「先に寝ときなさい」

昔話である。

長男だった俺は、4つ歳の離れた妹ができるまでは一人っ子だった。

当たり前だ。

残念ながら一人っ子のときに親に甘え倒した記憶はあまりない。

モノゴコロは妹の誕生とともにやってきた気がする。

それまでは、親子三人で晩御飯を食べ終わり、家族でテレビを見ながら寝落ちする俺をそのまま静かに寝かせてくれ、そのまま抱っこで寝具まで運んでくれ、俺が目覚めるのは布団の中というシームレスな流れになっていた。

これは覚えてるんだよ。

妹が生まれてきてからというもの、俺のこの穏やかな入眠体制、就寝体制が根本から覆されたことを衝撃とともに記憶している。

俺も二人の子供を育てたので、今となれば当然のことと思えるのだが、生まれたばかりの子供は非常に手がかかる。翻って、4歳の子供はもうご飯も一人で食べられるし、トイレにも一人で行ける。

もちろん、布団まで歩いて行くことだってできるはずなのだ。

それはわかる。

ドリフターズの「8時だヨ!全員集合!!」が終わり、眠気の中「Gメン'75」のオープニング曲が流れ、うつらうつらしていると「ウィークエンダー」が始まるという土曜日の至高体験。ウィークエンダーの途中で抱っこされて布団まで運ばれる時もあれば、親と一緒に(眠ったまま)最後まで居間に居続けることもあった。

妹が生まれてからはどうだ。

俺が少しでも眠たそうなそぶりをしたのが見つかると、

「やっちゃん。布団にいって先に寝ときなさい」と言われてしまうのだ。

初めてこれを言われた時の衝撃は覚えている。

突然「仲間はずれ」を宣告された感覚にとても近い。

当初はゴネたものだが、いずれ諦めた俺は冷たい廊下を歩いて一人で寝室へ向かうのが日課になった。

さて、何が言いたいのか?「お母さんがた。子供を一人で寝かせてはいけませんよ。」などといいたいわけではない。

もちろんそれはそれでまことに結構なことだとは思うけれど。

51歳になって、今同じような状況になっている。

嫁は音楽家であって、日々の作業を夜遅くまで続けているので、自ずと俺は「先に寝ときなさい」状態なのだ。

ただ、子供の時と違うのは、別に「寝とかなくても怒られない」ところだ。大人だから。

そして、レンタルDVDを見たりゲームをしたり読書をして、嫁が寝室に来るのを待つのだが(いやらしい気持ちはない)(無いと断言するのも困ったものだが)寝室の扉が開く時の、孤独から解放される時の喜びを、時空を超えて味わっている。

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