55つ目の心音
さっき数えてみたけれど、ぼくの心音は53もの音がある。
これまでに出会った、たくさんの美しいものや、もう一度出会いたいもの、気になるものをサンプリングしては、貯めている。
他にも、内臓や血管の内側、空のちょっと下や布団の裏側にある音なんかをひっくるめると53集まって。定期的に鳴るものもあれば、まだ一度もならない、休火山みたいな心音がある。
それは、音楽なんだ!!ときみは言ってくれて、ぼくは、ご馳走さまも言わずにきみに抱きついた。横にいた小さなキツネは、へへ、と笑ってその場を去った。
それは、開演の合図だったから、ぼくはちゃんとみんなをもてなせるか心配だったけど、まずは座ってごちそうさまをしっかり済ませた。そしてそして、皿を洗って拭きあげて、元あった場所に戻すんだ。
すると、心臓は、シンゾウマコトの心臓は!、!!、しっかりあったまっていて、ぼくは君に音楽を届ける。
53もの音を使って、音楽を奏でる。トランプを右手に、左には何も持たず、左の手は、トランプをきる手になって、1枚自由に引き抜いてみた。あ、右手からだよ。右手のトランプから、1枚引き抜くんだ。
そしたら、それに合わせて、心音がひとつ飛び起きて。ということを繰り返して、時には、喉や背中からてを入れて、音をいじる。そんなことを、20分くらいかな。続けていると、起きたんだ。
ぼくは、1人目の演奏で、その後は、だれもいないから、ぼくがまた演奏して。お客さんは、君だけだけど、ぼくは、嬉しくて。大きな机と椅子を2つと、座布団を3枚用意した。
嗚呼、忘れていたよ。
起きたんだ。ぼくもびっくりしたけど、どこかの音にdelayがかかっていて、そのエフェクターにはバグがあったんだ。それは、とても、たくさんのお客さんを殺しかねないことだった。
音がでて、ぼくは、よろこんで。でも、そのdelayはとても厄介で、いまでた音が、また、遅れて聞こえてくる時には2倍になって。それが、また2倍になって、2倍になって・・・。2倍になり続けるんだ。
それは、とても鼓膜をなでるような大きさではなくて、殴りかかってくるんだったから、危険だった。ぼくは、3回目くらいで、あ、と気づいた。
君を殺しかねない。
その欲張りなエフェクターが53もの音のどこにあるか、探しださなきゃいけなくて。演奏は、でも、止めたくない。でも、君も殺したくない。そんな葛藤が、0.2395276秒の中にあって、ぼくは決断した。心臓を殺そう。
ひとさししたら、一気におとが小さくなった。君は驚いたそぶりなんかみせず、そのひとさしででた新しい音を楽しんでいるようだった。それは、まどろみ。生きるということ。
ぼくは、もちろん死んだんだけど、それもひとつの演奏だと思って、新しい音楽体験だと信じていて、君は相変わらず横にいて、その音に散歩帰りのように耳をそばだてている。
ぼくの瞳はすでにまぶたの裏に収まっているけれど、まるで静寂には難色もの種類があるようだった。君は気持ち良さそうに、体をゆすって、呼吸をしていた。その曲は、いつ終わるのかなどと、始まりしかない曲だ。君はそれを気にせず終わるまでいるだろうから、ぼくはぼくが死んでも、そんなこと気にせずに、いま、こうして文字を打っている。
君を守るために生まれた、あのひとさしされた心音は、まるで、美しかった。その54つ目の音と、静寂という55つ目の心音は、まるで、はじめからそこにあったんだ。
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