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母の誕生日

私は母とそこまで仲が良かったという
わけではありませんでした。

弟が生まれてから
弟ばかりを可愛がる母を見て
その溝はより一層深くなり
わたしと母の距離は
あまり安定していたとは言えませんでした。

わたしは産まれてすぐに
母の実家に預けられ
しばらくはおばあちゃんが
育ててくれていたと
なんとなく聞きました。

夜泣きもひどく、
父が夜になるとわたしを車に乗せて
寝付くまで車を走らせてくれたことが
一番古い記憶にあります。

どことなく、
わたしに対しての距離がある母と、
それを感じてしまうわたし。

微妙な距離感を保った
母と娘の関係でしたが
その年の母の誕生日、
わたしは母に何かを渡したくて

少ない手持ちの中で選べる金額の範囲では
ありましたが
バイトの休憩中に、店内で服を2着選び
ラッピングをしてもらいました。

その日のバイトの帰りに
家の近所の大きな書店で
仕事帰りの母と偶然行き合いました。

家で渡すよりはいいかな?と思い
私はその場で母にプレゼントを渡しました。

今まで、母の誕生日に
何かをプレゼントした事は
ありませんでした。

それは、生まれて初めての
母へのプレゼント。

娘からの初めてのプレゼントに
母は嬉しかったようで
その書店の隣にあったイタリアンのお店で
一緒にご飯を食べて帰ろうと
誘ってくれました。

しかし、プレゼントを買ったことで
手持ちがなかったわたしは
母に食事をご馳走できる余裕はないと思い

「もう手持ちがなくて…」

と伝えると

「ご飯はお母さんが出すから大丈夫だよ」

そう言ってお店に向かって行きました。

母と二人きりで食事をしたのも
これが初めてでした。

何を食べたのかも
何を話したのかも全く覚えてはいませんが
母のとても嬉しそうな顔だけは
よく覚えています。

母のあんなに嬉しそうな顔は
かつて見たことはありませんでした。

まさかこれが
最初で最後の母と2人きりの食事になろうとは…

それから2週間後

私が渡したプレゼントの服に
袖を通す事はなく

母は53歳という若さで、
他界する事になるのです。


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