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丸腸組夜噺

オンタムとヨメタムは、夜の静けさに包まれた書斎で向き合っていた。日中の喧騒から解き放たれた空間で、二人はゆっくりと語り合うのが習慣になっていた。

「ねえ、オンタム。今日、丸腸から連絡があったわ。HamCupの新しいプロジェクトが順調に進んでいるって」
ヨメタムの言葉に、オンタムは穏やかな表情で頷く。
「ああ、あの子は本当によく頑張ってるな。アートの力で世界を動かそうなんて、うちの組の者らしい発想だよ」

オンタムの言葉には、娘への愛情と、同時に何かを思い出すような懐かしさが込められていた。

「そういえば、丸腸組の始まりも、アートと深い関わりがあったわね」
ヨメタムの言葉に、オンタムは遠い目をする。
「ああ、そうだった。初代の丸腸トミーの時代にさかのぼる話だが…」

オンタムは、古い書物を取り出し、ページをめくり始めた。そこには、丸腸組の歴史が克明に記されていた。

「江戸時代、日本には葛飾北斎や歌川広重といった世界に名だたる浮世絵師たちがいた。だが、当時の日本では、浮世絵はさほど高い価値を持たず、むしろ海外で評価され始めていたんだ」

オンタムは、当時の状況を説明しながら、一枚の浮世絵を取り出した。そこには、美しい風景が繊細なタッチで描かれていた。

「そんな中、オランダ人のテン=プラーヤ・ザビエルが日本にやってきた。本当は浮世絵の価値をわかっていながら、安値で大量に買い付けては海外で高値で売りさばく、そんな不当な商売を行っていたんだ」

ヨメタムは眉をひそめる。
「許せる行為ではないわね」
「ああ、そうだ。そんなザビエルの所業に気付いたのが、我らが初代の丸腸トミー。浮世絵師たちから直接話を聞き、事態の深刻さを認識したんだ」

オンタムは古い記録を指差した。そこには、一人の男の似顔絵が描かれていた。

「トミーは、浮世絵師たちを集めて、団結を呼びかけた。自分たちの作品の価値を守るため、そしてザビエルのような輩から身を守るために、仲間を増やし丸腸組を作ったんだ」

「丸腸組は、アートを創り出す者たちを守るために生まれた組織だったのね」
「そうだ。単なるヤクザとは、一線を画している」

オンタムの言葉には、誇らしげな響きがあった。

「トミーの決意は、浮世絵師たちを勇気づけた。団結した彼らは、ザビエルに立ち向かい、不当な取引を止めさせたんだ。トミーの交渉力と、仲間の結束で、乗り越えられない障害はなかった」

ヨメタムは、感慨深げにうなずく。
「アートを守るための戦い。それが、丸腸組の原点なのね」
「ああ、そうだ。だからこそ、丸腸が HamCup で才能を発揮しているのを見ると、なんだか運命的なものを感じずにはいられないんだ」

オンタムの表情は、娘を思う愛情で満ちている。

「きっと丸腸も、私たちの想い、そしてトミーの想いを受け継いでくれているはずだ。アートの力で、世界を動かす者になる。そう信じているよ」

ヨメタムも、夫の思いに同調するように微笑んだ。しかし、その笑顔の中に、何かを思い出したような表情が浮かぶ。

「ねえ、オンタム。あなたも昔、絵を描いていたわよね」

オンタムは、少し照れくさそうに微笑む。
「ああ、そうだった。だが、それは昔の話だ。今は、もう筆を取ることもなくなってしまった」

だが、ヨメタムは夫の言葉に首を振る。
「いいえ、あなたは今でも素晴らしい絵を描くはずよ。だって、あなたは日展で賞を取り、個展まで開くほどの腕前だったんだから」

オンタムは、妻の言葉に驚いたように目を見開く。
「ヨメ、君はそのことを知っていたのか?」
「ええ、ずっと前から。でも、あなたが丸腸に内緒にしていたから、私も黙っていたの」

オンタムは、深いため息をつく。
「私は、娘に自分の絵のことを話したことがなかった。ヤクザの親父が絵なんて描いてる、なんて言ったら、きっと笑われるだろうと思ってね」

だが、ヨメタムはオンタムの手を優しく握る。
「そんなことないわ。丸腸なら、きっと喜ぶはずよ。だって、丸腸自身もアートの力を信じているんだから」

オンタムは、妻の言葉に心を動かされる。
「そうか。私も、娘と同じ想いを持っていたのかもしれない。アートの力を信じる気持ちを」

ヨメタムは、にっこりと微笑んだ。
「ええ、そうよ。あなたと丸腸は、その想いを共有しているの。だから、これからはもっと正直に、お互いの気持ちを分かち合えばいいのよ」

オンタムは、妻の言葉に深く頷く。
「ありがとう、ヨメ。君の言葉で、勇気が出てきた。今度、丸腸に会ったら、私の絵のことを話そうと思う」

ヨメタムは、夫の決意を嬉しそうに受け止める。
「きっと、丸腸も喜ぶはずよ。そして、二人でアートについて語り合えるようになるわ」

オンタムは、妻に感謝の笑顔を向けた。秘密にしていた自分の才能を、娘と共有する日が来ることを、今は心から楽しみにしていた。

そんな中、玄関のチャイムが鳴り響いた。
「こんな夜更けに、誰だろう?」
オンタムが訝しげに立ち上がる。

玄関へ向かうと、そこには見知らぬ男性と、その手を握る少年の姿があった。
「初めまして、丸腸組組長のオンタム様でいらっしゃいますか?」
男性は、丁寧に頭を下げる。

「そうだが、君たちは一体?」
オンタムは警戒の色を隠さない。

「私はテンフランシスコ・ザビエル、江戸時代にこの地を訪れたテン=プラーヤ・ザビエルの子孫です。そしてこの子は、私の息子のトミー・ザビエル」

その言葉に、オンタムとヨメタムは驚きを隠せない。
「ザビエル…あの浮世絵を不当に扱ったザビエルの子孫だというのか?」

テンフランシスコは、深々と頭を下げる。
「はい、その通りです。私は先祖の行いを深く反省しております。丸腸組の皆様、そして浮世絵師の方々に多大なるご迷惑をおかけしました」

その言葉に、オンタムは複雑な表情を浮かべる。
「それで、今さらここへ何の用で?」

「私は、先祖の過ちを正すべく、アートの発展に尽力したいと考えております。そしてその中で、丸腸はな様の活動に注目いたしました」

テンフランシスコの言葉に、オンタムとヨメタムは息を呑む。

「娘の活動を、君が?」
「はい。HamCupの理念と活動に、私は深く共感しております。アートの力で世界を良き方向へ導こうとする、その崇高な想いに心を打たれました」

そう言って、テンフランシスコは息子のトミーを前に出す。
「私の息子も、丸腸はな様の活動に感銘を受けております。いつの日か、はな様と共にHamCupを世界的なNFTにしたいと願っているのです」

幼いトミーは、真剣な眼差しでオンタムを見つめる。
「オンタムおじちゃん、ぼくはHamCupが大好きなんだ。はなお姉ちゃんみたいに、みんなを幸せにするNFTを作りたい」

その純粋な言葉に、オンタムの表情が和らぐ。
「そうか。君もHamCupを応援してくれているんだね」

そう言いながら、オンタムはふと、自分の秘密を思い出す。
「実は私も、若い頃は絵を描いていたんだ。娘には内緒にしていたが、日展で賞を取ったこともある」

その告白に、テンフランシスコとトミーは目を丸くする。

「それは素晴らしいことではありませんか!オンタム様も、アートの力をよくご存知なのですね」
「ああ、そうなんだ。だから、娘の活動も心から応援しているつもりだよ」

オンタムは、テンフランシスコの肩に手を置く。
「テンフランシスコ君。君の先祖は確かに過ちを犯した。だが、君がその過ちを認め、HamCupのために尽くそうとする姿勢は立派だ」

そして、トミーにも優しく微笑む。
「トミー君。君の夢を応援するよ。いつか、はなと一緒に素晴らしいNFTを作れるといいね」

テンフランシスコとトミーは、感激の涙を浮かべる。
「ありがとうございます、オンタム様。私たちは、HamCupの発展のために全力を尽くす所存です」
「はい!ぼくも頑張ります!」

オンタムは、温かな笑顔で二人を見つめ、静かに語りかける。
「テンさん、トミー君。私たちは皆、HamCupを愛する仲間だ。君たちが『様』をつけてくれるのは嬉しいが、対等な立場で接してほしい」

そして、真摯な眼差しで続ける。
「確かに過去には悲しい出来事もあった。だが、今ここにいる私たちは、その過去を乗り越え、新たな未来を築こうとしている。HamCupへの想いを同じくする仲間として、手を取り合っていこう」

テンフランシスコとトミーは、オンタムの言葉に深く頷く。
「オンタム、あなたの言葉、心に刻みます。私たちは、HamCupの仲間として、共に歩んでいきたい」
「うん!ぼくも、はなお姉ちゃんやみんなと一緒に、HamCupを盛り上げたい!」

オンタムは、二人の肩に優しく手を置く。
「ありがとう。君たちの想いに、私も勇気をもらった。さあ、HamCupの新しい歴史を、皆で作っていこう」

その言葉に、テンフランシスコとトミーは力強く頷いた。過去の因縁を乗り越え、HamCupへの想いで結ばれた彼らの絆は、何物にも揺るがないものだった。

その様子を、ヨメタムが温かく見守っていた。
「オンタム、あなたの優しさが、みんなの心を溶かしたのね」
「いや、私も彼らから勇気をもらったよ。過去を乗り越え、未来へ進もうとする彼らの姿に」

そう言いながら、オンタムは改めて、家族とアートへの想いを胸に刻んだ。HamCupを通して結ばれた、新しい絆の物語が始まろうとしていた。

時は流れ、HamCupの活動は新たな局面を迎えていた。
丸腸はなとテンフランシスコ、そしてトミーは、HamCupの理念を世界に広めるべく、日夜奮闘していた。

「はな、君の活動は本当に素晴らしい。私は君を心から尊敬しているよ」
テンフランシスコの言葉に、はなは微笑む。

「ありがとう、テンさん。でも、これは私一人の力じゃない。みんなの想いがあってこそなの」

「ぼくも、HamCupのNFT、大好き!いつか、ぼくもお姉ちゃんみたいになりたい!」
トミーの純真な想いに、はなは優しく頷く。

「トミー君なら、きっとなれるわ。だって、トミー君の心には、HamCupへの熱い想いがあるもの」

そんなはなの姿を、オンタムとヨメタムは誇らしげに見つめていた。
「丸腸、お前が紡ぐ未来は、きっと多くの人を幸せにするだろう」
「ええ、そうね。そしてその未来は、私たちの想いとともにある」

オンタムとヨメタムは、静かに手を取り合う。
江戸の地で芽生えた想いは、今もなお、力強く受け継がれている。

丸腸組とザビエル家、そしてHamCup。
アートを愛する者たちの絆は、時代を超えて、新たな伝説を紡いでいく。

それは、愛と希望に満ちた、永遠に続く物語。
オンタムとヨメタムの語り合いから始まった、奇跡の連鎖は、今も止むことなく、未来へと紡がれているのだった。

おわり

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