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ショートショート小説

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大体原稿用紙5枚に収まる小説を目指します。
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#ショートショート小説

わさびなる一族

 柳家わさびさん。という噺家さんがいる。うちの姉はこの人の大ファンだ。わたしたちは関西に住んでいるために、テレビでしかわさびさんを拝見することができず、姉はがっかりしている。なのでわさびさんが出ているテレビ番組は、子ども向けのものであっても、録画して、欠かさずに観ているらしい。

 わたしは結婚して実家を離れている。とは言え実家までの所要時間は、下道を使って車で小一時間ほどである。

 ある日、姫

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お母さんは坊主めくりをしない

 五年生の冬休み、百人一首の中の十首を暗記してくることが宿題になった。だけど友だちと遊ぶときは百人一首を覚えるんじゃなくて、坊主めくりばかりをしている。

 わたしの家で、近所の女の子と四人で坊主めくりをしていた。そこへお母さんが、オレンジジュースを運んできた。

「お母さんも坊主めくりする?」

 わたしはたずねる。

 すると、化粧をしないお母さんの顔が青くなった。まるでユーレイに会ったみたい

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ご近所の不審者

 片田舎の住宅街に住んでいる。西隣には二十年ほど前に県の博物館ができ、それ以来他地方からの人も訪れるようになったため、少し治安について心配する声が、近所の人たちとの井戸端会議のときに聞かれることがある。

 三日ほど前から、ちょうどうちと、隣の家とのあいだに、決まって夕方、午後五時ごろから七時くらいまで、原付に乗った男性が、原付に乗ったまま、スマートフォンを触っている。季節はちょうど三月。本格的な

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うんこのこたえ

 姉からLINEのスクリーンショットが送信されてきた。うちの娘とのやりとりだ。

「うんこたえおしえたろか」

 小学一年生の娘はそう書いている。どうやら娘は姉になぞなぞを出し、姉はその答えを間違えたらしい。娘は、

「うん、答えを教えてあげようか」

 と伝えたかったのだろうが、まだ読点の打ちかたがわからないようで、「うんこ」と読めてしまうものになってしまったようだ。

 姉にメッセージを送る。

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