読書感想文 AIに負けない子どもを育てる

約1年前から某私立大学の薬学部生の面倒を見ている。その子は既に1年留年していて、もうこれ以上単位を落とせないという状況で、クラウドソーシングプラットフォームを通じて勉強を教えてほしいと頼み込んできた。それ以来、週1回1時間程度、オンラインでみっちり勉強を教えている。(興味ある人いたらココナラで探してみてね。)

その子は薬学の勉強ができる、できない以前にとにかく話が通じない。ある時、有機化学を教えてほしいというので、

自分で解いた答案を写真で送ってくれ

と言っても、優秀な友達や先輩が解いたきれいな答案を送ってくる。

それじゃあなたがどこが理解できていないのかわからないので授業ができません、自分で解いたものを送ってください

と再度言っても、今度は別のこれまた優秀な友達と一緒に作成した答案を送ってくる始末。
メッセージでは結局伝わらなかったので直接言ってやっと理解してもらえた。

またある時は薬物動態の勉強を教えてほしいと言うので、

じゃあこの前の有機化学の時のように自分で問いたものを送ってください

とお願いすると、

今回は薬物動態を教えてほしいので有機化学を教えてほしい時は自分で解いたものを送ります。

と意味不明な返事がくる。

意味が分かってないようなのでもう一度言います、有機化学と同様に“薬物動態の“問題を自分で解いたものを送ってください。

と返事をすると、

先生(俺のこと)の言ってる意味は分かります。ですから、有機化学は自分で解いたものを送ります。

だ!か!ら!薬物動態は!?!?!?
とこの時点でかなり頭にきていたのだが、冷静になって彼女の文面を読み直してみる。ん?これってもしかして

有機化学は自分で解いたものを送ります=薬物動態は自分で解いたものは送りません

という逆説的な言い回しをしている??と気づいたので確認してみる。
するとそれに関する答えはすっ飛ばして

薬物動態の自分で解いたものをすぐに送れないので時間をください。

と返事がくる。いやいや、それはいいけど結局あの初めの怪奇文はどういう意味だったの・・・?とかなりもやもやした。
これはほんの数例だがこんな調子で文章でのやり取りはかなりストレスがかかる。

実際に勉強の方はどうかというと、俺が丁寧に解説をするとなるほど!と理解した素振りを見せる。しかし、まったく同じ問題は解けるようだが、少し問題文の言い回しが変わったりすると途端に解けなくなってしまう。詳しく諮問して原因を探ると、とにかく問題文で何を聞かれているのかがわからないようである。

また、大学のテストの直前には、

先生(俺のこと)の問題の解き方は理解できました!でも大学の先生の解答例と少し違います!テスト前は大学の先生の解き方を覚えたいのでそれに沿って解説してください!

と言われる。

大学のテストは記述式ではなく穴埋め式なので解答例まで合わせる必要はなく、俺が教えた解き方を理解し、答えを導ければ十分なはずなのだが、どうやら配られた解答例と同じでないと不安なようだ。そもそも、俺の解き方と大学の先生の解き方が、アプローチの方法が少し違えど本質的に同じだということが判断できない。これではもちろん自分で解いた問題も解答例と合っているかが判断できないため、自分で丸付けができない。したがってテスト前は丸暗記をするしかない。もう中学、高校のころからそれで乗り切ってきたのであろう。それでは大学で単位を落としてしまうのも仕方はない。

今回紹介する新井紀子先生の「AIに負けない子どもを育てる」は前著「AI VS. 教科書が読めない子どもたち」の続編といって差し支えないだろう。前著はAIの仕組み、AIの限界など詳しく解説した上でAIは人間にとって代わるのか?という問いに的確な答えを提示している。そしてこの本の主題はAIにとって代わられてしまうおそれのある読解力の低い子どもが増えていることへの警鐘である。そして続く本作では読解力とは具体的に何なのか?どのようにしたら子どもたちの読解力は向上できるのか?により焦点を当てた作品となっている。
作中では新井先生が開発した読解力テスト”RST”の簡易版を体験できる。それだけでもこの本は値段以上の価値がある。俺もドキドキしながらテストに挑んだ。その結果、俺は「全分野そこそこ型」でかなり優秀な部類に入るそうだ。(ホッとした、、、。)様々な組織で引く手あまたなそうですよ、企業のみなさん。
そして俺が面倒を見ている薬学部の子はかなり読解力がないことがよくわかった。基礎的な「照応・係り受け」ができないので“自分で”解いた答案を送れないし、“薬物動態”の答案について聞かれているのに有機化学の答案についてのとんちんかんな返事がくる。「同義文判定」ができないので問題文が少し変わると問題が解けない。そして自己採点ができず、丸暗記に走るしかない。そうするとワードワードで文章を捉えるので余計に読解力は低下する。

本作でも中学・高校で穴埋めプリントを用いた授業により、文章で理解せずにキーワードを丸暗記してしまうことの弊害が指摘されていた。

俺の中学時代も理科・社会は穴埋めプリントばかりだったが、どうして俺は読解力を向上させ、ここまで維持できたのだろう。それに関する明確な答えは本作にはなかった。でも本作を通じてこれまで理解できなかった「勉強ができない人」の気持ちが少しだけ分かった気がする。読解力が低い人にはこれまで以上に丁寧な説明を心がけよう。そうすることで俺の読解力はさらに向上させることができるはずだ。


この記事が参加している募集

#読書感想文

189,568件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?