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灼熱の丹後。100km渾身のリベンジを誓った壮絶な一日の締めは、五臓六腑に染み渡る大将こだわりの中華そばだった

カロリーが足らん。
胃が、腸が、、、、
枯渇しとる。
シンプルに「空腹」がヤバかった。

あぁぁぁ、ラーメン食いてぇ。

ウルトラマラソンの後、
その日宿泊するキャンプ場まで運転する妻にそう言った。

本当は、「こってこて」の博多ラーメンが食べたかったが、丹後の地でそれを探すのが何より面倒くさい。ちょうど通りかかった先に、古風なラーメン屋らしき建物が見えたので、

なんのこだわりもなくそこに決め、
なんのこだわりもなく店に入り、
なんのこだわりもなく一番人気とされる“中華そば”を注文した。

ほどなくして出てきた熱々の中華そば。
早く胃にぶちこみたい。

そんな衝動に駆られ、
まずはスープを飲む。
そして、ずるずる麺を食す。

おっ。

ん??
おっ、おっ、おっ。

え?
う、ウマい。
恐ろしい程ウマいぞ。

あまりにもウマかったので、胃が空っぽすぎるからなのか、脳が長時間太陽にやられて味覚がおかしくなったからなのか、
と思っていたが、
妻も子どもも、めちゃくちゃウマいという。

やっぱりウマ過ぎる。
博多だとか、どこ発祥のラーメンだとか何だとか、そんなつまらないことにこだわっていた数10分前の自分を撲殺したい。
「こってこて」って何だ、
醤油ベースの中華そば最高。
一気食い。

“大将、替玉おねがい”
“あいよー、おおきにー”

マラソンを走っておきながら、嗚咽おえつを洩らしながら替玉まで速攻で食べ切った。
細い麺が汁に絡んで、タマらない。
スープが五臓六腑ごぞうろっぷに染み渡って、
あぁ、最高。

時刻は19時過ぎ。
早朝4時30分からスタートしておおよそ15時間経過。
ようやく至高の満足感で満たされたボクは、長かった一日を振り返った。

一年の最大のイベントとして位置付け、
これに照準を合わせてきた
丹後100㎞ウルトラマラソンが、
今日終わった。

入店から足を引きずるボクを見て、一瞬で大将はボクがウルトラマラソンを走ったことを察し、

えらくずいぶんと話しかけてきた。

“すごいね”、
“立派だね”、
“パパかっこいいね”

ボクは、大将そして従業員から
自身を称えるたくさんの褒め言葉を頂いた。

きっとそれは、その日一番の褒め言葉のシャワーを浴びた瞬間だった。

壮絶だった丹後100kmウルトラマラソン

60km地点

時刻は11時過ぎ。
前半、攻めるおおむねの予定通り、
ボクは最難関の高度400mの山登りをするふもとまでやってきた。
残り40㎞。タイムリミットまで7時間以上もある。
1キロを10分以内で走ったらいい、さすがにこれは歩いてもいける、と計算した。

さぁ、登るぞ。

しかしこの前後の時間帯から、照りつける太陽の日差しが容赦ない。
34℃の灼熱地獄。
ここからは日陰もない無風の山登り。

あつい。
暑すぎる。
走っても、歩いても、
全身がモワっと熱を帯びる。

いったいオレは何しにきた。
本当にこれはマラソンなのか?
いやサウナの耐熱レースか?

精神が異常をきたすそのたびに
「一歩先、また一歩」と、
もう一人の自分がげきを飛ばす。

しばらく歩いて走ってを繰り返す。
が、
あれ?やっぱりおかしいい。
体のバランスが取れていない。ふらふらの状態。前に進んでいるが、左に傾いてきてバランスを失う。危うく側溝に落ちそうになったところで、後ろからきたランナーさんが支えてくれた。

ボクは、軽く熱中症になっていた。

んんん、、、、

あぁ、、、、

あかん。
このまま無理を押して突き進むのか。
自分に、問い掛ける。

ふとリタイアして「大泣き」した去年の子どもの顔が浮かんだ。次女に交わした約束もある。よし、気合いだ。
いこう。
ボクは行かねばならぬ。

また、しばらく歩いて走ってを繰り返す。

すると、ほどなくして今度は「笑顔の」子どもの顔が浮かんだ。

・・・そう、

ウルトラランナー以前に・・・・・・

そう、、、、

ボクは3児のパパだ。
やっぱり…これ以上…

いや、、、

んんん、、んん

いや、うーん、、、いこか。

いや。
だめ。
もう無理はできない…と思った。

それは残念かもしれないし、無念かもしれない。でも、納得できた瞬間でもある。
あの感情、あの瞬間の気持ちを言葉で表現することは難しい。一週間が経過し、今のボクには分からない。
おそらく、いやきっと誰にも理解されないだろう

いろんな感情が渦巻いた後に

62㎞地点。
極限状態だったボクは、
あえなくリタイアを決意した。

日陰に行ってうずくまり、
さっきまであれだけ1分、1秒を気にしていた時間が無惨にも流れ続けるが、
もう何も気にならない。

しばらくボーっとして体内の熱を冷まし、
何かを考え、
何かを感じた。

そして流れ作業的に、
足につけた計測チップを取り外し、
妻に、LINEを送った。

終わった。
ボクの2023年の熱い夏が終わった瞬間だった。

普通に考えてみて、
ここまで走ってきて、ゴールがぼんやりと見えてきた中において、
あれだけ歩みを止めないと豪語しといてリタイヤするかぁ…と思われるかもしれない。
しかし、もうバランスがとれないんだから…どれだけ㌔10分台でいこうとも身体が危ない。単純にボクにはそれを乗り越えるだけの体力・気力・精神力がなかった。

たしかに気象条件は過去一、最悪だった。
しかしゴールした“ウルトラマン“が700人もいるという事実(完走率48.0%)。

前半の貯金で油断があったのか…
結果的にその戦略自体は、間違いではなかったが、貯金をして後半の暑い時間帯は、時間をかけてゴールしたらいい…という考え方がいろんな注意を怠ってしまった。

その時の自分の体の状況、
そしてエネルギーの摂取状況などを考えることができなかった。最終的には自分はエネルギー不足がリタイアの原因だと思っている。

つまりライバルに負けたのではない。
太陽に負けたのではない。
自分自身に負けたのだ…

敗因は、外的要因に結論づけるべきでない。
ボクが強くなるためには、その事実からは、絶対に目を逸らしてはいけない。

敗北感にまみれたリタイア後

しかし、もっと悔しさがあるのだと思ったが、終わってからは意外とサバサバしたものだった。

ボクはやることはやった。これ以上は無理。
そう言えるくらいに、この一年間、絶対リベンジを掲げ、
仕事をやりながら、
三児のパパをやりながら、
空いた時間をランニングに費やしてきた。

そんな充実感があったからだろうか、昨年のような涙は込み上げてこなかった。
おそらくボクができうる努力の総量と経験値の程度では、この条件下では100回やって100回無理だろう。そう思えたからかな。

この結果には十二分に、納得できたのだ。


荷物を預けていたスタート地点で、
家族と合流したとき、長女と次女の頭をやさしくポンポンと叩きながら、
「パパ、ごめんね、負けちゃったよ」
と言ったとき、その小さな心から涙が溢れた。ワンワンと泣きじゃくる彼女たちの涙。

でも今日の涙は、去年のようなゴールできなかったことへの涙ではなかった。

「もう引き際。もうムリ。これをもってウルトラマラソンを卒業する。」
リタイア後にそれを妻にLINEで送ったことに対する涙だった。

そう、彼女たちは生まれてからの9月を丹後として、パパを応援し、最後には一緒にゴールする日を楽しみにしていた。
それが急になくなることが、彼女たちにとって大きな喪失だった。そして、ボクはそこでようやく気づいた。

この戦いは自分だけのものではなく、家族全体の絆と共有する特別な瞬間だったんだ、ってことを。

ごめんね。ウルトラマンにはなれなかった。

33歳から完全燃焼した。
ボクはウルトラマラソンを通じて、
“当たって砕けろ”という言葉もあるように、何歳になってもそういう気持ちを持ち続けることによって様々な方面でも波及してくるものだということを子どもたちに伝えられた、と思っている。
もしかしたらそれはエゴかもしれないけれど、そう思うことがボクの父親としてのプライドであり、逆境に立ち向かう原動力でもあった。

そりゃもう昔のように、
独身時代のように、
練習に時間を割くことはできないし、走れやしない。日々の練習は、「成長」と言うよりもはや「維持」。トレーニングをしてもまた来年完走できるかどうかはわからないという繰り返し。

今回みたいな気象条件下では素人ランナーのボクにとってはゴールが相当困難になる。
でも年齢を克服しながら、仕事もしながら、プライベートも充実させながら、
高い困難な目標に逃げずに真正面から向き合う父親としての姿勢だけは、子どもたちに見せてこられたんじゃないか、って思う。

だからそれでいい。
完全燃焼で、これにて完結。
無様な最後となったが、これこそがボクらしいウルトラマラソンのゴールなのだ。
そう総括し、宿泊地のキャンプ場に向かうべくボクは車の最後部座席に乗り込み、会場を後にした。

おいしいラーメンを食べた後、、、

お会計をすませ、
「大将、ごちそうさま。めっちゃおいしかった。やっと現世に生還できたわー」
そういうと、

「来年もここに戻ってきなよ。待ってるよ」
と大将が言った。満面の笑顔だった。

いやいや、さっき、
これでウルトラマラソンからは引退するって、言ったばかりやんか。

この人、なにを言ってるんだ。

大将は続けた。

「数回の成功よりも、継続ってのが一番難しい。失敗を重ね、こだわり続けてコレの味が出てきたんだから。」

大将は、指でラーメンを指した。

言葉につまった。
ずっとごまかしたり、納得させたり、こらえていたモノが目から溢れてきた。
おそらくまばたきすれば、
子どもの前でそれがこぼれ落ちてしまう。

ボクは、バレないようにさっと目元をぬぐった。

そうか、そうだな。
なるほどな。

ま、
それならな、

・・・・・しゃあないな。

そこまで言うならやな、

ラーメン食べるために、
来年も丹後にきてやってもええよ。

どうせなら、大将のラーメンをウマく食べるために、胃と腸を枯渇させといてやってもええけどね。

しらんけど。

※実は、大会中に有りがたい出来事がありました。それはまた別記事で書かせていただきます。この場でお礼を申しあげます。ありがとうございました。
また、ネットの向こう側で見ず知らずのボクなんかを心で応援してくださった皆様も、本当にありがとうございました。

ゆづお

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