見出し画像

厄介な彼氏

彼氏ができました。同じ大学です。
しかし厄介なことがあります。
それは、彼が半年前までこの大学のミスキャンパスのグランプリと付き合っていたらしいのです。
厄介です。
ミスキャンパスグランプリのあの子。整った顔。整ったスタイル。誰かが整理整頓したの? きっと部屋も整理整頓ができていることでしょう。
彼はその部屋を知っているのかな?
まぁそんなことは聞けるわけもなく。
実は私、その子に一度だけ話しかけられたことがあります。

「すみません。学生証落としましたよ」
「あ、ありがとうございます」

これだけ。
それなのに、子供が描く太陽みたいに輪郭がハッキリした明るい子だなって思った。
その子をキャンパスで見かける度に、絶景のように眺めていた。
彼女に吹くのはそよ風だけ。揺れるのは前髪だけ。
地球も味方? みたいな子。
私と彼が付き合い始めたのは2週間前。
なんか恥ずかしくて周りには隠していた。
そしたら何も知らない友達が、彼とあの子が半年前まで付き合っていたって教えてくれた。
あの子は、いなくても話題になる。そんな子。
友達は「なんであんなに可愛いのに、あの普通のタイプの男と付き合ってたんだろね」と言った。
私はそんなことでは怒らないよ。
だって、その通り。
彼は私に見合っている。
私は彼に見合っている。
彼はあの子と見合っていない。
あの子は彼と見合っていない。
彼はあの子と見つめ合っていた。
あの子は彼と見つめ合っていた。
……彼と付き合っていたこと隠さなきゃよかった。
そしたら友達も気を使って、そんな知りたくもない情報を言ってこなかったかな。
でももう知っちゃったし。
あの子を好きになった彼はナイスだし、なにより彼を好きになったあの子もナイスだし。
ナイスな二人は結局、見合っている。見合っていた。見つめ合っていたのかな。
同じ人と付き合うだなんて、私とあの子の価値観は似ているのかな。だからあの子の内面の良さまでわかるのかな?
厄介なことって、あの子の見た目が私には到底敵わない。そんなことじゃない。見た目問題は厄介じゃない。
厄介なのは、あの子が明るくて憎めない子ってこと。性格問題。
見た目問題はどうでもい。厄介なのは性格問題。
あの子は心が澄んでいる。
店員さんがオーダーミスをしても「いいですよ! 実はそれと迷ってて、後悔してたんです。だからちょうど良かった」と言うに違いない。
それに比べたら私は「いいですよ。それ食べますんで」と何とも納得いかない様子を漂わせながら、渋々食べる。あるいは店員さんが強引に「作り直します」と言ってくるのを待つ、ひねくれ者。
私、あの子の澄んだ内面は、あの子の見た目のおかげだと思っている。
ミスキャンパスのグランプリに選ばれるほどの見た目があれば、私だってひねくれない。誰よりも澄んだ子になれる。
あの子の見た目通りの内面を、素直に認められない私は、やっぱりひねくれている。
そもそも私は見た目の優劣をつけている。
きっとあの子は優劣なんてつけていない。
でもそれはあの子が優劣の【優】だから。私だって【優】だったら、【劣】なんて考えない。【劣】だから【優】が見える。
あの子がもし【劣】だったら絶対に、優劣をつけていた。
あー……私はとことんひねくれ者。
あの子の性格には到底敵わない。
厄介な性格問題……いや、嘘です。私、嘘をついていました。
私より遥かに見た目がいい子と付き合っていた彼……それが受け入れられない。
私の見た目をどう思ってる? あの子より劣るけど、中身がいいんだよって思ってる?
正直に打ち明けます。
厄介なのは見た目問題。
ある日、彼とテレビを見ていたらアイドルが出てきて、「可愛いな」って。そんなことは何の問題もない。私はそんなことで妬くような不安に迫られた安物の女じゃない。ただ、そのアイドルとあの子がそっくりだった。それは問題あり。大問題。
やっぱり彼は私の見た目を好きではない。
妥協して私と付き合っている。
見た目問題は厄介。
性格問題なんてどうでもいい。
あの子が私より性格が良くてもいい。遥かに良くてもいい!
ただ私より遥かに上の見た目はダメ!
私より見た目が少しだけ上ならまだ許せた。
よりによって、ミスキャンパスのグランプリ!
今後、苦しめられる見た目問題。
嫌だな。楽になりたいな。
だったら楽になろうよ。自分を楽にしてあげる。
うん、そうしよ。
付き合ってまだ2週間。
引き返すなら今だよね。
次、彼に会ったとき、別れを告げるね。
私は、自分より劣る見た目の女子と付き合っていた男を探します。そんな人と付き合います。

あれから8年経って、私はもう29歳。
あの子が一生、味わうことのない見た目問題。
いや、あの子も年齢を重ねたから、若い子に感じているのかな。
見た目問題。今なら許せる。若い頃は許せなかった。
あの子は今頃何してる?
私は一歩踏み出したよ。目の前の大きな扉が開いたから。
目的地まで走ったら2秒で着くのに、お父さん引き連れて馬鹿みたいにゆっくり歩いて、30秒もかけて歩いている。

あの日、彼に別れを告げた。理由も正直に言った。そしたら彼は笑いながら、「好きな顔と、愛しい顔は違うんだ。お前は愛しい顔」と言った。
彼の言葉。世間一般では70点くらい? でも私の心は澄んだんだ。
100点の言葉は臭すぎる。
70点の言葉は私の120点。
私と彼は見合っている。

目的地にやっと辿り着いた。
西洋人と彼の元に。
お父さんバイバイ。
……ここで厄介なことが一つ。
……私、緊張している。
……彼、もっと緊張している様子。
やっぱり私と彼は見合っている。
そして見つめ合っている。白いベール越しに。
着飾った私。今日ならあの子に勝てるかな。