「白い歯の恥辱」

明るく元気な受付のお姉さん、千秋は仕事が大好きだ。しかし、どこか抜けていてミスが多い。予約のダブリ、診察室の掃除忘れ、患者さんの名前間違い。千秋のミスが目立つようになると、院長からある提案があった。

「千秋、君には歯の着ぐるみを着てもらうことにした。」と。それは大きな白い歯を象った顔出し着ぐるみ。顔の部分には歯の中から顔が覗くようなデザイン。耳の部分にはキラキラと光る銀色のフリル。

「えっ、それはちょっと…」と千秋。だが院長は頷く。「君のミスを患者さんに笑って許してもらえるかもしれないよ。」

そうして千秋は恥ずかしい歯の着ぐるみを着ることに。同僚の雅也は「それ、いいじゃん!おもしろいよ!」と言うが、千秋はただ頭を抱える。先輩の由美子は「頑張れ、千秋。」と慰めてくれるけれど、それでも千秋の気持ちは晴れない。自分のミスがこんな形で周りに知られるなんて、とても辛い。

千秋は「まずは一日だけ、やってみます…」とだけ答える。だがその一日が、彼女の新たな苦難の始まりとなることを、まだ知らない。

千秋の歯の着ぐるみ姿は、歯科医院に通う患者たちにとって新たな話題となった。しかし、それは千秋にとって辛い一日の始まりだった。「あはは、それ可愛いね!」と笑う患者たち。院長と雅也の満足げな顔。由美子の同情的な視線。すべてが千秋には苦痛だった。

「この着ぐるみ、中は暑いし、動きにくいし…」と千秋。しかし、それ以上に心が痛むのは、自分のミスが原因でこんな目立つ形で反省を強いられること。こんな目立つ形でみんなに笑われること。

短い休憩時間には、千秋は自分の無神経さを呪った。「ああ、もっと気をつければ良かった…」。由美子は「千秋、元気出して。私たちも応援してるから。」と励ますが、それでも千秋の気持ちは晴れない。

このままではいけないと思った千秋は、自分のミスを減らすために、さまざまな工夫を始めた。しかし、それがまた新たなミスを生む原因となり、千秋はさらに深く自己嫌悪に陥っていった。こんな日々がいつまで続くのか、千秋にはわからなかった。

この新たなミスが続き、歯の着ぐるみを着続けている千秋。彼女の自尊心は日に日に削られていった。「なんで私ばっかり…」と彼女はつぶやいた。

院内では一部の患者から千秋を見る目が変わってきていた。子供たちは彼女を見て笑い、大人たちは不慣れな笑顔で彼女を見つめていた。「これが私の仕事の現実なの?」と千秋は悲しく思い、それでも毎日、患者たちの前で必死に笑顔を作り続けた。

そしてある日、千秋が院長に呼ばれた。「千秋、着ぐるみを着てくれてありがとう。患者からの反響がとても良いんだ。でも、君の表情が暗い。何か困ったことがあったら、言ってくれ」と院長は言った。

「はい、院長。ありがとうございます」と千秋はうつむきながら答えた。しかし心の中では、彼女は自分が抱えている屈辱をどう表現すればいいのかわからなかった。

結局、千秋の着ぐるみ生活は続いた。患者たちからの反響が良いからだ。彼女の心の中では悲しみと屈辱が混ざり合い、仕事に対する情熱が消えていくのを感じた。それでも彼女は仕事を続けるしかなかった。




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