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ベトナム旅行記「5オクターブとラブホテル」

19歳のときにとある歌手のマネージャーを一瞬やったことがある。彼の付き人として1週間ベトナムに行った。あっちで彼が歌を2日だけ歌うから、そのサポート業務。ムカつくやつだったので、そいつのおもりは苦痛だったけど、1日の仕事時間は2時間程度。その代わりに、ベトナムへの航空券も、1週間3つ星ホテルにも泊まる機会を得た。でも、ホテルは2日で飽きた。朝ごはんのビュッフェは最高に楽しかった。目の前でシェフが注文したベトナム料理を作ってくれるし、フルーツも盛りだくさんで、美味しい。でも、そいつと相部屋なのが精神的にマジできつかった。誇大妄想のクソ野郎だった。


だから、3日目からは、仕事で仲良くなった通訳の人や、話しかけられた現地の人と仲良くなって、一緒に彼らとご飯に行った。そして、カラオケにいって歌ったり、そのままその人の家に泊まった。他にも、安宿に泊まったり、あっちのやっすいラブホテルにも泊まった。宿はめちゃくちゃぼろくてマジでこわかった。けど、ぼくはその体験が最高に楽しかった。最初に会社の金で泊まったホテルは、ホーチミンで最高と言われるホテルだったけど、別に何泊もする必要はない。


一回知れればそれでいい。金を払えば入れる世界だ。しかし、一方で、金を払っても入れない世界がある。それらを、いろんなグラデーションを、全部知りたい。例えば、現地の人の家に、会ったその日に泊まるなんて、なかなかできない。ぼくの小田原の家は、無料で泊まれるけど、下品な人はそもそも来るのをお断りしている。また、ぼくの知り合いで、前澤さんから名刺を渡されて「あなたは下品だから名刺はいらない」と言い放った人がいる。金があったところで、拒否される世界がある。それはもちろん、お金の世界でも、金が足りなければ、泊まれない宿もある。


だから、例えば日本銀行券というのは、ひとつの通貨でしかない。ひとつのレートの世界でしかない。例えば、日本のそこらへんの飲食店でドル紙幣を出しても断られる。「それは使えません」と言われる。そのお店で、その人の前で、使えるように換金してくる必要がある。つまり、日本銀行券が通用しない、どんな国のお札でも通用しない地域というのがある。世界には、まだ、貨幣/紙幣文明が通用しない地域がある。その地域は、野蛮か?文明的に遅れているか?いや、違う。それぞれの地域にそれぞれの速度、文化がある。文化は数直線で測れるものではない。科学の進歩と、文化度は、比例しないし、一直線でもない。


その歌手は、帰国後にぼくに撮影を依頼した。ぼくも若かったし、知識もなかったから、お金の話をちゃんとしなかったのもあるけど、スタジオを借りて、撮影データをフォトショで編集して、納品した後、一切音沙汰がなくなった。金は振り込まれなかった。こっちは、その会社がお金を払っているデザイナーと何回か電話でやりとりして、急ピッチで写真を納品したのに、そういったありとあらゆるこちらの労力を、ブッチされた。ブチギレそうになった。いや、切れた。いや、もっと言えば、あきれた。そして、自分の直感を信じればよかった。怪しい、というのは、それだけ魅力的に見えて、こっちの道にくれば、どんな世界があるのだろう?と付いてきてしまった。その後の人生で何度か怪しいやつにあったけど、それは直感を信じて、自分が損をする前に関係性を切っている。


だから、仕事をするなら事前に金額は決めて、もともと予期されなかった仕事をプラスでするのなら、それも請求書に記載して、全部請求する。当たり前の権利。この時は金額が小さかったから、法で訴える時間がもったいなかったし、知識不足もあった。だから、ただただ悔しかったし、最初にそのくそみたいな歌手とあったときから、傲慢で胡散臭いやつだと思っていたので、直感を信じるべきだった。ベトナムのチケットだけもらって、体調悪いとかいって、他の仕事は全部断ればよかった。だって、契約書なんて交わしてない。やつらが撮影の時にちゃんと契約書を交わさなかったから、支払いをブッチした。が、そんなクソみたいなやつらに、クソみたいな手法で対抗するのはぼくの品位を落とすことになるので、その小さな額くらいくれてやる。俺はあんたらみたいな、せこい商売なんてせずに、堂々と稼ぐ。


口が悪くなってしまって、すいません。ぼくが普段、丁寧語であるとか、敬語で喋っているのは、ぼくのなかに、口の汚い、腹黒い、部分が大きくあることを知っているからです。それを、理性でどうにかこうにか抑えようとしていて、それが、時々溢れ出てしまいます。まあ、初めてのベトナムに1週間ただで行けたのは面白かったし、今こうやって書きながら、「ああ、こんなこともあったな。あの歌手はまじでムカつくけど、歌は実際うまかったし、5オクターブの音域があったのに、自分の才能を殺したね。勿体無いことしたね。でも、ベトナムの現地のフォーは美味しかったし、観光する時間もたくさんあってたのしかっったなぁ」という気持ち。面白い人生経験として消化できるようになった。

いただいたサポートは、これまでためらっていた写真のプリントなど、制作の補助に使わせていただきます。本当に感謝しています。