バカと天才が紙一重なのはどちらもKYだから。

今では当たり前の「新幹線」。

じつは実現したのは奇跡に近く、建設当時、多くの国民とマスコミは計画をバカにして反対していた。特に「世に四バカあり。万里の長城、ピラミッド、戦艦大和に新幹線」というフレーズは流行したという。

新幹線の反対論者から見れば、島秀雄は技術バカで、国の予算をムダに使うマッドサイエンティストに見えてたのだろう。狂った技術者や科学者はSFの世界で人気だが、現実の世界でもおかしな研究をしている人は多い。

「バカバカしい研究」に贈られるイグノーベル賞

ノーベル賞のパロディのイグノーベル賞は、変な研究をする人を表彰している。

・なぜキツツキは頭痛がしないか?
・植物にも尊厳はあるのかという研究
・名前をつけられた牛は、名無しの牛よりもたくさんの牛乳を出すか
・剣を飲み込む芸とその副作用の研究
・検尿の際に患者がどのような容器を選ぶか
・ハトを訓練すればピカソの絵とモネの絵を区別できるか

いずれも他人から見ればどうでもいい事を、当人は真面目に研究している。

ロリコンが電話を発明した?

ところで電話は、イグノーベル賞風にいうと「声を振動に変えて肌に当てれば、耳の聞こえない人と話せるか」というバカっぽい研究が元になって発明されている。

26歳のベルが16歳のメイベルに恋をして、なんとか仲良くなりたいと思った試みが電話になった。ベルがロリコンだったおかげで世界は進歩したのだ。

自分の声を振動に変えて肌に押し当てるというのは、一歩間違えば変態行為である。「キモい!」とメイベルに言われ、悔しくて電話を作ったのかもしれない。

ちなみに『サはサイエンスのサ』では、メイベルがベルにあてた手紙が紹介されている。それは次のように厳しい口調で、ベルを嫌っている様子がわかる。

あなたが障害者のために働くのは、あなたに思いやりの心があるからではありません。あなたにとって大事なのは、子どもたちの耳が不自由という事実のほうで、人間としての彼らではないのです。(かなり要約)

一生懸命やっているのに罵られるベル。それでも喜んで尽すベルはマゾだろう。

なぜバカと天才は役に立たない研究をするのか

「蓄音機など役に立たない」と言ったのは発明したエジソン自身だ。
「新幹線など役に立たない」という周囲の声をスルーしていた島秀雄。
メイベルに「役に立たない」アプローチをしていたベル。

偉大な進歩のいくつかは「役に立たない」ことから発生している。

そして、そんな研究をしている人はバカと言われる。「その時代に役に立つ」事をすることが普通だからだ。しかし「役に立たない」ことをしてたからこそ、他人と違ったことをすることができた。

バカも天才も「役に立たない」段階ではどちらもバカと呼ばれる。あとになって、役に立ったとわかった人が天才と呼ばれる。後の時代でも役に立たなかったら、やっぱりバカなんだが、それでもバカはあなどれないのだ。


※過去ヴィレッジヴァンガードのコラムに連載していたものを転載。

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