第22回ど文系のお金の話

第22回ど文系のお金の話、今日のお話は金融危機の防止策についてです。
世界に多大な影響を与えたリーマンショックなどの金融危機は、銀行など金融機関が投資に対し過大なレバレッジをかけていたことや証券化により危険度の高い資産があちこちの商品に混入していたことから想像以上の大きな打撃を残しました。この危機によって今までのBIS規制といった金融規制だけでは金融危機を防ぐにも、沈静化させるのにも不十分であることがわかりました。そこで、世界の関係当局は新たな金融規制を設けることで金融機関や金融機関以外(シャドーバンク)の無謀な行動を規制しようとします。

第8回ど文系のお金の話でお話しした通り、一つの銀行が倒産すると他の銀行にもその影響が及ぶことをシステミック・リスクといいます。では金融危機や銀行の無理な投資によって巨大な銀行が倒産することになったらどうなるでしょうか。大きな銀行はその分だけ取引先が増えるので倒産してしまったらその影響は計り知れません。このように大きな銀行の破綻が金融システム全体に多大な影響を与えるという懸念をToo Big To Failといいます。金融システムや預金者へ影響を出さないために大手銀行を潰さないように政府が救済措置をとるようになると、それにあぐらをかいて無謀な投資を増加させるモラルハザードが進行します。そうした事態を防ぐためにも金融規制を強化し、金融機関の行動を制限する必要があります。

まず金融規制強化から見ていきましょう。自己資本比率の引き上げ強化、銀行業務内容の制限、流動性の高い資産の保有を要求する、金融機関による類似行動への警鐘の4つのマクロ・プルーデンス的な視点から金融危機を防ぎ鎮めることを目的として設定されました。
自己資本比率を高めるということは、無理に借金を膨らませず返済できる範囲内で取引を行わせる規制であり、金融機関の倒産リスクを低下させます。銀行業務内容制限はディーリング業務に対する制限です。ディーリング業務とは銀行自ら金融商品を売買することであり、ここを規制することで無謀な投資を制限することができます。流動性の高い資産を保有させることは、現金にするために時間がかかる資産の保有を規制することで、支払い不能に陥るリスクを低下させます。これは銀行でも一般企業でも共通ですが借金にしろ日々の取引による支払いにしろ、現金の流れが止まった瞬間その企業は倒産します。支払い不能になった瞬間企業は倒産するためそのようなことにならないようにある程度の現金の余剰がなければなりません。流動性が低い資産の保有を増えすぎると、即座に支払いに当てる現金の余剰が少なくなってしまうため倒産するリスクが高まります。金融機関による類似行動への警鐘は、個々の金融機関は健全な経営をしていても全ての金融機関が似通った行動を取っていると、何かしら問題が起きていたときに総崩れになう危険性が高まります。個人の投資のように銀行としても分散した投資を行うことでリスクを軽減することができるのです。

さて、自己資本比率をあげたとしてもその質が低ければ危険性は変わりません。金融機関に良質な自己資本を持たせるために設定されたのがバーゼルⅢです。リスク資産に対する普通株などの比率を4.5%に引き上げる、リスク資産の2.5%以上の資金保全バッファーを設ける、好況時の規制資本を増額させるカウンターシクリカルバッファーを設ける、大手金融機関向けの上乗せ規制、単純総資産比3%の自己資本を求めるレバレッジ規制、流動性の高い資産の一定保有を求める規制の6つの規制が盛り込まれました。
ここで用語解説。「バッファー」とは緩衝材になるもの、または余剰のことを示します。資本安全バッファーとは金融機関が倒産しないための資金的な余裕を持たせるということ、カウンターシクリカルバッファーとは景気の動きに逆行した緩衝材になるものをしめします。金融機関の行動を自己資本比率によって規制することで安全性を高めようとする規制です。
また対ディーリング業務の規制としてボルカー・ルールが設定されました。これにより銀行は短期的な証券および派生商品の取引を自己勘定では行えなくなりました。またヘッジファンドへの投資も原則として禁じられました。

以上が金融危機に対する金融規制の解説でした。次回のテーマは日本で起きた金融危機、記憶に新しいバブル崩壊とその後遺症についてです。最後までお付き合いいただきありがとうございました!もし気に入っていただけたらフォローお願いします!