていた。明らかに昨日までは見られなかった反応だ。
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「予想通り一体化したか。」
職員が逃げ惑う音を遠くに聞きながら、男はひとり部屋の中でつぶやいた。「やはり俺の理論は正しかった。」
「ん。予想外に被験体の意思が強いな。このままだと、、まさか。」

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男が最期に見たのが、ずっと恋焦がれていた生物の姿であったことはある意味で幸せなことだったのかもしれない。

ガッシャーーーーー〜―ン。
派手に登場した派手な化け物は、哀れに命乞いをする男を巻き込み、落ちて、落ちて、それを潰した。無惨に飛び散る死。200年に1人の天才と呼ばれたマッドサイエンティストの派手な死だった。

回り転がり終わり

「助ケて。」「でタイ。」「苦死い。」「死に体。」

さまざまな感情は全て呻き声として、さっきまで少年だったはずの彼の脳に響く。大人、子供、男、女、赤、白。自己と他者の全ての意味がなくなり、しかし一体化もできない恐怖。目も耳も無く、皮膚のみとなった感覚器官はしかししっかりと平衡感覚を持っており、少年は自然と行くべき道が分かった。その間も痛みは消えない。

痛い、苦しい、冷たい。熱い。少年は初めて「死にたい」と思った。

「ここを、出なくちゃ。」
感じる。外気のひんやりとした感覚。風。体表のどこかが樹木に当たったと思うや否や、転がる、転がる、転がる。

「ああ、痛みが遠くなってきた。」
転がり転がり、回転が止まった先には静かな湖が広がっていたが、少年には知ることはできない。
「父さん。」

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そして、少年の意思も、肉体である化け物も、活動を停止した。

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