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下田逸郎&下村ようこLive @京都拾得

何ヶ月ぶりのライブハウスだろう。

飲食店の時間短縮営業にばかり気を取られてライブハウスのことにまで気が回らなかった自分を恥じた。

音楽は不要不急ではない。要急だ。

それなのにライブは軒並み中止され、ライブハウスまで閉鎖の憂き目を見ている。

京都の二条にある創業47年を誇る拾得(ジットク)というライブハウスのドアを潜るのは30年近くぶりのことだ。

まだやっていてくれた。

調べればわかることだが調べずに書くと、醤油蔵か酒蔵を改装したライブハウスで、少なくとも30年間はありがたいことに特に変わりがなく、雰囲気や匂いで簡単にタイムスリップすることが出来た。

客層は60代から70代の男性が多く、たまに年配の女性や一人だけ20代の男性もいた。客席を減らした営業のせいもあるがそれでも30人に満たないライブは静かでプライベート感覚に溢れていた。

仕事を終えたばかり、空腹で飛び込んだのでまずはラガービールとつけものピラフと他人丼をオーダーする。

開演は10分ほど押して18時40分ごろだっただろうか。

いつもの飄々とした下田さんの短いトークの後ギターを爪弾きながらいつもの歌唱が始まる。

下田さんは絶対ライブで聴くべき歌手だといつも思う。

「ライブが一番」というのは必ずしも褒め言葉ではないよなぁ。などと思うこともあるが、下田さんに限っては大いに褒め言葉である。

録音された下田さんの歌声はやはり生には遠く及ばず、ライブの臨場感を呼び覚ますトリガー程度の役割しか果たさないというのが申し訳ないが本当の気持ちだ。

それでも下田さんのライブ会場で販売しているCDはその機能のために必要なものなので必ず買うようにしているのだが。

下田さんの肺の底から息を吐き出すような、口が細長い洞窟になったような独特な歌唱法は健在で、一気に下田ワールドに引き込まれる。

歌唱法だけではなく、歌詞の世界観も下田さんの重要な聴きどころなのだけど、歌い出しの惹句のワードが全部上手く、そこを咀嚼しているうちに歌の中盤まで進んでいるということが頻繁にあって(僕だけ)口の洞窟とそこから漏れてくると息と声を聞くだけでそこはかとなく満足してしまうということを繰り返してしまう。

今回は下村ようこさんという京都在住のヴォーカリストと共演で、メインの下田さんのライブと下田節を下村さん解釈でカヴァーするという二部構成の近年の下田逸郎ライブの一つの手法の会だった。

下田さんの歌詞世界は女性目線のものが多く、それを男性である下田さんが歌うという絶妙なねじれ感が心地よいのだけれど、女性が下田さんに代わって歌うというのも意味合いがストレートに心に伝わってきてとても良いものでした。

終演後の立ち話で「下田さんの歌唱法が完成に近づいていますね」と歌手の嫁が下田さんに言うと「そうかもな。森繁久彌の歌みたいになったきたよな。ハハハ」と下田さんは笑っていました。

下田さん、お疲れ様でした。

あと何回ライブを聴きに行けるかな。


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