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《目利きの見聞き》♯2 M-1グランプリ2022

鍋を突きながら細君とM-1を見る。今年もこの季節になった。あっという間の一年だ。ウエストランドが優勝という半ば狂気じみた形で、2022年が去ってゆく。

公正ジャッジがすなおに嬉しい

ウエストランドを見ると、どうもTHE MANZAIを思い出す。M-1が休止中に代わりにショーレースをやっていたあの頃のTHE MANZAIだ。
あの頃はひどかった。およそ「スベる」ということがなく、おもんなくても拍手笑い。キザなことを言うだけでヒューヒュー言われる。あのネタで準優勝なんてしてしまうものだから、私はつい最近までアルピーが大嫌いだった。
そこにつけて、M-1は緊張感があって良い。スベる組があるから、ウケると盛り上がる。やはり緊張感は必要だ。

世の中、ほとんど正直なことなんてない。政治、謀略、マーケティング…いろんな言い回しがあるが、けっきょく既得権益者の筋書き通りに動いていることばかりで嫌になる。
テレビ番組はもちろん、その最たるところであり、M-1であっても、レースである前にまず番組であることをわきまえた上で観なければならない。
その点ウエストランドの優勝は、製作側の意図が働いたとはとても思えない。そこには、たしかに公正なジャッジがあった。それを素直に嬉しく思った。

M-1と国政選挙が正常にジャッジされているのは、わが国のいいところだ。

コンプラの流れ、変わるか?

「誰も傷つけないお笑い」
ここ二、三年ほど、そんな言葉が蔓延している。しかし、そんなことはあり得ない。絵空事だ。コメディとは、人間の持つ残忍性を薄めて茶化して、「笑えるもの」にしたものでしかない。ガス抜きだからこそ、世の中に必要なものだ。もちろん例外はあるだろうが、それが基本構造だ。

近年はあまりにコンプラが強すぎる。まあ、ハリウッド映画の過剰なポリコレを触れると、わが国はまだマシなのかもとは思うが。ウエストランドの優勝は、確実にそれに棹さすものだろう。

もう7年前になる。当時人気絶頂だったマツコデラックスと有吉弘行の「怒り新党」に対し、岡田斗司夫は、その人気の理由が「本音を代弁してくれるから」ではないと喝破した。
それは、セーフのラインを守った中で、本音風のことを言ってくれるから。そのプロレス感が心地よいのだと分析している。

ウエストランドは、たしかに誰かを傷つけたように思える。しかしネタにしたのは、アイドルや俳優、コント師などであり、テレビの住人たちだ。プロレスになる相手しか選んでいない。「田舎」もディスったが、それは自虐みたいなものだし、あまりに漠然としていて誰にも当事者感が生まれない。

つまり、当然のことながら、ウエストランドはただテレビのロープの中でプロレスしていたにすぎない。これは批判ではない。大いに笑ったし、それは井口のプロレスがとても上手だったということだ。

ギリギリのプロレスを見せ、そしてそれを優勝させたことは、局や番組としても財産となっただろう。「攻めた」姿勢は、テレビ離れした層にこそ評価されそうだ。

あくまで、ウエストランドは、本当に言いたいことを言ってくれているのではない。みんなが本当に叫びたいことは言えない。社会に対する身勝手な不満や気持ち悪さ、差別と言われかねないような、それでもすがっていたい価値観。そうしたことを口にする自由は、本来保証されるべきだが、現代では激しく糾弾される。ネットの言論空間でもそうだ。

彼らの優勝は、令和の日本人が抱えているこうした閉塞感と、その打開への期待が発露したもののように思われる。
審査員も、そうした願いを込めての一票だっただろう。お笑いだけは、せめて正直でありたい、その気持ちだけは示したいという願いだ。

繰り返しになるが、彼らの優勝自体は、コンプラの流れが変わったことを意味しない。しかし、これを糸口に何かが変われば嬉しいことだ。

さや香とロコディ

ロコディ残念!!!!!
残念だが、あのネタでは優勝は難しい。一本目のマラソンのネタ。飛び道具で肝を冷やしたが、最後までやり切った。松ちゃんの言葉を借りれば、「ええ度胸しとる」。そこまでの派手さはないが、あのネタはかなり画期的なものとして今後記憶されそうだ。

しかし、決戦のタイムマシンのネタはダメだ。2ネタ連続で爆発したウエストランドに対抗するには、とにかく勢いで上回るしかなかった。
あんな風に、ジェスチャー込みで、たっぷり間をとるネタではとても勝てない。決戦の2ネタ目は、とにかく手数と勢いだ。優勝したコンビは、大抵そこを押さえている。

ロコディは好きだが、今のネタ作りだけでは、優勝することはできまい。
とはいえ、彼らに似合うのはキングオブコントだ。M-1に負けたことはまあ、来年以降も観れるかもしれないからラッキーくらいの感じだ。

さや香はキモい!!!!!
なんだあの2ネタ目は。スベり大魔神が降りてきてしまった。

誰もが、2020年アキナを彷彿しただろう。
なぜ、おっさんなのに、あんなキモい下ネタをおもしろいと思ってしまうのだろう。というのも、おそらく大阪の劇場では、あれでウケるのだろう。
大阪では人気者で、女性ファンばかり。すると、自分たちに対する客観性が失われて、求められる自分たち像が歪んでしまうのだろう。

たしかにさや香、あなたたちは見た目はいいが、見た目がいいだけのアキナだったぞ。

阿佐ヶ谷姉妹が見たかった

それにしても、ダイアモンドはスベっていた。あれはひどい。完全に実力不足だ。
能力の低いボケに、感情の起伏が意味不明なツッコミ。そもそも訛りが気になって話入って来へん。

なぜ彼らが上がったのかわからんが、あの枠は阿佐ヶ谷姉妹か、強いて言えばかもめんたるに渡して欲しかった。
阿佐ヶ谷姉妹、予選では相当跳ねていた。ラストイヤーで女性コンビ。番組作り的にもアリでしょう。上げない理由がないと思ったが…。

阿佐ヶ谷といえば、ウエストランドと同じタイタンのキュウもスベった。キュウは自分たちのスタイルを確立しつつある実力者で、いかにも玄人好み、他と差別化できれば上も狙えた。
しかし、謎のネタ選びだった。タイタンの事情は知らんが、太田氏に「流行語大賞狙え」とでも言われたのであろうか。ぽんぽこ商事だろうか。

ともあれ、敗者復活のオズワルドは白けた。一生懸命獲りに行くだけ、去年の岩井のマスターベーションよりはマシだったが。
残念ながら、オズワルドは昨年獲りきれなかった時点でもうキツいと予想された。だいたい全ての球を見せてしまった感じだ。キャラが露出してしまったから、意外性が出せない。あのスタイルを磨いて職人路線を追求することはできるだろうが、優勝はもうない。

来年は中盤でカベポスターが見たいな。

お疲れ様でした。

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