革命

「歴史の教科書は起こされた革命だけでできているけれど」と彼女は言った。時間がゆっくりと進む水曜日の放課後。卒業式のリハーサルだけで終わった1日は物足りなかったのだろう、クラスメイトはみんな仲の良い友達を連れてゲーセンに行ってしまった。西日が彼女の黒髪を撫でる。
「たとえ成功しなくても、革命を起こそうとしたその瞬間だけは、変わらない事実なんだよね」
「なにそれ」
笑う俺に彼女は少しムッとした表情を見せてから、視線を黒板にやった。

「明日、藤田先生に告白しようと思う」
彼女に見つめられた黒板も、開け放したカーテンのせいで少しオレンジがかって見える。
「…そう」
「そ、だからさ、応援してよ」
机に身体を預けるようにしてこっちを見た彼女の顔は、この三年間でずいぶん大人びてしまったように思う。俺たちももう18歳。あの頃幼稚園児だった俺たちはもうどこにもいない。
「卒業するしな、いけんじゃん?」
「かなー、『20歳になったらな』が理想よね」
「そうなあ」
20歳になったら、か。

「大きくなったらケッコンしようね」の「大きくなったら」っていつなんだろうなんて考えながら、俺の身長は大人と大して変わらなくなったし、高い声ももう出なくなった。なあ、俺たちってさ、もうケッコンできるんだよ。

「がんばれよ」
「ひーありがとう」
「ドンマイ会やるならお前のおごりな」
「振られる前提かあ」
ケラケラと笑う彼女の声が空っぽの教室に響く。放課後になるといつも思う。教室って箱みたいだ。小さな箱の中で広い世界のことを毎日聞かされた三年間も、明日で終わり。

彼女が帰った後の教室は時間が止まったかのように静かで、椅子に深くもたれた俺の身体がこのまま溶けていくような気がした。いっそ溶けてしまえばいいのに。
『たとえ成功しなくても、革命を起こそうとしたその瞬間だけは、変わらない事実なんだよね』
ああ、そうだな。

明日全部言ってしまおう。たとえ成功しなくても、すべてが終わったとしても、ここにいる今の俺を、彼女の中に残そう。革命は明日。明日、俺たちは卒業をする。

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