見出し画像

宮部みゆき「火車」を再読したら、♪ラララむじんくん♪が聞こえた

「火車」は、1992年に発行された宮部みゆきさんの長編社会派ミステリーです。休職中の刑事が甥っ子の失踪した婚約者を探す物語で、カードローン破産がひとつのキーポイントとなっています。

「火車」を最初に読んだきっかけは、読書好きの父の本棚に文庫版(新潮文庫)を見つけたからです。文庫版の発売は1998年1月で、私が読んだのは大学生のときです。この本を読んで、クレジットカードのキャッシングサービスは怖い、と印象づけられました。

次に「火車」に触れたのは、2011年11月にテレビ朝日で放送されたスペシャルドラマです。2011年、私は6月にはじめて育休から復帰したばかりで、毎日ばたばた。今ではほとんど記憶がありません。ところが、このドラマは妙に印象に残っています。たまたま見た予告CMで、とても不安になったのです。自己破産していたことが婚約者に判明して失踪した彰子の役が人気モデルの佐々木希。演技できるの? 心の中で「佐々木希はないわー」と叫んだ。ベストセラー作品に売れているモデルを配役して視聴率稼ぎか・・・。しかし、ドラマを実際に見てみると、モデルである佐々木希の容姿が絶妙に活かされていて、自分の心配は杞憂でした。とてもよかった。

そして、今回約23年ぶり再読したのは、Amazonの聴く読書サービスAudibleでの耳読。Audibleの「火車」は、俳優の三浦友和が約15時間かけて朗読してくれます。長編小説を最初から最後まで聴くのは、初体験でした。本を読むより時間はかかりますが、単調な家事作業をしながら聴いたり、布団の中で聴いたりして、数日で聴き終えることができました。三浦友和の朗読は、感情を込めすぎず、落ち着いたトーンでとても聴きやすいです。

「火車」を聴きながら、私の頭の中には、♪ラララむじんくん♪ がぐるぐると回っていました。これは、アコムの自動契約機むじんくんのCMソングで、調べてみると1996年から放送されていたものです。あの頃はこの類のCMが多数あり、カードキャッシングという名の借金は、横文字になることで実態が覆い隠されて、巧みに普通の人の生活に入り込もうとしていました。「火車」の設定は1992年。宮部みゆきさんは、「火車」を通じてこの危うい時代にいち早く警鐘を鳴らしたのだと思います。この本を再読(耳読)して蘇ったのは、高校生~大学生だった私が見たあの時代の空気感。就職氷河期で将来が漠然と不安だった大学生時代。小説で時代を知る、感じる。

次は、現在進行中のコロナ禍を描く小説を読んでみようかな。金原ひとみさんの「アンソーシャルディスタンス」なんてどうだろう。そして、20年後に再読したら、どんな音が聞こえ、どんな空気を感じるだろうか。
他に現代を映しているおすすめの小説がありましたら、是非ご紹介下さい。

******
おまけ
改めて「火車」の文庫版をぺらぺらめくっていたら、著者あとがきの最後に関係者へ感謝が記されており、その中に他の人気作家との若い頃からの交流が垣間見られ、興味をひきました。

地理不案内の著者の大阪取材に同行してくださった髙村薫さん、大阪弁の会話について細かくアドバイスして下さいました東野圭吾さん

「火車」宮部みゆき 新潮文庫

1990年代の髙村薫さん、東野圭吾さんの作品も読んでみようかな。


サポートいただいたら・・・栗きんとんを食べたいです!