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夢のメモ②

留学をしたので、長い間高校を休んでいた。

私の住む街は地方の中の地方といったところであまり留学をする人がいないため、留学すると言うとちやほやされた。そのため、飛行機を降りて日本に着いてからは、帰った時にもみんな、よろしく出迎えてくれるだろう。

そんなことを思いながら久しぶりの日本の空気を感じ、ジャケットのチャックを上げた。学校の階段を上がっていると踊り場の水道で足が止まる。気付かぬ間にノスタルジアが僕の肩に手を置いていた。段々とその手に力を込めて僕の肩には力が入らなくなってしまうようだった。

学校のみんなは予想通り、自然に大きな笑顔で声をかけてくれた。それが何よりも嬉しく、話したこともない人も僕を見ると羨ましそうな目で見てくるのが気持ちよかった。仲の良いのが防寒具を机や椅子に擦りながら、窮屈な教室を僕の方へと歩いてくる。帰ってきたばかりで特に用事もなく時間はたっぷりあったため、ちょっとした思い出を話をし、その中で特に留学前から仲の良かった級友と話しつつ学校を歩き回りながら、他に誰か挨拶をする人はいまいかと周りをちらちらと気にしていた。

見たこともない人と目が合い、一瞬に追い、また離れる。

その時は放課後の掃除の時間で廊下が少し賑わっていた。一種のお祭りのようで小学生の時からお気に入りの時間であった。知らない教室の前を通るとまるでどこかの国の街の喧騒の中にいるように感じるのだ。久しぶりにこの感覚を味わえたことも助けて、生徒が動き回り、狭く感じる廊下をどしどしと進んでいた。いつもは気にしていなかったチャイムの音が鳴るのではないか内心期待していたがなかなか鳴らなかった。すると、廊下の一番奥の教室の前で私の元担任と生徒がなんやら声を荒げて話していた。

調子に乗った僕とその級友は何気なく一番奥の一度も行ったこともないだろう教室へ向かって歩いていたのである。廊下の窓のへりに肘を掛けた先生は少し困惑の色を見せてその生徒と顔を合わせていた。その生徒は私の幼なじみであった。家が近く、年少の頃からの付き合いであった。中学は別々であったが高校は偶然一緒になった。母親にそう伝えられた時は正直驚いた。あまり学校の成績を気にせずに過ごしているやつだったからだ。さらには、反抗的な態度が目立つことが多かった。まさか自分と同じ高校に受かるとは思ってもいなかった。あまり勉学に励まずに合格したのだろう彼を少し妬ましく思う。彼を見るたびにこの一連の流れを一瞬にして思い出すのだ。

案の定、彼と担任は大学の話をしていた。それ以上詳しいことはよく分からなかったが、意見が異なっていることは論調からして分かった。だいぶ熱くなり、こちらの神経にも触れるような雰囲気だった。担任は男気が強く、あいつの意思を変えるまで言い続けるだろう。そんな姿さえ懐かしく思った。

どんなものでも久しく見ずにいると、次見た時に、喜びがどこからともなく走ってやってくる。気づくと私の後ろにすでに立っていてさっと消えていく。その奥の教室にはよく話していた級友が一人いた。他の生徒は顔を知っている程度のものが多かった。そいつとは特に接点はないが、一度話した時になんとなくその優しいオーラが僕に合うと感じた。そのオーラは健在であった。そいつの机の上にはプリントが一枚置いてあった。

これ覚えてるか。授業のグループワークで書いたやつなんだけど、ふざけてめちゃくちゃなこと書いたやつ。

あーあのストーリー作るやつか。

そのプリントは、僕を引き込んだ。思い出せているようだが、もっと思い出せることがありそうな。遠い記憶の中でぼんやり光る一つ一つをかき分けてこのプリントに雑に書かれたいろいろな形の文字を探す。気がつくと、教室は私一人になっていた。担任と幼なじみのやり合う声は遠くの猫の鳴き声と変わり、教室の真ん中で一人立ち枯れたように首を曲げている自分。青かった冬空は橙に染まり、教室の何もかもを色付けする。私の眼はその光をくすんだ陶器のように中途半端に反射していた。


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