ティーンズラブは、女子の幸せがギッシリ詰まった玉手箱

今年の2月に新しく生まれた小説レーベル、シャルロット文庫で編集をしております和久井香菜子です。編集のほか、少女マンガのレビュー執筆や、ライターをしています。

シャルロット文庫は「おとな女子のための恋愛レーベル」です。ティーンズラブノベルや、ボーイズラブノベルを扱っています。

さて、ティーンズラブ(TL)というと、ちょっと、いやすっごくエッチな物語ってイメージでしょうか。ティーンといっても、特に10代向けではありません。読者対象は広くおとなの女性全員です。
でもこれ、ほんとに意義のある制作物だなって思うんです。

TLの目的は「満たされること」。
いやらしいことをしたいというよりも、架空の物語の中だけでも、愛されて幸せになりたい。それはTLが生まれた歴史を考えてもわかります。

女性向けマンガの歴史

少女マンガは70年代に黄金期を迎えました。マンガを読んで育った女子のために、80年代に登場したのが、大人向けのマンガ、いわゆる「レディースコミック」です。そして90年代になると、性がそれまでよりもタブー視されなくなり、女性向けのエッチなコミックが登場します。「レディースコミック」は、本来は単に大人の女性向けのマンガ、という意味ですが、一部すっごくエッチな作品があったため、レディースコミック=エロい、みたいなイメージがついてしまいました。

でも初期の女性向けコミックのエロは、模索期です。
女性がどんなことを求めているのかわからなかったのです。男性向けのエロをそのまま移植したような話や、女性がいろいろ開発されて快楽に溺れていく話や、性の解放なんて言われて奔放にエッチを楽しむ話などが混在していました。それがだんだん淘汰されて行き着いたのが、「恋愛物語に性描写を加えた物語」、つまりTLだったんです。

結局女性たちは、少女マンガでさんざんやってきた男女のワクワクキュンキュンを、大人になっても求めていたんですね。

ティーンズラブとは、どんなジャンルか

で、ここからが本題です。
ではなぜTL読者たちは、ワクワクキュンキュンしたいのでしょうか。
10代の頃に読む少女マンガは、あこがれです(そのまんま『あこがれ』というタイトルのマンガがありますね)。こんなかっこいい男子が彼氏になったらいいなーとか、クラスで目立たなくて友達もできない私を見つけてくれたらいいなーとか、ただただ、願望。自己肯定感を他人から与えて欲しいんでしょうね。

もう少し大人になると、酸っぱい経験もするようになります。痛すぎて少女マンガには絶対に描かれないような、キツい失恋もあるでしょう。それから、社会に歴然としてただよう女性蔑視や人権侵害。モヤモヤするだけで言語化できないけれど、なにかいやな気持ちになることもたくさん経験します。
そういう疲労困憊する出来事を忘れる癒やしが欲しくなるんですよね。

とある女子校を卒業した女性が、社会に出て驚いた、という話を聞いたことがあります。
「女子校では自分は万能だった。できないことはなかったし、努力できる環境もあった。ところが社会に出ると、見えないガラスの天井があり、男性の倍努力をしなければいけなかった」
女子校は、女性が圧倒的に多いので、数の原理で女性優位の社会です。男性教師は、からかいや嫌悪の対象で忖度する必要はない。恋愛対象として男性の目を気にする必要がないので、やりたい放題です。確かに万能感がありました。

TLはあの自由な感覚に似ているな、と思います。
男性キャラを好きなように動かして、自分にいやなことは絶対にさせない。「いいんだよそれで、ここは私たちの世界なんだから!」という感じです。

「傷つかない」安心感が欲しい

男性作家が描く作品で、しばしば女性からすると納得のいかない表現やキャラクターが登場します。女性向けの作品には、そうした不愉快な思いをしないという安心感があります。女性だけで構成されている宝塚歌劇団も同じ。女性が傷つく展開やセリフが絶対にないんですよね。

モテる男性って、女性が喜ぶことをするというよりは、「不愉快にさせない」んですよね。以前、イロメンのメンバーだった一徹さんに取材したことがあるのですが、性を扱った微妙な話をいっぱいしたのに、不快なことをひと言も言われませんでした。なんて魅力的な人なんだろうと、しばらくボーッと恋してました。

そしてTLのメインテーマである「気持ちのいいエッチ」は、裏返すと「いやなことをされない」です。
その気じゃないのに無理矢理されたとか、自分だけ満足して気遣ってくれないとか、エッチするだけで自分の話を聞いてくれないとか、細々したことを含めたら、男性と幸せな関係を築いている女子って、ものすごく少ないのでは。

性的な行為は、女子にとっては人生設計を大きく狂わす妊娠や、感染症といったリスクがあります。そうした不安を取り除いてくれるのは、男性からの深い愛情なんですよね。だって不慮の妊娠しても愛されてるならなんとかなるじゃないですか。

リアルで起こりえる不愉快なことを丁寧に取り払って構成されているのが、TLです。そうじゃないと女子はエロを楽しめないから。

制作工程は幸せのカタマリ

なのでTL制作は、打ち合わせから執筆、構成、イラスト作成まで、どこを取ってもものすごく幸せです。
打ち合わせでは「こんな展開にしたら萌えちゃう」という意見をバンバン出し合います。
「そこでほかの学生が出てきて、先生は俺のものだよ! とか言って取り合うのはどう?」
「ここで寝込んで看病して欲しいな!」
「実はその男性は有名なタレントだったっていうのは?」
など、アイデアを出し合うだけで悶えています。

著者さんから上がってくる設定を見るだけで、「こりゃあいい!」とねじれ上がることもよくあります。
詳細プロットを作っているときは産みの苦しみがありますが、そこを乗り越えると、あとはお花畑です。和久井も作品を書きましたが「書いている最中、とても幸せそうだった」と言われました。そりゃ「こうなったらいいな」をずんずんカタチにしているのだから、幸せです。

表紙の制作は、萌え上がったTLワールドをイメージに落とし込み、美しい世界が目の前に現れてくる作業。また大きな喜びです。

こんな幸せな作業がギッシリ詰まった作品なのだから、読者の方たちにも作品を読んで幸せになって欲しいなあ、と思うのです。

TLは欲望の巣窟というよりは、おとな女子にとって癒やしなんですよね。
どんなにダークな設定でも、「女子が【本当に】傷つくことは描かない」のが鉄則だと思うんです。

だから、主人公はともかくお相手の男性は、絶対に主人公を裏切らないし、深い愛情で見守ってくれます。

そういうお話を紡いでいくのが「TLノベルの編集」という私の仕事です。
とっても幸せです。

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