見出し画像

人材育成で介護の離職率を下げる!目標設定と体系化が課題解決のカギに

介護業界は離職者が多いことで知られ、慢性的な人手不足が叫ばれて久しくなりました。

超高齢化社会で介護現場の働き手は今後さらに減少すると見込まれます。国も「処遇改善加算」を設けるなど、介護の担い手を増やす施策を打ち出しているのはご存じのとおりです。

処遇改善手当により収入がアップしたはずの介護職員ですが、それでも離職に歯止めがかかる気配がありません。「苦労して採用した人材がすぐ辞めてしまう…」と、お嘆きの人事担当者も多いのではないでしょうか。

本記事では、介護業界独特の人材育成上の課題と解決法、職員定着率を上げる育成上のポイントや、人材育成の具体的手順を解説します。

スキルと人望を身に付けた人材に長く働いてもらい、施設イメージを向上するためにも、本記事をお役立ていただければ幸いです。

介護職の離職と人材不足の現状

あるアンケート結果から、介護職の離職理由を読み取れます。

  • 人間関係23.2%

  • 運営への不満17.4%

  • 将来の見込みが立たなかった16.4%(男性は26.9%)

  • 他に良い仕事があった16.0%

  • 収入が少なかった15.5% 

男女ともに多かった離職理由は、人間関係と施設運営にあることがわかります。いずれも、事業者側で改善が可能な項目といえそうです。

人材不足について補足すると、介護職員の実数自体は微増傾向にあるのですが、要介護高齢者数の増加に介護職員の数が追い付いていません。国の政策により施設数が増えていますが、そこで働く介護職員の数も追いついていないため、肌感覚としての人手不足は現存します。

もっともデータだけで見ると、介護職の離職率は全職種平均の離職率と大きな違いはなく、介護だけが突出しているとはいえないようです。

とはいえ、一人の退職により事業者は「採用コスト・教育コスト・知識やノウハウ・モチベーション・法人イメージ・退職金」の6つの損失を生んでしまうため、長く勤めて欲しいものです。

介護業界のもう一つの問題として、在籍者のモチベーションが上がりにくい傾向も指摘されており、実数で把握できない離職予備軍が相当数いると考えられます。

大切な職員に青天の霹靂で退職されないためには、働きやすい労働環境を整備するとともに、意識的に職員とコミュニケーションを取り、要望や本音に耳を傾ける必要がありそうです。


人材が定着しない介護業界の現状と課題

介護業界で人材が定着しない業界特有の理由を解説します。

  • 評価基準を明確にしづらい

  • 制度上介護職の給与を上げにくい

  • 採用者の経歴がまちまちで均一に育成しづらい

  • 指導方法が体系化されていない

一つずつ見ていきましょう。


評価基準を明確にしづらい

介護職の仕事は評価基準を明確にしづらいため、職員が適性に評価されていないケースがあり得ます。

仕事の成果を定量化できる職種ではありません。評価すべきスキルや項目は業務全般から対人スキルまで、多岐にわたるため、基準を決めづらいのです。

職員が努力が報われないと感じたり、不公平感を感じてしまわないよう、できるだけ明確な人事評価基準を設けましょう。


制度上介護職の給与を上げにくい

介護職の給料は制度上の理由により、青天井で上げることができません。

国からの介護報酬で介護職員の給料は賄われるため、給料に職員の貢献度を反映しづらいのです。介護職員が「他業種と比べ給料が低い」と不満を抱く理由の一つはここにあります。

また処遇改善加算の分配の仕方が事業者により異なる点も、職員が疑念を抱きやすいポイントです。

仕事が報酬で報われないために「頑張っても給料は変わらない」「管理職に昇進してもストレスが増えるだけ」と、職員の成長意欲が削がれている一面はあります。中には経済面の不安から介護でのキャリア形成を諦め、他業種への転職を考える職員もいるでしょう。

国の制度を事業者が変えることはできませんが、貢献度に応じた独自の給与体系を導入し、職員にアピールする方法は一考の余地がありそうです。


採用者の経歴がまちまちで均一に育成しづらい

介護職員の人材育成は、一貫性のある教育がしづらく、職員の質の均一化が難しいという特徴があります。

介護業界の問題として、職員のほとんどが経歴やスキルがまちまちの中途採用である事が挙げられます。そのため新卒採用のような一斉研修が行いにくく、個別対応での育成にならざるを得ません。

個別でも実施されればよいですが、現場が多忙なあまり「経験者=即戦力」とOJTを省略されてしまうケースもあるようです。中途採用者が知識や技術の習得機会を喪失し、入職後の適切な時期に職能を習得できなければ、本人が職場にいづらくなり離職されかねません。

中途採用が多い介護現場の人材育成で重要なのは、個別の育成チェックが行いやすいよう、業務の可否を見極めるチェック項目を明確にしつつ、現場が多忙でも実施できるシステムを整えることです。


指導方法が体系化されていない

介護現場の人材育成が上手くいかない原因の一つに、指導方法が体系化されていないこともあります。

介護現場では指導に特化したスキル育成がされていない指導者が多く、指導が場当たり的になりがちです。また指導者が主任と兼任のマルチタスクで、育成に集中できない現場も少なくありません。

指導の内容に統一感がなくバラバラでは、教わる側は何を信じてよいか分らず、職場への不信感から早期退職をしてしまうかもしれません。

介護職員の定着率を上げるためには、指導の方法を体系的に統一することが重要です。


介護職の離職率を抑える人材育成のポイント

介護業界の離職率は、人材育成の見直し・改善により解決できます。課題を解決に導く人材育成のポイントを解説しましょう。


職員のキャリアプランを考える

介護職の離職率を下げ定着させるためには、介護職として本人が目指す将来の姿と方向性を、キャリアプランとして事業者側が一緒に考え、共有することが有効です。

事業者によるキャリアプラン設計支援のメリットは、今後のキャリアの目標ができれば、職員のモチベーションが上がり離職率が下がるというもので、一般企業では広まりつつある考え方です。

キャリアプラン・デザインの設計と実施には、仕事への主体性を高める効果もあります。

キャリアプランは仕事だけでなく、職員それぞれのライフイベント(結婚・出産など)やライフスタイルを考慮し設計することがポイントです。

キャリアプラン設計の中で、介護職であること・この施設で働くことのベネフィットを事業者側が提示できれば、事業者と職員が同じビジョンで歩むことができ、高いエンゲージメントを得られるでしょう。


役割を与え「期待」する

介護職でのキャリアをポジティブに捉えるうえでも、個々の職員に「役割」を与え「期待」をすると効果的です。

職員のモチベーションが上がる要因は、給与・待遇だけではありません。組織の中で役割と裁量権を与えられ、期待をされることによっても高められます。

キャリアプランの設計時に、面談で育成対象者を客観的に判断し、期待する役割を提示してみるのも一つの方法です。

特に、職務に自信を持てない職員でも「自分にもできることがある」と発奮する可能性が高いです。

人間は期待されるほど成果が上がるという「ピグマリオン効果」は、実験により効果が証明されているため、実践する価値はあるでしょう。

学びの機会を創出する

介護職員の定着率を上げるためには、知識や技能を得るための学びの機会を、職員が参加しやすい形で提供することも重要です。

たとえば任意参加の研修をオンラインで行えば、シフト制勤務の介護職員でも自宅にいながら参加しやすくなるでしょう。さらに研修の参加者を人事評価で加算するなどの施策を加えれば、職員の向上心とモチベーションが上がります。

そのほか資格取得を事業者が時間・費用面でサポートし、資格取得後は目に見える給与アップを行えば、職員の定着率の向上と質の担保を同時に実現できます。


介護の人材育成の具体的施策

ここで介護業界で職員の定着率を上げるために、有効な人材育成施策を紹介します。

  • メンター制度

  • OJT

  • OFF-JT

  • SDS

  • 認証評価制度(主に小規模事業者)

それぞれ解説します。


メンター制度

メンター制度とは、経験豊富な先輩が、後輩に個別サポートを行いながら成長を支援する制度です。

悩みの受け皿を設けることで、たとえば人間関係の問題を解決する糸口になり得ます。ほかにも日々の業務では言えない迷いや悩み、キャリアの方向性なども、客観的な指摘をもとに建設的な解決策を自身で見出すヒントになるでしょう。

介護職の人材育成では、ただ情報を一方的に提供するだけでなく、職員が考えていること・悩んでいることを知り、共有し解決することが人材定着のカギになります。


OJT(On the Job Training)

OJTとは、実際の業務の中で、育成担当者が直接対象者にマンツーマン指導することです。おそらくほとんどの事業所で実施しているのではないでしょうか。

注意点として、多忙な現場では育成者が利用者を介助し、対象者には口頭で説明して終わり、というパターンが起こりがちです。指導のもと対象者自身が行うことで技能を身に付けるプロセスのため、実践の機会を奪わないよう気をつけましょう。

育成担当者にとっては、業務を行いながら指導するため負担ですが、スキルを最も的確に伝達できる手段として確実に実施したいものです。


OFF-JT(Off-the Job Training)

OFF-JTとは、職場内外で行われる講習会などの、現場を離れて行う研修です。

具体的には講義・討議・事例研究・ロールプレイング・教育ゲーム・理解促進討議法・自己診断法・見学や実習などが一般的です。

施設外研修では、全職員ではなく代表が受講し、レポートを共有するケースが多いです。最近ではe-ラーニングでの受講が可能な研修も増えました。

行政や研修会社が主催するセミナーを活用すれば、体系的な教育を行いやすくなります。またおむつ会社などの専門業者に外部講師を依頼すれば、最先端の知識と技術を学べます。

OFF-JTの内容は多岐にわたるため、事業者内の課題に合わせて、優先順位を付け実施するとよいでしょう。


SDS(Self-Development Support System)

SDSとは実際の研修ではなく、職員自身が自発的に行う自己啓発や自己研鑽を事業者が支援する制度です。

具体的には職員が受講する研修時間を勤務時間とする、受講費用を事業者負担とするなどが挙げられます。

職員の自己啓発に事業者が費用や時間を提供することで、職員のモチベーションとエンゲージメントが高まる効果が期待できます。


小規模事業所は「認証評価制度」の支援を活用

「認証評価制度」とは、人材育成や就労環境を改善する取組みをする介護事業者を、都道府県が評価する制度です。国が介護人材の確保と業界のイメージアップの目的で実施しています。

特に小規模の事業者が人材育成や就労環境改善の制度を導入する際に、制度の評価・認証を受けることで、対象となる制度の運営経費の支援を受けられるメリットは大きいでしょう。

また認証評価制度では費用の助成だけでなく、認証を公示できることで求人や入居者募集時に信頼感を得られ、有利にもなります。自治体により運営が異なりますが、就職セミナーでのブース設置などの優遇を行う自治体もあります。

事業規模の大きくない事業者の担当者は、施設所在地の自治体の認証評価制度について確認するとよいでしょう。

参考:『人材育成等に取り組む介護事業者の認証評価制度について』(厚生労働省)


介護職員の人材育成計画の実施手順

ここからは、介護職員一人ひとりの人材育成計画の実施手順を紹介します。

  • 人材育成の目的を決める

  • 人材育成計画を作成する

  • 評価基準を設定する

  • 計画の見直し・改善をする

それぞれ解説します。

人材育成の目的を決める

介護職の人材育成計画の始めに、育成の目的を決めます。

まず、職員のあるべき姿と現状とのギャップを把握します。そこで見えてきた課題から、あるべき姿になるための改善策を本人と一緒に練ります。

育成目的を決める際に重要なのは、課題の洗い出しを職務階層ごと(管理者・主任・現場職員)に行うことです。ポジションごとに課題が異なるためです。


人材育成計画を作成する

育成の目的を決めたら、育成計画を作成します。

計画作成のポイントは、目標を達成するためのステップを細かく設定し、育成計画に盛り込むことです。ステップが細かいほど達成を把握しやすく、挫折しにくいためです。

育成計画に則り、育成担当者と対象者が同じ目標意識を持つことが重要です。実施の期間・実施する内容・到達目標を見える化し、共有しましょう。

育成計画にはOJT、OFF=JT、SDSをバランスよく組み合わせると理想的です。


評価基準を設定する

育成計画を作成したら、計画の進捗を把握するための客観的な「評価基準」を設定します。

ただし介護職に必要とされる能力・スキルが多岐にわたり、評価基準を選定しづらいことは、先に説明のとおりです。

評価基準の選定に迷う際には、公的な基準の一つである「介護プロフェッショナルキャリア段位制度」の「介護技術評価基準」を参考にするとよいでしょう。近年は、この基準で人事査定を行う事業者も増えています。


計画の見直し・改善をする

育成計画を運用し始めたら、適宜計画の見直しと改善を行いましょう。

本人と事業者とで定期面談を行うのも、進捗確認と共有の一つの方法です。面談を通じて取り組みの内容、目標への到達度、今後の目標を再評価し、必要があれば目標を再設定します。

仮に目標が未達成の場合には、原因を育成担当が本人と一緒に考えましょう。

進捗が順調なときだけでなく、行き詰まった時に共に考え並走することで、職員の職場に対する信頼感は強固になります。


介護職の人材育成における課題は「目標共有」と「教育の体系化」で解決できる

介護業界の人材育成には、業界独特の課題があります。

しかし個々のキャリア構築を計画から支援・並走しつつ、学びの場を提供することで、職員のやる気を引き出し、エンゲージメントを高めることは可能です。引いては離職率を下げることにもつながります。

介護職の研修内容はマンツーマンでのトレーニングや個別面談、外部研修などを組み合わせることで、人材育成を体系的に行えるため職能習得に効果的です。職員の質を均一化できるため、利用者満足度を高められると期待できます。

職員の目標を共に考え共有することから、適切なフィードバックを通じて施設も職員も成長できるでしょう。

時代のニーズに適合した施設運営のためにも、介護職の人材育成改革へ舵を切られてはいかがでしょうか。


よろしければサポートお願いします(^^) 頂いたサポートはクリエイターのみなさまのサポートやボランティア資金にします♪