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きっかけのタモリ倶楽部


社会人2年目の春、私は人生ではじめてカウンターのお寿司屋さんに男性と2人で並んだ
今の彼氏との初デートだった

彼とは職場の同僚からの紹介で知り合った
紹介と言っても仲介人との3人の場は設けられず、
連絡先と写真だけをお互い渡されて、初デートが初対面だった
しかも、なんだか敷居の高いお店、対面じゃないから顔もまともに見れないし
彼の口数が少ないのは私と同じく緊張してるからなのか、元々大人しい人なのか解らず、
私はとにかく気を遣った

少し慣れてきたコースの中盤、炙られたお寿司が出てきた
そこでなにを思ったのか私は

「タモさんって、お寿司ほとんど炙るらしいんですよ。」

と、口にした
もういつもの小ボケのテンションだったがとっさに、しまった!と思った。
変な女だと思われる

でも彼はそこでクスッと笑ってくれた
なんだか嘲笑するようなあんまりいい笑い方じゃなかったけど、はじめて彼の中身を見た気がして、いけるかもと思った

「タモリ倶楽部って番組知ってます?」
「あー、知ってるよ!深夜の?」
「そうそう!そこで昔、炙り寿司のランキングを決める企画があったんですけど、なぜかタモさん食べずに炙る側なんですよ。というのも、タモさんは元々生のお寿司を炙って食べるのが好きなんだそうで…」

そうやって、初めて目を見て話した

帰り道、彼は自分もテレビっ子なんだと言った
小学生の頃、ゲームも漫画も持ってなかった彼は、町内会の抽選で当てたポータブルテレビを毎晩布団に隠れて夜遅くまで観るのが楽しみだったそう
私たちはそこからお互いの好きなものについて語り合った

彼と付き合ってはじめて一泊の旅行に行った時、長いドライブの途中で彼がこう話してくれた

「初めてのデートでタモリ倶楽部の話してくれたじゃん、あの時この人なら自分をさらけだせるかもと思った」


私と付き合う一番大きなきっかけだったそう


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タモリ倶楽部を毎週楽しみにしていたわけではない
むしろ昔はいい印象がなかった

私の父は落研出身で、お酒を飲むと、
幼い私が近くにいようが関係なく、
子供に見せたくない番組ランキング常連の深夜番組や少しお下品なお笑い番組の録画を流した
私が楽しめるものも中にはあったのだが、
中には幼い私には全く魅力のわからないものもある

タモリ倶楽部はその代表例だった

ビキニを履いたお尻がたくさん踊るオープニングに顔をしかめ、
おじさんたちがよくわからないものにあーだこーだ言いながら、
ゲラゲラ笑う画の面白さが理解できなかった

でもその番組は何故だか笑っていいとも!よりも長く続き、父の英才教育のおかげで私がサブカル女子化した高校、大学時代まで続いた
いつしかこの番組の面白さに気付き、おじさんたちと一緒にゲラゲラ笑えるようになった

そしてこの番組で得た知識も多い
学校では絶対教えてくれないくだらない知識は時に飲み会や雑談の話題作りに役立った
気付くと長い付き合いになっていたタモリ倶楽部はひょっとしたら私を構成する一部になっていたのかもしれない

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タモリ倶楽部がひとつのきっかけとなり付き合えた私たち
車好きの彼はタモリ倶楽部を毎週録画しては、
DVDに焼いてくれ、カーナビで再生しながら一緒に見るのがデートのルーティンになった

最終回も彼と見守った
偶然にもタモさんが厨房に立って、自ら料理の腕をふるう企画
いつもと変わらずゲストとゲラゲラ笑って、
最後の挨拶もあっさりとしていた

いつもヘラヘラと横にいるだけなのに、
ちょっとしたきっかけをくれる存在
タモリ倶楽部らしい最期だった


#好きな番組

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