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バーボン独特の製法=サワーマッシュ製法を学ぶ!《サワーマッシュ製法③》

■バーボンの仕込み水は「硬水」&「アルカリ性」

前回までのまとめです。

・日本のお酒づくり(日本酒/ビール/ウイスキー)では「軟水」で仕込むことがほとんだが、実は硬水でも美味しいお酒をつくることができる。

「硬水仕込み」の代表選手がアメリカンウイスキーのバーボンである。

・バーボンの仕込み水は「ライムストーンウォーター」と呼ばれる、石灰岩層で磨かれた超綺麗な硬水。(硬度 300~350mg/L)

・ライムストーンウォーター(石灰岩水)のpH値は、7以上の《アルカリ性》のため、マッシュの中で、麦芽の糖化酵素が最もよく働くpH値 5.4~5.6《酸性》に当てはまらない。

・バーボンの製造では、ビアスチルという連続式蒸溜機に残ったpH値 3.5~4.5《かなり酸性》のアルコール分のない蒸溜残液を、マッシュに加えることでマッシュを酸性化して対応している。(ケンタッキー州でも、テネシー州でも、バージニア州でも) これがサワーマッシュ製法

うーむ。なかなか難しい話・・・


■今一度、pH値の比較

◇代表的なpH

《酸性》

・胃液   1.5~2
・レモン汁 2~3
・食酢   3程度
・ワイン  3~4
・酸度の高いウイスキー商品 約3
・ウイスキーのモロミ           約4
・《A》ビアスチルに残った蒸溜残液 3.5~4.5
・ビール  5程度
・コーヒー 5程度
・《B》麦芽の糖化酵素がよく働く範囲5.4~5.6

《中性》pH 7

《アルカリ性》

・《C》ライムストーンウォーター pH 7以上
・血液 7.4
・涙  8.2
・海水 8.4
・石鹸水 10~11
・石灰水 12程度

「C:ライムストーンウォーター+砕いた穀物=マッシュ」に、
「A:蒸溜残液」をぶち込んで、
「B:pH値の範囲内」にマッシュのpH値を酸性化している
のが、サワーマッシュ製法なんです!

なんかすごい工夫ですね!


■サワーマッシュ製法につかう蒸溜残液

前回もお話ししましたが、バーボンは「ビアスチル」という連続式蒸溜機で蒸溜してからの、「ダブラー(orサンパー)」という連続式蒸溜機でさらに蒸溜する『連続式蒸溜機の二刀流』で、原酒をつくります。

蒸溜によってモロミからアルコール分を全部取り切った後に、ビアスチル(1回目の連続式蒸溜機)の底に残った蒸溜残液(スティレージ、スロップなどと呼びます)を、サワーマッシュ製法では使用します。

ただ、このスティテージには固形分が含まれているので、それを分離してから使います。この固形分がなくなった液体がバックセット(セットバック、スィン・スティレージとも呼びます)で、pH値が3.5~4.5で相当な酸性の液体です。

ちなみに、取り除かれた固形分には、アルコールが抽出された後でも栄養価が残っているため、家畜の飼料やペットフードなどに再利用されたりします。


■バックセットはどれくらい加えるの?

《糖化槽の中》
(バーボンでは糖化槽をクッカーと呼びます)

▽砕いた穀物
  +
▽仕込み水=ライムストーンウォーター(アルカリ性)
  +
▽蒸溜残液=★バックセット(かなりの酸性

  ↓
◆酸っぱいマッシュ=サワーマッシュ(酸性)

バックセットを糖化槽にどれだけ加えるか(戻すか)は蒸溜所によったマチマチです。
仕込み水の15~20%を加える蒸溜所もあれば、30~40%ほども加える蒸溜所もあるそうです。

また、バックセットを加える槽についても、複数のパターンがあります。

《パターン①》
糖化槽(クッカー)だけに加える。

《パターン②》
糖化槽(クッカー)+発酵槽(ファーメンター)にも加える。

そして、サワーマッシュ製法の目的を端的に言えば、以下の2つです。

◇サワーマッシュ製法の目的

マッシュを酸性化(すっぱくする/pH値を下げる)することで

① 麦芽酵素が働きやすい環境(pH5.4~5.6)をつくる。

② バクテリアなどの雑菌の繁殖を抑える。

この目的が達成できさえすれば、あとの細かいやり方は蒸溜所次第で、それがまた最終的なバーボンの味わいにも結びつくのだと思います!


■サワーマッシュ製法の発明者

これは複数名の名前が伝えられています。

色々な発明がそうであるように、同時期に同じ方法で、チャレンジしていた人が、何人もいたということでしょう。
ただ、一番有名なのは、スコットランドからの移民にして化学者&蒸溜職人のジェームズ・C・クロウ博士です!

クロウ博士は、オールド・オスカー・ペッパー蒸溜所などで活躍しました。

この蒸溜所は古くからの名門ですが、色々と売却されたり、不景気で閉鎖されたりしていましたが、ブラウンフォーマン社(テネシーウイスキーのジャックダニエルで有名な会社)によって、1996年にバーボンづくりが再開されました。

2003年にウッドフォードリザーブ蒸溜所と蒸溜所名が改称され、現在に至っています。

その蒸溜所名の通り、洗練されたバーボンウイスキーとして有名な「ウッドフォードリザーブ」をつくっている蒸溜所です!


■クロウ博士の名前が残っている商品

サワーマッシュ製法の生みの親(の一人)として有名なジェームズ・C・クロウ博士ですが、商品名にその名前が残っています。

◇オールドクロウ
オールド クロウ 700ml瓶 商品情報(カロリー・原材料) サントリー (suntory.co.jp)

サントリーHPより

クロウ博士のクロウ(CROW=カラス)にかけて、ラベルにはカラスのイラストが描かれています。

このブランドはオールド・オスカー・ペッパー蒸溜所のように、売却されたりと転々として、今はジムビームの傘下のブランドとなっています!


■サワーマッシュ製法まとめ

◇サワーマッシュ製法とは?

《バーボンの仕込み水》 
石灰岩で磨かれた「ライムストーンウォーター」
 → 硬水 & アルカリ性
 → アルカリ性だと糖化酵素が働きにくい
 → 酸性の液体=バックセット(蒸溜残液)を、糖化槽に加えて酸性化する製法。


★麦芽酵素が働きやすい環境(pH5.4~5.6)に整える。

★酸性化によりバクテリアなどの雑菌の繁殖を抑制。

以上で、「軟水・硬水」の解説からはじまり、「バーボンの仕込み水=ライムストーンウォーター」からの「サワーマッシュ製法」の説明を一旦完了します。

皆様、長々とお付き合いありがとうございました!!

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