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木造住宅と地震と建築基準法

私の仕事では木造住宅の構造を扱っていますが、木造住宅の構造を考える時に「とういう力に対して安全なのか?」ということを考えるかというと、主には「地震」と「風圧」、「自重」「積載荷重」「積雪」、そして「土圧」「水圧」になります。今回はそのうちの地震について解説してみたいと思います。

■建築基準法と品確法
木造住宅に関わる法律として「建築基準法」と「品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)」があります。

「建築基準法」は昭和25年に制定された法律です。建築物を建てるために必要な最低レベルの基準になります。
度々起こってきた被害の大きい大地震のたびに改正されてきた。耐震的な面で見ると、特に十勝沖地震や宮城県沖地震などを受けて改正された「新耐震基準」と呼ばれている昭和56年の改正や、阪神・淡路大震災を受けて改正された2000年の大改正は現在の基準の基礎的な内容になっています。ちなみに基準法で想定されている地震は「極めて稀に(数百年に一度程度)発生する地震による力に対して倒壊、崩壊等しない程度」と言われており、倒壊する前に避難できることを前提としているため、地震後も住み続けられるような性能を有しているわけではないことは認識しておいていただきたいです。建築基準法を守っているからと言って安全な生活が担保されることではないということです。

「品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)」は住宅の諸性能を等級で示すようにしたもので、原則として「建築基準法」で要求されている外力を「等級1」とした時、何倍の性能があるか?を示しています。地震力に対してであれば「等級2」は基準法の1.25倍、「等級3」は基準法の1.5倍の外力に耐えられる性能を有するということになっています。建築基準法のように建築をするために必須な法律ではありませんが、先の熊本地震で耐震等級3の住宅の倒壊がなかったことで、有用性が証明されたこともあり、耐震等級の重要性はかなり認知されるところとなっています。
http://kumamoto-fukkou.or.jp/datafolda/data/kumamoto.pdf
一方、耐震等級2の住宅が倒壊したという事例(地盤の影響もあったようですが)もあり、基本的な間取りの悪さなどがあると数値だけをクリアしていても安全ではないという認識は必要です。この辺りはまた解説したいと思います。

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では、実際に建物にかかる地震について説明していきたいと思います。

■地震の種類と発生
地震の種類は大きく分けて2つあります。
一つは海で起こる「海溝型地震」
これは陸のプレートと海側のプレートの境にある海溝で起こります。

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日本の乗っている北米プレートでは海側の太平洋プレートが下に入り込む形となっており、太平洋プレートが入り込んでいく過程でひずみに耐えきれなくなった上側のプレートが跳ね上がることで起こったとされています。東日本大震災を起こした東北地方太平洋沖地震や、今後起こるとされている南海トラフ地震は海溝型地震となります。

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二つめは内陸で起こる「内陸型地震」
こちらは「直下型」とも言われ、陸地を載せているプレートの中で強度が弱い場所(断層)が壊れて動くことで発生します。震源が比較的人の住んでいるところに近く、かつ浅いところで起きるため逃げる時間がほとんどない場合が多いです。
阪神淡路大震災を起こした兵庫県南部地震はこのタイプに含まれます。

■緊急地震速報
最大震度が 5弱以上の揺れを観測したときに発表されます。
地下で地震が起きると最初にP波(Primary)、次に比較的遅いS波(Secondary)がそれぞれ到達するのですが、その伝搬速度の差を利用し数秒から数十秒の間に地震規模や震源を予測し到達時間や震度を発表するという非常に高度な技術なんだそうです。(知らなかった💦)
各観測点のデータの収集が進むとより、第二報以降は精度の高まった発表ができるそうです。新幹線ではこのような検知システムと連動していて、高速運転中の脱線による大事故を未然に防ぐことにも生かされています。現時点では技術的に弱点もあるものの、とても重要なシステムと言えます。

■地震の強さ「マグニチュードと震度」
地震の強さの指標にマグニチュードと震度があります。ニュースでもお馴染みの用語なのでみなさんご存知ですね?では二つの指標の違いとは何でしょうか?
まず「マグニチュード」は震源の地下で発生した地震エネルギーの大きさを表します。
「マグニチュード」に関しては「気象庁マグニチュード(Mj)」と「モーメントマグニチュード(Mw)」の2種類があります。
気象庁マグニチュードは100km離れた標準的な地震計の梁が揺れた最大値から求められるもので、情報の即時性はありますがM8. 5くらいまでしか計測できず、巨大地震になると正確性に欠けるという欠点があります。それに対してモーメントマグニチュードは断層の面積(長さ×幅)とズレた量から算出されるため正確である一方、確定するまでに時間がかかってしまうという特徴があります。
それぞれこのような特徴があるため、地震速報は「気象庁マグニチュード」、その後に正確な「モーメントマグニチュード」によって訂正されるという運用になっています。ちなみにマグニチュードの数値は、一つ大きくなると放出されるエネルギーは約32倍、0.2大きくなると約2倍増加します。

そして「震度」は測定している場所での揺れの大きさを表します。一回の地震でも測定する場所によって様々というわけです。
また、自分のいる場所の地盤が「堅固」か「軟弱」かによっても揺れ方は大きく変わります。軟弱な地盤では揺れが増幅され被害が大きくなります。
震度の強さの基準は、気象庁が中心となって定められた震度階があり、揺れをほぼ感じない「震度0」から震度1、2、3、4、5弱、5強、6弱、6強、7までの10段階の設定になっています。目安となる数値として強さを加速度で示すと震度7はおおよそ800gal以上とされている。

マグニチュードと震度


■建築基準法の基準では震度7に耐えられない
上記のように震度は計測する場所の条件にも影響を受けるため、単純に加速度だけで決まるわけではないのですが、わかりやすい数値で単純比較すると震度7の地震が800gal以上なのに対して、建築基準法(耐震等級1)で想定されている大地震は300〜400galと言われており、その数値を震度階に当てはめると「6弱の上から6強の下」あたりなので、基準法を守っているだけでは震度7には耐えられないということになります。実際に実物大振動台実験で震度6強の振動で倒壊するという実験結果もあります。

ちなみに震度階は阪神・淡路大震災の翌年に改定されており、観測員の体感などから震度を決定する「体感震度」から、機械による「計測震度」に改められています。これにより改正以前と改正後では、同じ「震度7」でも地震動の大きさが異なるということになっています。単純に加速度に置き換えると阪神・淡路大震災の震度7は現在の震度階に当てはめると震度6強でしかないのです。

2016年の熊本地震では28時間以内に前震(M6. 5)と本震(M7.3)の震度7の地震に襲われました。震度7の地震が繰り返し発生したのは史上初めてです。阪神・淡路大震災よりも激しい震度の地震が2回も繰り返して起きたことになります。下の写真のように前震で傾きはしても倒壊は免れた建物が、すでに耐力を失い本震で倒壊するという事例が数多く見られました。

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■地震に耐えて、尚住み続けられるか?
2016年に起きた熊本地震では現地視察に同行させてもらい、被害を目の当たりにしてきましたが、やはり実際に被災地に立つと被害の甚大さを思い知らされます。「建築基準法を守っているから安全」「法律に適合しているから大丈夫」と言った意見をたまに聞きますが、基準法でたとえ命が助かったとしても住み続けられる場所がなくなり、何事もなく過ごせている日常は一瞬で壊されます。そして生活の場所としての家、資産としての家を失うことになってしまいます。万が一のことがあった時、初期投資を何十万円か削ってしまうことで失ってしまうものはあまりに大きいのです。

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家を建てる時には、見た目的なデザインなどに目が行きがちですが、基本的な計画をおざなりにして間取りやデザインを考えてしまうと耐震性に影響が出てしまうことがとても多いです。木造住宅でもっとも普及率の高い在来軸組工法は「自由度が高い」ことはメリットではありますが、自由度が高いからといって構造を無視したような好き勝手な間取りを考えるような設計者が多いのも事実。「命を守る」という観点からも、設計者や住宅提供側には基本的な構造の耐震等級3が最低基準となるくらいの意識を持ってもらうことと、これから家を購入される方にも少なくとも基本的な知識をつけてもらい家づくりに臨んでいただくことが安全な家づくりにつながると思っています。

最後までお読みいただきありがとうございます。



■今回参照させていただいた本

【木造建築の構造】 著:大橋 好光
木構造の第一人者、大橋先生の集大成とも言える一冊。
建築基準法の変遷や木造の構造に言及した、現時点での木造建築を総括する内容となっています。どのような経緯で基準法が整備されてきたかなど、とても興味深い内容となっています。

【首都直下地震と南海トラフ】 著:鎌田 浩毅
地震のメカニズムはもちろんのこと、地震と火山の関係性など地球科学の目線で語られた内容はとても興味深いです。個人的には「環世界」や「長尺の目」という考え方が響きました。環境破壊やこれからの生き方などにも言及した必読な一冊です。



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