下積みアナの苦悩【①名前を覚えてもらうための新企画】

新人女子アナウンサーの若林桜子は、テレビ局の新企画に抜擢された。ある日、ディレクターの岡部が彼女に驚愕の提案を持ちかけた。「若林さん、この番組でリモコンの顔出し着ぐるみを着てもらいます。上からの指示ですが、そうすれば、視聴者が名前を覚えやすくなりますよ。」

桜子は顔を赤らめながら、その着ぐるみを目の当たりにした。身体部分がテレビリモコンの形状を模しており、顔を出す穴は「決定」ボタンの部分に設けられていた。ボタンまでリアルに表現されており、まさに恥ずかしい格好だった。

「それは……ちょっと……」桜子は驚きと戸惑いで言葉に詰まった。

先輩アナウンサーの山本が笑いながら言った。「若林さん、これも仕事の一環だからね。気持ちを切り替えて頑張りましょう。」

しかし、桜子はその顔出し着ぐるみを着ることに抵抗感を覚えていた。ただ、名前を覚えてもらうためにはどんな仕事でも受け入れるしかないと思い、重たい足取りでその着ぐるみを手に取った。「はい、わかりました。頑張ります。」

そうして、リモコンアナウンサーとしての彼女の日々が始まった。

翌日、桜子はリモコンの顔出し着ぐるみを身にまとってスタジオに立った。彼女の顔は決定ボタンの穴から覗き、着ぐるみの腹部には「音量」や「チャンネル」のボタンが並んでいた。

先輩アナウンサーの吉田が言った。「若林、君はリモコンだ。視聴者の"操作"を受け入れる覚悟があるのか?」

桜子は「はい、覚悟はしています。」と言ったが、心の中ではどうしても恥ずかしさと不安が消えなかった。それでも、笑顔を絶やさずに「これが私の仕事ですから」と強く言い聞かせた。

ディレクターの岡部が微笑みながら言った。「良い心持ちだ。でも覚えておけ、テレビの世界は厳しい。人気が出なければ、この着ぐるみもすぐには脱げない。」

その日から、桜子は毎日、リモコンアナウンサーとして視聴者の前に立ち続けた。しかし、彼女はいつまでもその着ぐるみを着ることに抵抗感を感じていた。


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