見出し画像

蘇州新区「商業街」の今...Vol.2

日系企業の微信(Wechat)公衆号の凍結

前回は蘇州新区淮海街、通称「商業街」における日本語使用の禁止についての現状を書いた。
しかしそれは政府による反日的な施策なのだろうか?
また8月の台湾問題との関連はあるのだろうか?

本来ならこのVol.2ではそれについての考察を書くつもりだったのだが、そんなことを考えている内に今週ある衝撃的なニュースが飛び込んできた。

無錫のある日系企業が開設していた微信(Wechat)の公衆号(企業ページ)が凍結されたというのだ。
これはその企業の総経理から直接聞いたので間違いない。
ことの詳細はこうだ。

その企業では微信公衆号を使用して日本語と中国語で企業情報や顧客向けのサービス情報を配信していたのだが、その内容の特に中国語表現の一部に違法な表現があったとのことで、配信業務を委託していた中国企業のトップが警察に拘束されたというのだ。

結果としてこの公衆号とそのアカウントは自主閉鎖するように命じられ、過去の配信分も含めてアカウントそのものを削除するに至ったという。

この日系企業の総経理についてはたまたま日本に帰省中であったため拘束されなかったものの当分は入国できそうにないと語っていた。

ではなぜこのような事態に陥ったのか?
もちろんこの企業の脇の甘さがあったことは言うまでもないが、実態としては一般市民からの通報によるものらしい。

蘇州新区商業街での日本語禁止令との共通点

さて、蘇州新区商業街の件に話を戻そう。
前回、旧知の商業街飲食店経営者に取材をした旨を書いたが、実はその際にさらに突っ込んだ取材をしていたのだ。
ここで詳細は省くがまず今回各店舗を廻って通達を行っているのは、政府の役人ではなく、民間の物業管理会社の社員のようである。

実は2年前の商業街リニューアルを機に商業街を民間の大手ビル管理会社に管理や広報を含めた一切を委託しているという。
従って今回もこの管理会社の社員が通達をして廻っているという。

そこで取材をした飲食店経営者の方が感じているニュアンスとしては、政府やその管理会社等が主導していわゆる反日的な規制を行なっているということではないという。

ではなぜ?
という疑問がわいてくるのは当然であろう。

その答えはこうだ。

実はあくまでも噂だが、3週間ほど前に反日のデモ隊が商業街にやって来るという噂があったようなのだ。
もう一度繰り返すがあくまでも噂である。
噂ではあるがこのような動きや空気を察知して、政府としてはそれらを極力刺激しないように日本語表記の看板等を撤去するよう要請してきたというのが真相のようである。

そしてこの日本語云々というのも市民の投書によるところが大きいという。
もしかしたら例の浴衣騒動もそのような背景かあるのかもしれない。
これは正しく無錫の日系企業のケースと基本的構造としては同じではないか?

多くの若者で賑わう蘇州新区商業街

愛国無罪の弊害

ご存じの通り中国では2005年、2012年と大規模な反日暴動が発生している。
特に2012年の時にはこの商業街も多くの日本料理店が破壊されるなど大きな被害が発生したのは記憶に新しい。

この時、これらデモ隊の免罪符になったのが中国政府の掲げた「愛国無罪」という考え方である。
愛国無罪とは人民の愛国による行動や言動はこれを罰しない、という考え方、方針である。
もちろんこんなバカげた発想が法治国家においてあってはならないのだが、2005年、2012年と二度の反日暴動は一部で官製暴動とも噂され、一説にはこれを肯定するための論理が「愛国無罪」とも言われている。

しかし、それは本当に対日圧力として利用する場合には都合がいいのだろうが、2012年時がそうであったように得てしてこのようなデモや破壊活動はいつのまに反政府活動に変質する危険性をはらんでいることもまた事実である。

いやむしろ反政府的な感情の発露として愛国無罪を利用した反日デモの形を採っていると言った方が正確かもしれない。

とにかく政府にとっては諸刃の剣なのだ。

ゼロコロナ政策による急激な景気減速が影響?

ところで皆さんもご存じの通り今中国経済は深刻な不景気に見舞われている。
今年第一四半期のGDP成長率も2%未満と言われ(恐らく実態はもっと悪い)、さらに昨年来の大手不動産デベロッパー恒大の債務不履行問題、アリババの米株式市場での株価下落とIT産業への規制等々により、八方ふさがりの状態と言っても過言ではない。

もちろんそれは市民生活にも大きな影を落としており、マンションのローンが払えなくなった市民の投身自殺や仕事を失った低所得者層などが増え続ける中、マンションの売却を禁止したりといった締め付け策に不満を募らせた人々が激増している。

そんな中、一昨年リニューアルされたこの商業街は連日多くの人で賑わい、多くの日本料理店もかつてない増収増益という局面を迎えている。

恐らくはこうした現状に不公平感を募らせた人々が「愛国無罪」を盾に政府に対する投書、通報を行っているのではないか?というのが私の見立てである。

密告制度の奨励

少し前に話題になったが、近年、中国政府は違法行為や反政府的な言動などに関する通報、密告を奨励する制度を発表した。
これらは一部で「文革2.0」などとも揶揄されているが、この密告、通報には報奨金も支払われることから、特にインターネットの世界を連日巡回している市民も大勢いると聞く。
つまりこの密告、通報による報奨金で生計を立てているというケースもあるようなのだ。

しかし、個人的にはこれまで蘇州新区で生活をし、企業活動を営んで来た者の感覚として、蘇州新区政府が主体的に日本企業や日本文化を貶めるような行動に出ることは考えづらいと思っている。
これは長年この蘇州新区に暮らした者にしかわからない感覚かもしれない。

しかも現在の商業街の顧客の80%は中国人であり、経営者の95%以上は中国人であることを考えても政府発信の制限というよりも、愛国無罪を盾にした不満分子に対する融和策というのが真相ではないかと思う。

しかしながら、浴衣騒動のように政府方針を曲解した一部の官憲による暴走で一触即発の事態もまったくないとは言えないであろう。

しばらくは静観するしかない。

ちなみに先ほども今も蘇州に暮らす旧知の日本人に連絡してみたが、今日も蘇州新区「商業街」は多くの中国人たちで賑わっていたようだ。
(了)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?