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御柳

前回予告した植物についてです。

前回の記事

「図書館の魔女」の中に、こんな一節が出てきます。

他の灌木ならば育ち得ないような乾燥した不毛の砂地に、微かな水の気配を察知して深く広く根を下ろす、針のように葉を細らせ、吸い上げた水は決して無駄に蒸散しない。そんな木が生える場所は、水はあるのに乾いている、そんな矛盾した場所に決まっている。

高田大介『図書館の魔女』講談社

マツリカが、御柳(ギョリュウ)という植物について述べているセリフです。

  • 御柳(ギョリュウ)
    英語名のタマリスク(Tamarisk)とも呼ばれる。

  • 学名:Tamarix chinensis
    Tamarix:ピレネー国境近くのタマリクス河流域に多く産したことから。
    chinensis : 中国の。
    イベリア半島のつけ根に位置するピレネー山脈と中国。植物の名前の中に、離れた二つの地域が共存しているんですね。

  • 漢名:檉柳(テイリュウ)。「紅柳」「河柳」あるいは、年三回も花が咲くことから「三春柳」とも呼ばれる。

  • 原産:中国北部

  • 落葉小高木。

  • 針のような細い葉が密集し、ふんわりとした独自の樹形。
    春と秋に、ピンクの小さい花がびっしりと棒状について咲く。
    果実は数ミリ程度の蒴果。

  • 水辺近くに多く分布。
    乾燥や塩分に強く、砂漠などでも根を長く伸ばして水をよく吸う。

ギョリュウの木はかたく、古代エジプトでは戦闘用馬車チャリオットの本体などにも使われたそうです。

旧約聖書の出エジプト記にも御柳の近縁種が登場します。
預言者モーセに連れられてエジプトを脱出したイスラエルの人々が、荒野で食べるものに困っていると、神がマナという食物を与えてくれます。このマナは、ギョリュウの近縁種マナギョリュウに寄生する虫が出す甘い分泌物から作ったといわれます。

タクラマカン砂漠に眠る小河墓地遺跡からは、ミイラと共にギョリュウの枝も出土しており、この地には今もギョリュウ科の植物が生えています。この遺跡で人々が生活を営んでいた時代には、水が豊かで河が流れ、草地や生する林が広がり、ギョリュウも群生していたそうです。
タクラマカン砂漠には、1995年に砂漠を横断する砂漠公路が作られたそうですが、その緑地化にもギョリュウが用いられています。

原産地の中国では、唐の時代から庭園にギョリュウが植えられ、漢詩にも登場します。楊貴妃がこのギョリュウを愛したことから、枝葉の雰囲気が柳に似るこの木は「御柳」「聖柳」などと呼ばれるようになりました。

御柳の原産地は中国、それも砂漠のオアシスなのだそうです。7〜8メートルの高さに成長し、独特の樹形もを持つ木の姿は、何もない砂漠では旅人の目をひいたことでしょう。

世界の歴史を変えた植物というと、チャ、コーヒー、ジャガイモ、コショウ、ワタなどが思い出されますが、ギョリュウもまた歴史のなかで、人間と様々な形で関わってきました。

古代エジプト、聖書、砂漠、遺跡、中国王朝。
浪漫をかきたてられる植物ですね。



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