レジュレクシオンの恋
「別れたい」
僕は正直に言った。
「嫌だ。絶対に無理」
彼女は嫌がった。
付き合って10ヶ月。彼女の家で別れを切り出した。
「別れたい」「無理」「別れよう」「嫌」
話し合いは平行線。それもそのはず僕には具体的な理由がなかった。ただ何となく別れたかった。1年付き合うとダラダラ続いてしまいそうだし、別れるなら今しかないという考え。
しかし話し合いが3時間を経過した頃、ついに彼女が痺れを切らした。
「わかった。別れる。こんなにも耐えてる自分がみっともなく思えてきた」
「ごめん」
「その代わり、私の大好きな映画を一緒に見て欲しい。最後に」
そう言った彼女は【レジュレクシオンの恋】というDVDを出した。
【レジュレクシオンの恋】はフランス映画。
パリの靴職人と女優のラブストーリー。
1970年代。
女優が有名になる前から靴職人とは恋人同士。
そんな2人の、別れる人生と別れない人生を描いたもの。
別れる人生は、女優が売れ始めると映画プロデューサーと恋に落ちる。「貴方より素敵な人を見つけた。その人を見かけると、虹を見つけたときのように誰かに言いたくなるの」と言われ、靴職人は捨てられる。
別れない人生は、女優が売れ始めて数々の俳優が言い寄ってくるも靴職人を愛し続ける。
この2パターンが交互に描かれていくも、どちらの人生を描いているのか、わからなくなるという演出。「これは別れた人生?」「これは別れなかった人生?」と混同したまま、10年の月日を描いていく。しかし、実は2パターンの人生ではなく、1つの人生、別れない人生を描いているだけだったというもの。
つまり女優は浮気をしていた。靴職人と別れるときの言葉「貴方より素敵な人を見つけた。その人を見かけると、虹を見つけたときのように誰かに言いたくなるの」これは映画のセリフ合わせをしていただけだった。
女優の過ちを知らぬまま靴職人は一途の愛を貫く。人生には知る必要があるもの、ないものがある。[悪]を隠し通すことは[愛]になるのではないか? というメッセージの映画。
靴職人の一途の愛に、僕は号泣した。
何度も見ているせいか、彼女は泣かなかった。
「とてもいい映画だった。レジュレクシオンってどうゆう意味?」
「フランス語で復活」
「……復活か」
途端、彼女とは別れない人生を選びたいと思った。映画に触発された僕は単純だ。もしかするとこの映画を見せた彼女の狙いはこれだったのかもしれない。
「やっぱり別れるのはやめよう」
「……私たちは別れるべきよ」
「え? じゃなぜこの映画を見せた?」
「この映画を見たら考え直してくれると思ったから」
「だから、考え直したんだ。この映画を見て思った。別れるのはやめよう」
「私はこの映画を見ると必ず泣くの。でもあなたと別れると思うと、それどころではなかった。映画に集中なんてできなかった。それに比べてあなたは映画にのめり込んだ。泣いた。大泣きした。あなたは本当に私のことを好きじゃなくなってる」
何も言えず、ただ彼女と目を合わせることしかできなかった。
こうして僕らは別れた。