アメリカにおける児童ポルノ処罰の動向とデジタルデータによる児童ポルノの「拡散」「所持」に係る判決 United States v. Shaffer(US App Tenth Cir, 2007), Barton v. Georgia(Gerogia App, 2007)

●児童ポルノの処罰の動向

 アメリカにおいては、50州及び連邦法の全てにおいて、18歳以下の児童の性的画像(Child PornographyともCSAMとも。)について処罰法を制定している。児童ポルノ処罰は、大抵児童ポルノの作成に係る罪、また、児童ポルノの拡散、受領、所持といった二次的な罪の両側面から犯罪化される。
 連邦法条の児童ポルノの作成罪に対する処分はとても厳しいものである。18USC§2251は、児童ポルノを作成した者は、初犯であれば15年以上の懲役を科するとしている。また、もしその児童ポルノの作成が児童の死を伴うものであれば、死刑又は30年以上の懲役が科される。
 児童ポルノの拡散、受領、所持を犯罪化する理由としては、まず第一に、児童ポルノは児童の性的虐待を伴うものが通常であり、これらが継続的に存在すること自体が被害児童にとって侵害の継続であるから、これを取り除くべきこと、また、第二に、拡散、受領、所持を犯罪化することで、児童ポルノに対する需要を減らし、児童ポルノの作成自体を減少させることが挙げられる。(また、文献によっては、所持を禁止することで、既に所持された児童ポルノの破棄を促進すること、ペドフェリアが児童ポルノを他の児童に見せ、こうしたことは通常であるとしてグルーミングを行うことを防ぐこと、等も挙げられる。)
 なお、児童ポルノの所持と児童に対する性犯罪の相関についても挙げられることがあるが、これは米国においても未だ議論がある論拠のようである。(例えば、Janis Wolak, David Finkelhor, & Kimberly J. Mitchellによる論文”Child Pornography Possessors Arrested in Internet-Related Crimes: Findings from the National Juvenile Online Victimization Study”(2005)によれば、アメリカにおける1年間の児童ポルノ所持から捜査が行われた者のうち、6人に1人は、実際に児童に対する性犯罪を行う又は行おうとしたとして再逮捕されているという研究結果がある。また、Bourke & Hernandezの研究によれば、児童ポルノ所持等で構成プログラムを受けている155人を調べたところ、最終的にそのうち131人が1777人の児童に対して行動を起こしたと認めたという。)
 児童ポルノ規制の合憲性に係る連邦最高裁の主要な判決としては、以下の2つがある。
・New York v. Ferber(1982):児童ポルノ規制を合憲とし、これを「拡散」を処罰することは許容されるとした。
・Osborne v. Ohio(1990):児童ポルノの「所持」を処罰することは許容されるとした。

●合衆国法典第18編第2252条、第2252A条の概要

1998年にthe Protection of Children Against Sexual Exploitation Actによって合衆国法典第18編に追加された§2252は、いわゆる書籍や写真などの実体のある児童ポルノを想定しつつ、以下の行為を処罰する。
 (1)州を跨ぐ、又は海外への故意による輸送又は発送
 (2)(1)によって輸送又は発送された物の受領又は拡散
 (3)販売又は販売目的の所持
 (4)単純所持や閲覧目的のアクセス
このうち、(1)~(3)については、5年以上の懲役、(4)については10年以下の懲役が課せられる。前科があればより重い量刑の判断事由となる。

 上記の§2252に追加して、1996年にコンピューター利用の児童ポルノを処罰するためにthe Child Pornography Prevention Actによって追加されたのが、§2252Aである。コンピューターを利用すること以外については基本的には§2252と類似の作りであるが、以下の2つの要素については§2252A条独自のものである。
・§2252A(a)(3)(B):児童ポルノの広告、宣伝、提示、配布、または募集
・§2252A(a)(6):児童に対する児童ポルノの故意による配布、提供、送付、または提供

●デジタルデータの「拡散」「所持」に係る判決

 従来、児童ポルノとは現実に存在する書籍や写真を想定して立法化されたものであった一方、今日はデジタルデータが主流であり、物事は今までとは大きく異なる。
 そこで、デジタルデータの「拡散」について判示したものとして、連邦第十巡回区控訴裁判所の米国対シャファー(United States v. Shaffer)判決を、またデジタルデータの「所持」について判示したものとして、ジョージア州控訴審のバートン対ジョージア州(Barton v. State)判決を紹介する。

=================================

United States v. Shaffer
United States Court of Appeals for the Tenth Circuit, 2007
472 F. 3d 1219

【事案概要】被告人シャファーは、インターネットによるピアツーピアのファイル共有ソフトKazaaを利用して児童ポルノを拡散したとして起訴された。Kazaaでは、同ソフトによる共有フォルダにファイルをアップロードすれば、他の利用者はダブルクリックのみで当該ファイルをダウンロードできるというものであった。ダウンロードされるごとにユーザーポイントが付与され、被告人は自らのファイルが誰かしらによりダウンロードされたことを知っていた。原審は被告人を有罪とした。

【争点】被告人は、起訴事実について認めたものの、§2252A(a)(2)に規定する「拡散(to distribute)」とは、郵便やメール、手渡し等の他人に対して譲渡するための能動的な行動を伴うもので、単に共有フォルダに挙げる行為はこれに当たらないと主張して控訴した。

【結論】
共有フォルダに児童ポルノをアップロードする行為は、「拡散」に該当する。原審の判決を容認。

【理由】被告人は児童ポルノを他人に「引き渡し、譲渡し、分散させ、または配給した(delivered, transferred, dispersed or dispensed)」と言え、これは「distribute」の辞書的な意味と同じであると言える。被告人は他人に渡すための能動的な行動は取っていないとしても、他者が自由に彼のコンピューター上の画像やビデオにアクセスすることを許可し、それらのデータを手に入れたりダウンロードしたりすることを公然と招いている。なお、被告人は自分自身も他社の共有フォルダから児童ポルノをダウンロードしており、Kazaaの仕組みについて十分理解していた。

===============================

【論点】
①本事件では、実際にファイルは誰かしらによりダウンロードされていたが、もし誰もダウンロードしなかった場合、「拡散した」と言えるか。
この点、Unted States v. Husmann (3d Cir. 2014)では、「拡散」は所持が他人に移ることが必要であると判示している。

②連邦法では、「拡散」と「受領」の量刑は同じである。他方、物理的媒体の場合は一度拡散してしまえば元の持ち主はもう拡散できない一方、電子ファイルであれば何回でも拡散可能である。この量刑は合理的か。
 また、「所持」は量刑が軽いが、これは「受領」と似ているところ、「受領」どのような理由づけで重く処罰する必要があるのか。

===============================

Barton v. State
Court of Appeals of Georgia, 2007
648 S.E. 2d 660

【事案概要】被告人バートンは、児童に対する性犯罪で捜査された。彼のパソコンを押収し捜査したところ、ネット上で児童の性的画像を見た記録がハードドライブ上に確認できた。コンピューターの仕組み上、閲覧をしたあらゆる記録は自動的にハードドライブに残る(いわゆる「キャッシュ」に保存される)一方、被告人はそのファイルをダウンロード等して保存したわけではなかった。被告人は児童ポルノの所持で起訴された。

【争点】被告人は、①コンピューター上に保存するための能動的な行動(affirmative action)をしていないこと、②ハードドライブ上に自動的に記録が残るとは知らなかったこと、③これらの記録から当該画像を復旧したりアクセスしたりする技術を持っていないことから、「所持」には当たらないと主張し控訴した。

【結論】知らない間に自動的にキャッシュに保存された児童ポルノは「所持」に当たらない。原審判決を破棄。

【理由】先例は、「所持」とは児童ポルノを制御又は支配(dominion and control)することである示している(United States v. Kuchinski(9th Cir. 2006)、United States v. Romm(9th Cir. 2006)、United States v. Bass(10th Cir. 2005), United States v. Tucker(10th Cir. 2002))。しかし、これらの先例ではキャッシュに保存されたことを知らない場合に「所持」で有罪としたものはない。一度閲覧した画像は自動的にキャッシュへ保存されると知らない限り、それらの画像を制御又は支配したとは言えない。
 ジョージア州法においては、「所持」とは、ある時点で、ある物を故意に直接物理的に支配している人は、その物を実際に所有していることを指す。実物の所持ではなくとも、ある時点において、ある物に対して制御又は支配するための能力と意思の両方を故意に有している(the power and the intention...to excercise dominion or control)者は、その時点でその物の推定的に所持(constructive possesion)していることとなる。
 本件においては被告人はハードドライブ上に自動的に記録が残っていることを知らなかったことから、被告人に制御又は支配の意思はなく、児童ポルノを「所持」していたとは言えない。

(注:被告人が主張した争点③の画像を復旧等する能力の有無について、判決は触れていない。)

==============================

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?