「RFPを真に受けるな!」田端大学に遊びにいったら、ビジネス版の禅寺のようだった。

田端信太朗さんが主催しているオンラインサロン「田端大学」の定例会に遊びにいったら思いのほか熱い空間だったので簡単に紹介したい。ただ私が行った回はぬるい会だったそうで、普段はもっと熱いらしい。

遊びにいった理由は、定例の課題が田端さんの新書「これからの会社員の教科書」だったからだ。この本はこれまでの田端さんのふざけた本とは真逆にふった真面目な本で、とても面白いし役に立つ。

定例では毎回お題が出され、それに対して塾生が答えるらしいのだけど、今回のお題はこちら。

「これからの会社員の教科書」を50万部級のベストセラーにするためのマーケティング施策の4PでいうProduct以外の部分、PromotionとPriceとPlaceの3つのPの観点から売るためのキャンペーン施策を提案してください。

田端さん自身、「自分の塾で自分の本を売る方法を考えろってめちゃくちゃ宗教っぽいけど、今日は本の発売日だし許してちょうだい」と、まるで「いきなり! ステーキ」の社長が「ステーキ食べてね」と店にメッセージを張り出すくらいの勢いで塾生にことわっていた。

お題に対して寄せられた回答を元に、定例でのプレゼンターが田端さんによって選ばれ発表するスタイル。みなさん真面目にどう売るかをプレゼンしていて、レベルと意識高いなーと感心してたんだけど、最後に田端さんがどんでん返しをしていた。

その様子を見てて、有名な禅問答の「南泉斬猫」を思い出した。

あるときお寺で、かわいい猫を坊さんたちが奪いあっていた。そこに現れた南泉和尚は猫を取り上げてみんなを叱った。「これはいったい何の騒ぎだ。おまえたち、ここで何か気のきいた一言を言ってみよ。言うことができれば猫は助けよう。しかし言えなければ猫を斬ってしまうぞ。」しばらく待ったが誰も答えられない。南泉はついに猫を斬ってしまった。

どうすれば猫を救えたのか?

さらにはアインシュタインの言葉もついでに思い出した。

A clever person solves a problem. A wise person avoids it.
賢い人は問題を解決する。もっと賢い人は、問題を回避する。

最後には、「これからの会社員の教科書」の内容も思い出した。

LINE時代、新入社員のビジネスプランコンテストで審査員をしたことがありました。新入社員はみんな「本気で勝ちに来ました!」と言っていましたが、ぼくにはそう思えませんでした。もし本当に勝ちたいのであれば、審査員である僕に「どういうところを見ているんですか?」「どういうプランが選ばれますか?」と聞きにくればいいのです。
多くの新入社員は、会社を「学校」だと思っています。 学校では試験前に先生に「今度のテストってどんな問題が出るんですか?」と聞きに行ったら卑怯だと思われます。不正になります。しかし、会社にはそんなルールなんてありません。
本気で勝つための方法がわからないのなら、「どの提案が通るか」を決める人間にさっさとその基準を聞けばいい。それが大人の仕事のやり方です。それは卑怯でもなんでもありません。

で、話を戻すと田端さんが言ったのは「なんでこんなお題、50万部を売るってことを真面目に考えてるの?50万部売れたって印税は高々知れてる。中途半端な金額です。50万部売れて田端さんは何をしたいの?ってなんで疑問に思わないんですか。疑問に思ったのは一人だけ(プレゼンターの一人)でした」

いわば「RFPを真に受けるな!」とでもいうのだろうか。

RFPは「Request For Proposal」。発注者が候補者に対して具体的な提案を依頼する文章だけど、上手い人はこのお題自体をハックして「あなたはこう求めてきたけど、あなたが本当に欲しいのはこれで、そうであればこうした方がいいんじゃないですか?」と提案してくる。

例えば猫の禅問答では、和尚の「何か気のきいた一言を言ってみよ。言うことができれば猫は助けよう。しかし言えなければ猫を斬ってしまうぞ」というのも一種のRFPだ。

しかしよく考えるとこの要求はおかしい。気のきいた一言と、猫の命はまったく関係ないからだ。和尚はおそらく、なぜ誰も俺を疑わないのか?と絶望しただろう。

ちなみにプレゼンのあとの質疑応答で、田端さんに振られたので私はこう答えた。「本というのは名刺のようなもんです。(本自体は儲からないけど、その本をきっかけにビジネスが進むことが多い)今回の本を読んで、あまりにも真面目な内容なので、田端さんはいままでの尖った名刺とは違う、マス向けの名刺を刷ってきたんだなーと感じました」

つまり新しい名刺であれば、これまでと違う客層にアプローチするのが目的で、名刺自体で儲けようとはしていない。なので今回は例えば、本の儲けは度外視して、いかに新しい領域を広げるかが大事ですよね、ということを指摘したうえで提案を進めた方がいい。

もちろん実際のビジネスではこうはうまくいかない事の方が多い。力関係もあるし、RFPを守ったほうが良いことが大半だろう。しかし大切なのは、顧客が本当に解決したいことはなんなのかって視点。

RFP自体を否定しようとするのではなくて、自らが顧客自身であれば、どうすればいいだろうか?という視点をもってくださいねってのが田端さんの願いだったのではないだろうか。知らんけど。

ちなみに某建築家と話していたら似た話しがでてきたので追記。
建築家は「問い」を立てる人。依頼された物を設計する人は半人前。そもそもなぜ、何を建てるかを提案する。
クライアント「ここにゴルフ場施設を建ててほしい」→ 安藤忠雄「そこにゴルフ場はいらない。私の汚名になる。国際会議所を建てた方がいい」→ 受注

Unthinking respect for authority is the greatest enemy of truth.
何も考えずに権威を尊敬することは、真実に対する最大の敵である。

これはアインシュタインの言葉だけど、アインシュタイン自体が権威なのでパラドックスになってて面白いね。

そんなわけで、熱い田端大学おもしろかった!
ついでにいろんなサロンを取材してレポートしたくなった。


読んでくれてありがとう!