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義母には秘密の会

韓国では、子供が満一歳になるとお祝いの会を開く。ドルチャンチといい、ドルは一歳、チャンチはお祝い会である。ビュッフェレストランを会場にし、司会者がお披露目を盛り上げた後は食事会、という流れだ。
上の二人の子の時は、ドルチャンチを行った。親類や友人を招き、来賓は数十人規模になる。呼ばれた側は、ビュッフェの食事代に色を付けたくらいの御祝儀を出すシステムだ。
私の親は日本にいるので呼ばなかったが、夫の両親はもちろん招待した。
二人目(息子)の時、終わってから夫は、私に愚痴をこぼした。義母がチャンチの最中に、あれこれと口を挟んで会を引っ掻き回す真似をしたことについてである。
義母がまず私を呼び、言われても困るようなことを何かと言いつけて来た。夫が気づいて割って入り、
「あんたは向こうで子供を見てて」
と隔離してくれた。義母は今度は夫に対して、会のことで色々指図しようとしたらしい。
「いいから、お袋は気にしないで、黙って飲み食いしててくれ」
という夫の声が、会場の向こうから聞こえた。
「黙ってて」と言われて素直に口をつぐむ義母ではない。親類、友人に加えて仕事関係の人までいる前で、大人しくしてくれない義母に、夫は恥ずかしい思いをしたと、こぼした。
私は返事に困って、「うーん、大変だったね」とか何とか、適当な言葉を返した。「そうだよ、あんたのお母さんは本当に迷惑な人だ」などとは言えない。
夫はすっかり凝りたらしく、3人目(娘)が生まれて、義母に「ドルチャンチはいつやるんだ」とせっつかれた時、「やらない」と返事した。
「もう3人目だし、何回も呼ばれるのは皆も迷惑だろうし」
「そんな事があるか。祝いの会じゃないか」
と義母は怒ったらしい。
「〇〇だけやらないのは、かわいそうだ」
と夫に迫ったが、夫は「もういい、やらない」で押し通した。
晴れの席を楽しみにしていた義母はがっかりした。こういう祝賀イベントは大好きだったのだ。
そして結局、「やらない」と言いながら、3人目のドルチャンチは、夫と仲のいい姉達だけを招いて、内輪でひっそりと行った。ちょっと改まった雰囲気の中華レストランに集まり、食事会をしてチャンチに代えたのである。
食事会の席で義両親の話が出た。
「今日はお母さんたちは来られなかったの?」
と夫のすぐ上の姉が尋ねた。
「呼んでない。今日の事も内緒」
と夫。
「もう懲りた。お袋を呼びたくない」
義姉は特に何も言わなかった。しかしその顔が、
「ええっ、そうなの?うーん…まあ、そうだろうね」
と、語っていた。
料理は上品な味付けで美味しかった。

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