爪が伸びている。ふと爪を見ると伸びている。
日本文学の冒頭にありそうな書き出し。正岡子規の俳句にもありましたっけ。爪とは一番目につくところにあって、一番なんてことないところだけれでも、一番生命力を感じるし身近な存在でもある。病気をして動けなくなって、寝込むことが多くなると、多分人間は自分の手を見るのではなかろうか。あんなに具合が悪くて寝込んでいるのに、ただ、そこにある爪は伸びている。自分はただ寝ているだけで、働けもしないのに、ただそこについてる爪は伸びる。そこに意味なんてない、ただそこに与えられた生命力が発揮されているだけだ。教科書によくこういう作者の気持ちはどれか。みたいなのあったけど、こんな気持ち、中高生に理解しろといったってなかなか難しかったよね。いつも若さを持て余して、たまに熱出して寝込むくらい。今となっては有り余るパワーをもっと他に使えばよかったな、とかとも思う中年がここに一人。でもこの爪に教えられるのは、人間哲学でもあるのです。生きる意味を考えすぎるなと。ただそこに生きているのが自分なんだと。短くバランスよく整えて、手の動きの邪魔をしないで物を掴むために己の本領を発揮しているこの爪が大好き。抗がん剤は、髪はよく知られているけど、爪にも副作用が出やすく、黒ずみが出たり、歪んだり、爪が剥がれたり割れたりすると言われている。幸い、私は剥がれたり割れたりする副作用はでなかった。だから髪の毛と同様、手の先についてるだけでも愛おしくてたまらないのです。黒ずんで少し歪み、一般的には決して綺麗とは言い難いでしょうが、私は今の爪が人生で一番好きで、一番気に入ってます。ネイルサロンに行ってたくさんお金をかけてキラキラさせた手よりも。だから、副作用が出にくくなるように大事にしてきたこの手で、これからは何をしようかとワクワクしてる。そう、ただ生きてるだけだから。
手相見る人って、爪も見てくれますよね。まだ独身だった頃に、知り合いの漢方薬局のおじさんが、東洋医学と合わせて手相も勉強していたので、わー!見て欲しい、私も見て見て!とお願いしたら、私と女性の友人を見てくれたことがあった。私の爪は丸みがあって強調性があってバランスの良い爪だね。と言ってくれた。私の後に見てもらったもう一人の子は、うわー!すごい性格きついだろ。自分を通すね。おーこわ!こりゃ男と付き合うのもなかなか難しいわ。と言われ、しかもズバリと当てていて、本当にその通りだったので、二人とも何も言えなくなってしまい、気不味い雰囲気になった。彼女は笑っていたけど目は笑っていなかった。今も彼女は独身で実家暮らし、フリーランスで頑張っている。

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