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白詰草と王子様

 手先が器用だとよく褒められる
 編み物も、刺繍も、裁縫だって、アクセサリー作りさえも誰かにつきっきりで教わったことはないがまぁそこそこに出来る方

 だけどたった一つ今もこれから先も、多分不恰好にしか出来ないだろうものがある

 それは白詰草の花冠

 子供の頃住んでいたアパートの前には広めの公園があり、遊具のほかに四季を通して色づく木々や花があちこちにあり、その横には必ずといった具合に白詰草が咲いていて、女の子たちは競うように花冠を編んでいた

 でも私は何度頑張っても編み上げる事が出来なくて、不貞腐れて1人四葉のクローバーを探していた
 みんなが帰った後、私は1人花冠を編む
 けれどやっぱり出来なくて、バラバラになった白詰草を見ながら泣きべそをかいているばかりだった

 そんなある日いつものように1人座り込んで花冠を編んでいると、人影が隣りにストンと腰を下ろす
   一体ここで何してるのかずっと気になってたんだよね
 びっくりして固まっている私にそう言いながらニッコリ微笑んだのは、7つ年の離れた兄の友だちだった
 身体がゴツくていかにも武道をやってます系の兄とは対照的なスマートで優しい顔立ちのイケメンさんだから、何度か家に遊びに来てたのをしっかり覚えてた私だが、彼もそうだったのだろうか

 というか、地味に1人寂しく花冠を編んでるのをまさかの兄の友人に知られてしまって、子供とはいえひどく恥ずかしくなって思わず立ち上がってしまった
 そんな私に彼は
   ごめんね、揶揄うつもりじゃないから安心して
 って優しく言いながら、不細工だった私の花冠を糸も簡単に綺麗な物に作り変え、私の頭に乗せてくれたのだ
   なんで? 
 しか出てこなかった
   ん?
 彼はそれだけで察してくれた
   ああ、僕ね妹いるんだよ
   よくせがまれて作ってたから覚えてて
 って笑う顔がなんだか少し寂しげだった
   編めないよ? みんな出来るのに
   私だけ編めない!
 私は語気を強めてそう言った
 すると彼は
   僕の妹とおんなじだね
 って言いながら私の頭の上の冠を手のひらに乗せ、フワリと空に向かって放った
 そうして再び彼の手に戻ってきた冠は私が作っていた時のように歪に戻っていて悲しくなった

 だが彼はそれを私に差し出し
   一緒にやってみよう? 絶対できるよ
 そう言ってくれた
   ほんと?
   ほんとだよ
 優しい声が返ってきた
 それからはちっとも帰ってこない私を心配した母に呼ばれるまで、ずっと花冠をひたすら編んでいた

 数日後、1人で編んでいるとだんだん出来上がっていく感触に心が踊った
 今日会う約束はしていなかったし、昨日だって会ってない
 そう思いだすと自然に手が止まる
 でも彼はできるって言ってくれたし、コツもしっかり伝授してくれた
 そう思い直せばいざ仕上げへと指が勝手に動く

   ...できた!
 嬉しくて口元が綻ぶ
 あんなに何度頑張っても出来なかったのに
 手のひらの花冠を黙ってしばらく見つめていると、不意に名前を呼ばれた
 声の先には7つ上の兄が立っていた
   ちいにいちゃん...
 あれ? 今日はバイトじゃないの? って思いながら立ち上がると兄が私の手の上の冠に目をやった
 慌てて隠す私に兄は
   ホントに作ってたんだな
   あいつに少しは構ってやれって言われて見にきた
   ふうん...
 少しだけガッカリしながらつれなく呟く私に兄は
   あいつの妹、6歳の時に病気で死んじゃったんだって...
        花冠編みたいってずっと言ってたって
   だからお前が重なって見えたのかもな...
   可愛がってたみたいだし...
 そう呟くように兄が言った
 そうだったのか
 だから座り込んでる私が目に入ったんだって妙に納得してしまった
   私は別に好きじゃないし
 そう言った私は手のひらの冠を指でバラバラにした
 白詰草は音もなくこぼれ落ちて散った

 その日から、私は花冠が編めなくなった

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