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ハメスを欲望のままに

今回のコラムでは、私が愛してやまないハメス・ロドリゲスについて心行くままに書き殴っていく。

本編に入る前に、ハメスのプレミア移籍が決まってすぐ、私が思ったことを文章に残した記事がある。時間の許す限り、この記事にも付き合っていただきたい。


ハメスに付き纏い離れなかった「不遇」の2文字が、今では「厚遇」に代わった。

 
 時は2014年ブラジルワールドカップ。あの舞台が彼にとって初のワールドカップだった。与えられた背番号はエース番号10。コロンビアと同大陸の開催国ブラジルでは、開催国優勝をかけ、想像を絶するほど熱く黄色に染まった旋風が巻き起こっていた。そんな中でハメスは大会の主人公になる。コロンビア代表がクォーターファイナルで敗退するまで全5試合に出場し、6得点4アシスト。3度もマン・オブ・ザマッチに選出された。人類の域を超え、昆虫類(巨大なバッタ)にもファンの層を構築していったあのシーンは、後世にも伝えられるであろう伝説のツーショットだ。

 
 こうして全くと言って容易ではない手口でフットボールの神様を呼び込み、マドリーの移籍に踏み込んだ。それが2014年7月の話だった。

 2014年8月1日、マドリーでの初のトレーニング後、ハメスは自身のTwitterで歓喜の言葉を写真を添えて更新した。マドリーでのファーストシーズンでは、クリスティアーノ、ベンゼマ、ベイルに見劣りしないほどの大活躍でさらに大ブレイクを果たした。だが、一寸先は闇。監督がアンチェロッティからベニテスに代わると、チームの下降気流と連動して、ハメスの出番も徐々に減少。たったの25試合でベニテスも解任され、ジダンになっても流れは変わらず、むしろ悪化する一方だった。

 満足するほど試合に出させてもらえない日々が続き、メディアもハメスを何度も何度も話題に取り上げた。本人にとっても現状に対する不満、メディアがでっちあげる虚構、それに噛みつき応対を要求してくるマスコミなど、様々なフラストレーションがたまる中、コンディションの部分では別世界にいるようだった。試合に出ればアシストなり、ゴールなりで結果を残すのはいかなるときも不変。結果を残すことは彼の得意分野だ。だが、監督からプレースタイルを嫌われる運命から逃げることは苦手分野だった。

 一度はもう一花咲かせようとバイエルンにプレー環境を変えるも、運に好き勝手に遊ばされ、安定してサッカーをすることができずに、20代最後の年を迎えようとしていた。

 ◇◆◇ 

 ハメスが試合に出られなければ、メディアの出番だ。彼に合いそうな新たな職場を見つけて話題を作るメディア。そこには必ずといっていいほど、アンチェロッティが率いるクラブの名前が含まれている。バイエルンはもちろん、ナポリの名前が入ったこともある。そしてハメスのドイツからの帰国後、マドリーに帰ってきたばかりのタイミングで、メディアは彼を弄んでいるかのようにエヴァートンの名前を時を置かずに出し続けた。当時は、エヴァートンへの移籍報道も日に日に信憑性を増していく中で、メッシのバルセロナ去就問題が後を絶たず、フットボール界のひと味違う「ええじゃないか」が生まれた。

日本時間9月8日の早朝4時にエヴァートン公式Twitterでハメス加入の発表がなされた。その公式発表から約1週間後のプレミアリーグ開幕戦(対Tottenham)、ハメスはいきなりスタメンに選ばれた。プレミア初挑戦の立場ということもあり、初めは様子見のプレーが多かったが、要所要所で見せるキックの精度の高さ、味方を使う巧さは、ポルトガル、フランス、スペイン、ドイツと欧州を歩き回った経験値の高さがゆえのものだった。癖のあるドリブル姿勢、コーナーフラッグのもとへ向かう後ろ姿、ポルト時代以来の背番号19、すべてにノスタルジーを覚えた。

 そんなサプライズ交じりの開幕スタメンを皮切りに、少しずつイングランド色のサッカーに馴染み、第2節(対WestBrom)でいきなり初アシスト、初ゴールを立て続けに記録。本人にしてみれば、アシストは2020年1月30日コパ・デル・レイ ラウンド8のサラゴサ戦以来、得点に関してはもっと時を遡り、同19-20シーズン10月5日のグラナダ戦以来。エヴァートン移籍は間違ってはいなかったことを移籍後すぐに自力で証明してみせた。三十路が近づいてもクオリティーはまだ落ちていないことを訴えかけるかのような雄叫びと、チームメイトとの熱い抱擁がなんとも印象深い。

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さて、ハメスがイングランドに上陸して4か月の月日が経ち、これまでに計14試合に出場した。試合の内訳は以下の通り。

プレミアリーグ:11(1)  ※()は途中出場
カラバオカップ:1
FAカップ:1

怪我、コンディション不良はありながらも、ここまでは恵まれた出場機会を得ていると言って良い。それに伴い、選手評価もエヴァートン随一を誇っている。(データの数値はすべてWhoScored?comから引用)

選手レート
(1) 7.93 ハリー・ケイン
(2) 7.92 ジャック・グリーリッシュ
(3) 7.68 ケビン・デブライネ
(4) 7.54 ブルーノ・フェルナンデス
(5) 7.51 ソン・フンミン
(6) 7.44 ハメス・ロドリゲス
(7) 7.42 サディオ・マネ
(8) 7.42 メイソン・マウント
(9) 7.40 ドミニク・カルバート=ルーウィン
(10) 7.36 モハメド・サラー

長年、イングランドで血、汗、涙を流してきた苦労人の中に、まだ4か月の時間しか過ごしていないハメスが6位にランクイン。

同僚でもあり絶対的ストライカーでもあるカルバート=ルーウィンを負かすほどの好成績。

もっと細かいデータを用いてハメスを覗いてみる。

過去の成績との比較 ※各国リーグ戦のみ

項目
20-21(Premiere) / 19-20(Laliga) / 18-19(Budesliga) // 過去10年の平均
計プレー時間
12試合,958分 / 8試合,419分 / 20試合,1143分 // データなし
パス成功率
83%(-) / 82.3% / 87.1% // 85.5%
1試合あたりのシュート本数
1.8本(-) / 1.1本 / 1.8本 // 1.9本
1試合あたりのキーパス本数
2.3本(±0) / 1.8本 / 2.6本 //2.3本
1試合あたりのタックル回数
1.3回(+) / 2.1回 / 0.6回 // 1.2回
1試合あたりのインターセプト回数
0.8回(+) / 0.4回 / 0.2回 // 0.6回
1試合あたりのドリブル成功回数
2回(+) / 0.8回 / 0.7回 // 1回
1試合あたりの被ファール回数
2回(+) / 1回 / 0.8回 // 1.5回
1試合あたりのボールロスト回数
1.7回(+) / 0.4回 / 0.6回 // 1回
選手レート
7.44(+) / 6.91 / 7.24 // 7.37

 興味深いデータを並べてみたが、上記の中で特に気になるのはボールロストの回数の変化だ。今シーズンのボールロスト(/試合)の回数はここ3シーズン、さらには10年分のデータ平均値を大きく上回っている。
 プレミアリーグは素人目線で見ても、ラリーガよりプレススピードが速いことが一目で分かる。それにエヴァートンでは、一人だけ異色を放つハメスに自然とボールが集まる傾向にあるのだろう、自然とタッチ数が増えるのも理解しやすい。それに伴い、必然的にボールロストのリスクも高まる。被ファール数が増えているのも関係しているはずだ。これらの考察としては、一概には言えないものの、このデータ値はまだハメスがプレミアのサッカーに完璧に適応できていないことを示しているのだろう。

◇◆◇

 だが、データでフットボールは語れない。私は時間の許す限り、エヴァートンでのハメスをなるべく見るようにしている。前半戦の彼の戦いぶりをここに備忘録として残すことにする。
 監督がジダンであってもアンチェロッティであっても彼の主戦場がピッチの右側なのは変わらない。これまでエヴァートンでは4-3-3の右ウィングに、インテリオール、4-4-2のツートップでプレーしてきた。中でもウィングでの出場がベースにある。とはいっても、彼は純粋なウィンガーでもないしドリブラーでもない。ゲームを俯瞰的に見た時に、ゲームを作りやすい位置に陣取り、そこから味方を活かしていくのが彼のスタイル。前線3枚の一角として出ても、実際はトップ下の位置にいることだって珍しくはない。

 エヴァートンをハメスの移籍を機に見始めた者として、チームの戦術理解度は全く高くないと自覚しているが、ここまでの彼の存在がエヴァートンの起爆剤となっているのは間違いなかろう。2014年ウルグアイ戦の驚愕ボレーに、14-15グラナダ戦(A)の再現不可能の大胆ボレーなど、ゴールまでの道が見えたら欠かさずぶち込む思いっきりと勘の良さ、ストライカーの動きとピタリとあうクロスの精巧さ、ひと振りでサイドを変え、ピンチをチャンスに変える展開力など、ありとあらゆる能力すべてをプレミアの地でも遺憾なく発揮できているように見える。

 ただ守備の軽さや走力、前述のボールロストの多さなど改善すべきところもある。守備の軽さや走力は、どこの国でプレーしても言われ続けてきたうえ、本人も「自分は走るより周りの選手を走らせることが僕のプレースタイルなんだ」と主張したこともあるため、今後大きな変化が見られるとは想像しがたい。ハメスの欠点を他のチームメイトが補うことは後半戦も必須となりそうではあるものの、それ以上のものをチームの勝利のためにもたらすことだろう。

◇◆◇

 ところで、先日、エヴァートンの公式YouTubeチャンネルで、ハメスのインタビュー動画が公開された。16分に渡る濃い質疑応答が行われ、非常に高質なコンテンツとなっている。是非ともご覧いただきたい。

その中でも個人的に印象に残った受け答えをいくつか紹介し、最後の締めを述べたい。

Q:カルロがいるチームに加入してどう?
A:僕は試合に出られないシーズン(19-20シーズン)を過ごしていて、自分が信頼出来るチームに行く必要があった。僕のこと、そして僕のピッチ内外での振る舞いを知ってる監督が必要だった。カルロがこのチームに来るためには必要だったよ。

Q:このチームをカルロを決め手として選んだのか、チームとして選んだのか
A:両方だ。カルロにもクラブにも永遠に感謝する。それが毎試合ベストを尽くす理由だし、自分を高いレベルに成長させる理由だ。それをこのクラブではやり遂げたい。

Q:プレミアリーグでプレーすることは夢が叶ったようなことか
A:うん、幼少期からプレミアはよく見てたし、プレミアの全ての素晴らしいチームに興味を持っていた。僕のキャリアにとって真新しいリーグでプレーすることはポジティブなことだ。僕は今年で30歳になるし、たくさんの経験をしてきた。これらの新しい体験は強力なものになるだろうし、新しいことを学ぶことできる。僕は毎日新しいことを学ぼうとしてるし、新しいものを見ている。僕としてはそれはすごくいいことだ。僕はフットボールに関しては好奇心旺盛な人間だからね。

Q:エバートンに移籍したのは最適なタイミングだったか
A:それは疑う余地がない。大きな手助けになったよ。20歳でフットボールを始めて30歳まで続けると、いろんなものを見ることになる。いいことも悪いことも見てきた。結局今では、僕にとってフットボールはいいものだ。だけど、いいことも悪いことも含め、いろいろな経験が必要だ。これはただの教訓なんだよ。

Q:マドリーでもバイエルンでもトップレベルのストライカーとやってきたけど、カルバート=ルーウィンについてはどうか
A:彼はゴールに貪欲だ。どのストライカーもゴールを決めるチャンスを探しているから、それはいいことだ。彼はまだ若いのに野心的だ。今季30ゴール決めることを願っている。

ハメスの言葉でハードルが矢庭に急上昇したカルバート=ルーウィンへの期待とともに、コロンビアの貴公子の左足から放たれるマジックファンタジーに一日でも長く縋っていたいものだ。


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