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沙羅双樹の花の色

「沙羅双樹の花の色ってさあ、本当に花の色なのかな。
古典で色って言葉、意味が違う場合あるよね」

大学受験を終えた息子は、思い出したように質問を投げてくることがあります。

昔から、思ったことをストレートに口にする息子。
身体に不調をきたすほどつらかった出来事を一切口にすることもなく、3年もたってから、何気ない一言で漏らしたこともありました。
本人曰く、隠しているのではなく言いたくないだけだとか。
言わないこと自体も、彼の思ったことなので、結果的に重要なことが伝えられなかったりもして、少々ややこしくはあります。

前置きが長くなりましたが、彼が独立する前に、この難題を私なりにクリアしよう!

沙羅双樹

沙羅双樹が示す木は、インド原産の常緑樹。
お釈迦様が亡くなられるときに横たわった場所は2本の沙羅の木の下でした。入滅の時、よい香りがしていた淡い黄色の花が枯れ、その後その死を悲しんで再び真っ白な花を咲かせました。そしてお釈迦様の上に舞い散り、覆いつくしたと言われています。双樹は2本の木を意味します。
(2本組8本の木がお釈迦様の四方を囲んでいた、という説もあるそうです。)

日本の沙羅

本当の沙羅の木は日本ではほとんど見ることができず、平家物語が書かれた時代には、日本に入ってきていなかったとされています。

寒さに弱く、日本の寒さを耐えることが難しいため、日本ではナツツバキが沙羅の木の代用樹として寺社などに植えられるようになりました。平家物語の「沙羅双樹」もナツツバキをさしていたとする説が多いそうです。

ナツツバキ

ナツツバキは初夏にまん丸のつぼみから可憐な白い花を咲かせます。品種改良でピンク色の花をつけるものもあるそうです。花弁は薄く、1日で散ってしまいます。また、花弁が薄く、傷ついた箇所は茶色くなります。
花言葉は「はかない美しさ」「あいらしさ」。

沙羅双樹の花の色

古文の「色」という言葉には、色彩の他に、風情や趣といった意味もあるそうです。

「娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす」

平家物語の有名な冒頭は、お釈迦様の入滅と沙羅双樹の逸話が下敷きになっていますが、平家物語で語られている沙羅はおそらくナツツバキ。
ここでいう花の色は、色彩の変化をあわらすのではなく、傷つきやすい白い花弁と1日で花を落とすはかなさ、お釈迦様の入滅を見守る心根、栄耀栄華が長くは続かないことを重ねあわせているのではないかと思います。

沙羅双樹の花の色を、こんな言葉で表現された方がいらっしゃいます。

人生の転機で、ふっと感じる運気のようなものかもしれない。

言葉から、その人が積み重ねてきた人生が見えるように思えることがあります。こんなに含蓄のある言葉を、私は紡ぎ出すことができませんが、今度沙羅の花を見かけたら、多くの人がこの花に馳せた想いと共に、未来への明るい運気を感じられるといいな、と思います。

(息子への回答になっていないような‥。どうしよう。)

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