巨大キムチボックスに込められた韓国の情①

 「韓国人と結婚するということは、冷蔵庫から常にキムチの香りがするということを受け入れることである。」
 これは今考えた格言です。ただ、なかなか的を射ていると思います。キムチは韓国人と切っても切れない関係にあり、韓国人家庭の冷蔵庫にはいつもキムチがあるといっても過言ではないと思うのです。よく、日本人が「韓国人にとってのキムチって日本でいう漬物的な感じ?」と言ったり、「必需品って聞いた。韓国人にとっては水みたいな感じ?」と言うのを聞きますが、無理に例えなくてよいと思います。キムチはもっと特別な存在なのだと思うのです。
 実をいうと、妻のワイプは韓国人なのに珍しく、キムチが好きではありません。発酵臭が受け付けられず、キムチが食べられないのです。韓国で暮らしているとき、キムチを大切に思う韓国人からの視線がどれだけ痛かったか、あらゆる食卓でキムチの存在が目に入ることがどれだけつらかったか、かわいそうにも思います。そういうわけで、私たちの家庭にキムチは存在せず、私は非常に例外的にこの格言に当てはまらない日本人となりました。私自身はキムチ好きのため若干残念に思いつつも、ワイプが「キムチのにおいがしない家庭」を気に入っているのでよかったと思っています。
 しかし、韓国人とかかわる中で、キムチとの縁を切ることはできません。
ついに我が家にも巨大なキムチボックスが登場することになりました。私の祖父がキムチを欲しがり、それを聞いた義母のオモニムが手作りキムチをプレゼントしてくれることになったのです。
 祖父は温和かつ寡黙で、普段から無欲な人でした。何か欲しいかと聞いても「何もいらない」と答えるようなタイプでしたが、ワイプが「私は食べられないのでわからないですけど、うちの母が漬けたキムチはおいしいと評判です」というのを聞き、「それは一度食べてみたいなあ」と、キムチをご所望したのです。祖父は若いころ建設現場で働いていたのですが、その現場で在日の人たちともかかわりがあり、韓国料理を食べていたということでした。「今スーパーで朝鮮漬け(キムチのことです。昔はこう呼んでいたそうです。)を買ってもあの頃の味がしない。」「韓国の方が作る本当のキムチが食べたい」ということで、今回の正月韓国帰省のお土産に、キムチを持って帰ってくることなりました。
 さっそくオモニムにそのことを伝えると、「ぜひおじい様にキムチを食べていただきたい」と大変喜んでくれましたので、感謝の気持ちと、「祖父は小食ですし、少しで十分です」というメッセージを伝えました。祖父に分ける用のキムチなので、小さいタッパー1つ分くらい、スーパーで売っている500円前後のキムチの大きさをイメージしていました。これが私とワイプが想像していた「キムチ少しだけ」の量です。
 しかし、正月に韓国に帰省し、帰国する当日、驚くべきことが起こりました。オモニムが準備してくれた「キムチ少しだけ」は、キムジャンそのままの、15リットルのキムチボックスでした。私たちは、これをどのように日本に持ち帰ればいいのでしょうか?
 オモニム曰く、「クーラーボックスに入れるから、トランクの上にのせて運べばいい。もしくは、空いているトランク1つ貸すので、その中にクーラーボックスごと入れればいい。」ということでした。これにワイプが激怒しました。
 「手荷物があると移動が大変なので、荷物を減らすためにどれだけ努力したのかわかっているのか。預け入れ荷物の重量制限も超えるだろう。相談もなしに、帰国前日にこんな大きい荷物があるとわかって、今さらどうしろというのか。」
 ②に続きます。

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