(社説)タリバンと女性 権利抑圧で未来築けぬ社説2023年5月12日 5時00分.国連主催アフガン会議にタリバン初参加 アフガン人女性招かず批判毎日新聞7/2(火)5:30.女性は社会から締め出された…人権抑圧の現実を見て タリバン政権復帰から2年半 アフガン出身女性の訴え2024年3月6日 06時00分 等タリバンの生物学的女性に対する人権侵害に関する記事PDF魚拓



 アフガニスタンを統治するイスラム主義勢力タリバンが、女性への抑圧を強めている。それも女性の役割を社会から抹殺するかのような対応で、到底、容認できない。

 タリバンは2年前の8月に権力を握った際には、イスラム法の範囲内で女性の人権を尊重すると約束した。ところが、この半年ほどの間に相次いで強硬な政策を打ち出した。女子の中高生には通学再開を認めず、大学教育も停止した。NGOや国連機関に女性職員が出勤することも禁じた。

 アフガニスタンでは、過去20年で新たに300万人の女性が教育を受ける機会を得た、とされる。実を結びつつあった女性たちの希望が打ち砕かれるさまに、イスラム諸国でつくるイスラム協力機構(OIC)からも懸念が表明された。

 国連安保理は先月、女性への抑圧的な政策の撤回を求める決議を、中ロを含む全会一致で採択した。いまだにタリバンを正統な政権と認める国が存在しないなか、決議にどう実効性を持たせていくかが問われよう。

 タリバンは、家父長制的な価値観が根強い地方を中心に支えられている。代わって統治できる勢力も見当たらないのが現実だ。制裁にだけ頼り、対話の扉を閉ざしては、アフガニスタンの人々を苦境から救い出すことはできない。

 頑迷にみえるタリバンにも穏健派はいるとされる。人口の半分を占める女性から教育を受ける権利や就労機会を奪えば、国づくりはおぼつかない。こうした理を説いて変化を促す努力が求められる。

 気にかかるのが中国の動きである。今月、秦剛外相が訪問先のパキスタンでタリバンの「外相」と会談した。中国は昨年3月、当時の王毅外相がカブールを訪問するなど、いち早くタリバンとの関係構築に動いてきた。銅やリチウム、油田などの開発にも投資している。

 中国はタリバンを正式な政府とは認めておらず、4月に発表した文書では女性の権利も尊重するよう求めている。であれば国際社会の懸念をしっかり伝えるべきだ。経済的な利得を優先し、なし崩し的に政権承認につなげるようでは困る。

 日本は主要7カ国(G7)唯一のアジアの国であり、来週には議長国として広島でサミットを開く。OIC加盟国で世界最大のイスラム人口を持つインドネシア、3月にアフガニスタン周辺国との会議を開催したインドの首脳も招待している。

 こうした国々と連携し、世界はアフガニスタンの女性たちを忘れてはいないとのメッセージを打ち出してほしい。

(社説)タリバンと女性 権利抑圧で未来築けぬ

社説

2023年5月12日 5時00分



アフガニスタン情勢について欧米など20カ国以上の政府代表が協議する国連主催の会議が、6月30日〜7月1日、中東カタールの首都ドーハで開かれた。アフガンの実権を握るイスラム主義組織タリバンの暫定政権が初めて参加し、経済制裁の解除を求めた。

 タリバンが復権した2021年8月以降、アフガンでは女性に対する学校教育が制限されている。今回の会議にアフガン人女性は招待されず、人権活動家らから批判の声が上がった。

 「アフガンの経済的な障害に対する解決策は、(欧米などが)制裁を解除し、政府とアフガン国民が国の経済再生のために制限なく能力を発揮できるようにすることだ」。タリバン暫定政権のムジャヒド報道官は6月30日の会議冒頭でこう訴えた。「欧米諸国とも建設的な関わりを持ちたい」とした上で「我々が守る宗教や文化的価値観」は認められなければならないと主張した。

 国連が主催する同様の会議は3回目となる。今年2月の第2回会議では、タリバン暫定政権の外務省は「イスラム首長国(タリバン)がアフガンの唯一の正式な代表」として参加することなどを求める声明を発表し、開催直前に参加を拒否した。タリバンとは無関係のアフガン人も会議に招待されたことなどに反発したとみられる。

 今回の会議では、アフガンの経済的な課題や麻薬対策が協議された。国連のディカーロ事務次長は会議後の記者会見で「国際社会と(タリバン)暫定政権が詳しく議論する機会を得られたのは初めてだった。協議は率直で有益だった」と述べた。一方で「女性と少女に対する深刻な規制」に対して各国が深い懸念を示したと明かし、7月2日に女性を含むアフガン人市民と話し合う機会を設けるとした。

 タリバンの復権から間もなく3年となるが、タリバン暫定政権を正式に承認した国はいまだにない。

 隣国パキスタンのマンスール・アフマド・カーン元駐アフガン大使は毎日新聞の取材に対して、タリバン以外の勢力も参加する包括的な政権の樹立や女性に対する教育の保障などを求める国際社会と、タリバンとの隔たりは大きいと指摘する。ただ、タリバンの会議初参加については「大きな進展だ」と評価。アフガンを長く孤立させるのは国際社会にとって好ましくないと訴え、「タリバンが世界とつながる姿勢を見せているのは重要だ」と述べた。

 一方、女性教育の重要性を訴えてきたパキスタン出身のノーベル平和賞受賞者、マララ・ユスフザイさんはX(ツイッター)で、今回の会議について「少女や女性の人権は最優先事項ではないとする誤ったメッセージを伝えてしまう」と批判した。

 タリバンはイスラム法の範囲内で女性の権利を尊重するとしているが、アフガンでは女性は小学校までの学校教育しか受けられない状況が続いている。【ニューデリー川上珠実】

国連主催アフガン会議にタリバン初参加 アフガン人女性招かず批判

毎日新聞7/2(火)5:30



【ニューヨーク=平田雄介、シンガポール=森浩】アフガニスタンでイスラム原理主義勢力タリバンが20年ぶりに政権を掌握し、女性が再び抑圧される懸念が高まっている。かつてのタリバン支配の時代には女性の就学や就労が禁じられ、違反すれば見せしめとして人前でむち打ちや石打ちの刑に処せられた。タリバンは「イスラム法の枠内で女性も学び働ける」と強調するが、国連や米欧諸国は「行動が伴うか注視する必要がある」と懐疑的だ。

「タリバンの言葉が確実に履行されるか見極めるには時間が必要だ」。18日、アフガンから国連の記者会見にオンラインで出席した国連児童基金(UNICEF)担当者はこう話し、南部カンダハルや西部ヘラートではこれまでのところ女子児童や生徒の通学を確認できていると説明した。

一方で、AP通信は13日に北部タハルの教師の話として「男性の付き添いなしでは市場に買い物にいけなくなっている」と報道。ロイター通信も同日、7月初旬の話としてカンダハルの銀行で働く女性9人をタリバンの兵士が自宅まで送り届け、親戚の男性が代わりに働くので女性たちは職場に戻らないようにと伝えたと報じた。

これらは1996~2001年のタリバン統治時代への「後戻り」の予兆だと警戒されている。

当時、女性はイスラム法の厳格な解釈によって就労できず、外出するときには男性の親族が付きそうことが義務づけられていた。少女は就学を許されず、女性は全身を覆うブルカを着なければいけなかった。

01年9月の米中枢同時テロ後、首謀者の国際テロ組織アルカーイダ指導者、ウサマ・ビンラーディン容疑者の引き渡しをタリバン政権が拒んだことから米英はアフガンに進攻。同年12月、タリバン政権は崩壊し、国連の仲介で暫定政権が発足した。04年にイスラム教と民主主義を両立させる新憲法を採択し、大統領選を実施。親米政権の下でアフガンの女性は就学・就労の機会を得て、大学に通い、政府や企業で働き、国会議員も誕生した。

アフガン女性抑圧の懸念高まる 国連や米欧、タリバンに懐疑の目

2021/8/19 16:36



イスラム主義勢力タリバンが統治するアフガニスタンの情勢について話し合う国連の会議が、中東のカタールで始まります。しかし、初めて会議に招かれたタリバンが直前になって出席を見送る方針を明らかにし、女性の抑圧などを懸念する国際社会との立場の隔たりが浮き彫りになった形です。

アフガニスタンの人権状況の改善などを目指しカタールの首都ドーハで、18日から2日間にわたって行われる会議には国連のグテーレス事務総長や、欧米や日本など各国の担当者も参加する予定で、タリバンの暫定政権の代表も初めて招かれていました。

しかし、開催の前日になってタリバンの傘下の外務省が出席に難色を示す声明を発表し、その後、タリバンの幹部がNHKの取材に対し「出席の可能性はない」と明らかにしました。

今回の会議では女性の人権状況などの改善を求める国際社会と、これを「内政干渉だ」として反発するタリバンとの間で本格的な議論が始まるのか注目されていましたが、双方の隔たりが浮き彫りになった形です。

アフガニスタンでは、独自に解釈したイスラム法に基づく統治を行うタリバンのもと、女性は小学校までしか学校に通うことが出来なくなるなど、女性の抑圧が深刻で、状況の早期の改善が求められています。

タリバン側は今回の会議に女性グループなどアフガニスタンの市民も招かれたことや、アフガニスタン担当の国連特使の任命が検討されていることに反発しているとみられます。

会議は19日から本格的な議論が行われるとみられますが、実権を握るタリバンが出席を見送るなかで、国際社会がアフガニスタン情勢の改善にどう関与できるのかが焦点になります。

女性教育の制限で 精神不安定な子どもも

アフガニスタンでは2021年のタリバン復権後、女性の教育の制限が徐々に強まり、現在は、女性は小学校しか通えない状況が続いていて、精神的に追い詰められる子どもたちが相次いでいます。

タリバンが復権したときに小学校6年生だった、首都カブールに住むザハラさん(15)は、中学生になりましたが、もう2年間も学校に通えていません。

家で過ごす日々が続く中で、急に涙が流れたり、独り言がとまらなくなったりと、精神的に不安定になったといいます。

病院に通い治療を受け、料理や掃除などの家事をして気を紛らわせるようにしていて、最近では症状はほとんど出ることは無くなりましたが、今も時折、涙が流れることがあると言います。

2年間 同じ教科書を読み直して

ザハラさんは、「学ぶことが出来る場所がどこにもなくて、とてもつらいです。これまで2年間、退屈な日々を過ごしてきました。夢は医者になることですが、どうやって実現したらよいか分かりません」と話していました。

そんなザハラさんの1番の楽しみは、学校で使っていた教科書を読み返すことです。

学校に通えなくなってから2年間、同じ教科書を読み直しては、友達と学校に通っていた日々のことを思い返しています。

ザハラさんは「年齢が大きくなり、学校に行けないまま学ぶ機会が失われています。タリバンが学校を再開してくれるのか分からず、心配です」としたうえで、「国際社会には私たちが学校に通えるようにタリバンに働きかけを行ってほしいです」と話していました。

専門家「女性教育 いかに発展に必要か伝えるのが重要」

ドーハの国連の会議に、タリバンが招待されていたことについて、アフガニスタン情勢に詳しい中東調査会の青木健太研究主幹はこれまでの国際社会のタリバンへの働きかけは結果を出せていないとしたうえで、「女性の権利の保障を求める諸外国と、イスラム法にのっとって伝統に沿った国づくりをすると主張するタリバンの間で、議論が平行線をたどるおそれがある」と述べ、今後、国際社会との議論が本格化してもタリバン側の姿勢を変えるのは容易ではないとしています。

一方で、中国がタリバン暫定政権の派遣した大使を受け入れたことなどから、「人権の順守を要求する欧米よりも、つきあいやすい国々と関係を強化するのは自然の流れではないか」と述べ、タリバン側が国際社会からの承認を得ようと急いでいるという予断を持たないことが重要だと指摘しました。

そのうえで、「価値観を押しつけるのではなく、女性の教育がいかにアフガニスタンの発展にとって必要かを伝えるのが重要だ。タリバンの権力は外国の要人とほとんど接触が無い最高指導者に集中し、声が届かないという構造的な問題もあるが、しっかりタリバンの中枢に声を届けないと変化は生まれない」と述べ、粘り強い働きかけが必要だという考えを示しました。

タリバン 国連会議欠席へ 女性抑圧を懸念する国際社会と隔たり

2024年2月18日 20時20分



アフガニスタンで実権を握るイスラム主義勢力タリバンが女性への抑圧を強める中、UNDP=国連開発計画のアジア太平洋地域の責任者がNHKの取材に応じ、女性の就労の権利などが制限されている現状に懸念を示したうえで、国際社会はタリバンとの対話を試みながら、女性たちへの支援を模索していくことが重要だと、訴えました。

日本を訪れているUNDPのカンニ・ウィグナラジャ アジア太平洋局長は6日、都内でNHKのインタビューに応じました。

アフガニスタンではおととし実権を握ったタリバンの暫定政権が、イスラム法の独自の解釈に基づいた統治を行い、女性の教育や就労などの権利を制限しています。

ウィグナラジャ局長は「特に若い女性たちが将来への希望を失い、自尊心を奪われている」とし、女性の精神状態が悪化していることや、厳しい経済状況を受けて児童婚が増えている現状に強い懸念を示しました。

そのうえで国際社会がタリバンの暫定政権を承認していない中、日本など各国はタリバンとの交渉を試みながら女性たちがみずから収入を得られるよう、直接支援する方法を模索していくことが重要だと、強調しました。

またことしのノーベル平和賞に、イランで女性の権利の擁護を訴え刑務所で服役している活動家のモハンマディ氏が選ばれたことについて、「アフガニスタンの女性や女の子たちにも、世界は自分たちを見捨てていないという希望を抱かせた」と、歓迎しました。

そして「もし一国の文化が人々の尊厳を傷つけ、破壊するようなものであればその文化は変わる必要がある」とも述べ、タリバンが女性に対する政策を改めるよう、国際社会が働きかけを続けるべきだと強調しました。

UNDP局長 アフガニスタン 女性の就労権利など制限の現状に懸念

2023年11月6日 15時55分



アフガニスタンで2021年8月にイスラム主義勢力「タリバン」が再び政権を握り、2年半がたった。タリバン政権はイスラム法の独自解釈で社会参加を制限するなど、女性への抑圧を強めている。日本に退避した女性(43)は8日の国際女性デーを前に「母国の現状に関心を寄せて」と訴えた。(渡辺真由子)

 タリバン イスラム原理主義の神学生らで1994年に結成した武装集団。96年にアフガニスタンで政権を樹立したが、2001年の米中枢同時テロで国際テロ組織アルカイダ指導者ビンラディン容疑者の引き渡しを拒み、米英軍の攻撃で政権崩壊。駐留米軍撤退完了を前にした21年8月15日に再び政権を掌握した。独自のイスラム法解釈で女性の社会活動や服装を制限している。

◆髪を隠さないだけで拘束 社会活動すれば暴力

取材に応じるアフガニスタン人女性

 「この2年半で、女性は社会から隔離された」。2月下旬、東京都内でオンライン取材に応じた女性が故郷の現実を語る。

 タリバンは21年の復権後、10歳以上の女子が教育機関に通うことを禁止。公園への出入りを禁じたり美容院を閉鎖したりと、段階的に社会から女性を締め出した。髪を隠すヒジャブやブルカを身に着けなければ、外出すら認められない。今年1月には髪を布で覆わず、服装規定に違反したとして、複数の女性が当局に拘束された。

 2001年に旧タリバン政権が崩壊すると、日本を含めた国際社会の支援もあり、教育を受けて社会に進出する女性が増えた。20年ごろには医師やエンジニア、国際機関職員などで活躍する女性もいたといい、この女性も人権啓発などに取り組む団体で働いた。

 タリバン復権で脳裏によみがえったのは、旧タリバンが首都制圧した1996年当時、社会で活動している女性が路上で暴力を受ける光景だった。「自分も同じ目に遭うのでは」。女性はすぐに支援団体のつてを頼り、日本へ退避した。

◆「今の状況が正しいと考えるようになってしまうのでは」

 現在は都内で働き、日本人の友人からもらった教科書などで日本語を学ぶ。「自由な暮らしに慣れてきた」と頬を緩める。一方で「今の状況がイスラムの規則であり、正しい価値観だとアフガンの男性が考えるようになってしまうのではないか」と懸念する。「日本の社会はまだまだ外国人と無縁で、関心がないようにも感じる。意見を交換し、交流することが互いの国の役に立つ」ともどかしさをにじませた。

アフガニスタンでコーランの勉強をする女子たち=シャンティ国際ボランティア会提供

 国際労働機関(ILO)が23年にまとめた調査で、アフガンの女性の就業者数はタリバン復権前に比べ25%減少した。復権後、国際社会から国家として承認されないアフガンでは国際的な支援も滞り、人口の約8割が食糧や医療の緊急支援を必要としている。だが、女性が働けず担い手が足りないため、支援が届かない問題も生じている。

 現地で教育支援などに取り組むシャンティ国際ボランティア会(東京都新宿区)の山本英里(えり)事務局長は「旧タリバン政権崩壊後、20年積み上げてきたものを途切れさせてはいけない。国際社会が粘り強く、タリバン政権と向き合って交渉する必要がある」と訴える。

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女性は社会から締め出された…人権抑圧の現実を見て タリバン政権復帰から2年半 アフガン出身女性の訴え

2024年3月6日 06時00分



イスラム主義組織タリバンによる再支配開始から、8月で2年になるアフガニスタン。厳格な家父長制を背景に、女性に対する抑圧が強まる中、民主主義と女性の人権保障を目指すNGO「RAWA(アフガニスタン女性革命協会)」は今も活動を続けている。RAWAを支援してきた日本の市民団体が今年3月、8年ぶりに現地を訪問。見えたこととは。(大杉はるか)



今年3月、RAWAが運営するアフガンの『隠れ学校』で学ぶ少女たち(RAWAと連帯する会提供、一部画像処理)

◆「隠れ学校」で夢を語る少女

 2004年設立の市民団体「RAWAと連帯する会」は、パキスタンのアフガン難民学校やアフガンでの小学校建設・運営に資金援助をしてきた。同会の4人は3月中旬、RAWAや連携する他のNGOメンバーらと再会し、5月下旬に東京都内で報告会を開いた。

 同会共同代表の清末愛砂さん(室蘭工業大大学院教授)によれば、RAWAのメンバーは「この1年半がもっとも厳しい時だった」と話したという。

 21年8月、タリバンは首都カブールを制圧し、約20年ぶりに復権。外国人だけでなく、大使館やNGOなどで働くアフガン人の中からも身の危険を恐れて国外退避する者が続出した。タリバン暫定政権は女性閣僚ゼロで、中学生以上の女子生徒は夏休みが明けても、通学が再開されず、女性は大学や職場からも締め出されるようになった。

 RAWAは45年にわたり、女性の自由と権利を求めながら教育や就労、食糧支援などをしている団体で、タリバンからも敵対視されている。抗議デモに参加すれば、銃床で殴られたり、拘束されたりするため、RAWAのメンバーは「(仲間を知られないようにするため)携帯のデータはすべて消去して参加している」などと語ったという。

 清末さんは「組織としては国外退避を選ばず、『大変な今だからこそ、戦う時』と。ただ多くの知識人や技術者が国外に出てしまったため、『この国をどう支えていけばいいのか』と憂えていた」と報告した。

 同会は、RAWAが運営する女性のための学校なども訪問。同校は、弾圧を逃れるために親族の集まりを装い、教師が大人や子どもたちに、識字や英語、自由と権利などを教えている。清末さんは、「隠れ学校」で学ぶ少女たちが「将来は医師になりたい」と話したことを紹介。「女性でも就労可能な医療関係でスキルを得ないと将来働くことができないという意味があるのだろう」

◆「圧倒的に増えた」全身を覆う黒衣装

 同会事務局長で元教師の桐生佳子さんはNGO「HAWCA(アフガニスタンの女性と子どものための人道支援)」の裁縫教室の様子などを説明。アフガンでは、女性へのDV(家庭内暴力)が深刻で、婚姻外の関係を持ったと疑われると実家の名誉を守る名目で殺害される「名誉殺人」もある。同NGOはシェルターを運営しているが、タリバン再支配で、支援規模の縮小に追い込まれていると話したという。

 昨年5月にタリバンが出した「女性は公共の場で、目の部分以外は布で覆うように」という命令によって、黒い「アバヤ」という全身を覆う衣装を着る女性が「圧倒的に増えた」という街の変化も報告された。

 清末さんは「アフガンでは家父長的な社会規範が強く、女性に対する暴力はタリバン再支配以前からあった。さらに学校に行けなくなったことで、女子の家事労働負担が重くなり、児童婚も増える」と話す。

 米国によるアフガン侵攻とその後の20年にわたる復興支援については「アフガンに何をもたらしたのか。女性は本当に自由になったのか」とし、過酷な人道危機を引き起こしている経済制裁などを続ける欧米各国の姿勢を疑問視。「タリバン内の強硬派を勢いづけた。対等な目線で交渉するしかないのでは」と語った。

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タリバン復権のアフガニスタン 自由を縛られた女性たち 現地訪問で見えた今の厳しい実態は?

2023年6月11日 12時00分



 新型コロナウイルス禍や気候変動、紛争などによって、発展途上国を中心に女性や女児がより困難な立場に追い込まれている。教育を受ける機会を奪われた女性は、生涯にわたって収入が低くなり、過酷な状況から抜け出せなくなる恐れがある。こうした悪循環を断つため、非政府組織(NGO)などが女性の教育支援に尽力している。(山中正義、安藤美由紀)

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8月、ガフワラが運営する「秘密の学校」で学ぶアフガンの女子生徒たち(ザビーフ・マハディさん提供)

 社会や家庭で弱い立場にいる女性たちは、貧困や食料不足などの影響を受けやすい。女児が男児より軽視されるような価値観が残る国も多く、人身取引まがいの児童婚や強制労働の増加が懸念されている。

 こうした中、途上国の女性を支援する団体は、教育機会の確保を重視。昨年8月にイスラム主義組織タリバンが復権したアフガニスタンでは、現地NGO「ガフワラ」が日本の中高生にあたる女性を対象にした「シークレット・スクール(秘密の学校)」を始めた。タリバンが女性の権利を抑圧し、女子中等教育ができなくなっているためだ。ガフワラ代表のザビーフ・マハディさん(33)はオンライン取材に「教育こそが未来を変える」と訴える。

 国際NGO「プラン・インターナショナル」(本部・ロンドン)の日本事務局理事長、池上清子(きよこ)さんは「女性が社会に出て自立している国は、経済発展や開発が進んでいる国が多い」と指摘。教育支援は日本の得意分野であるとして「できることはまだまだあります」と話した。

  ◇

 イスラム主義勢力タリバンが昨年8月に政権を奪還したアフガニスタンでは、女子中等教育への制限が続く。現地の非政府組織(NGO)「ガフワラ」は昨秋、教育の機会を確保するため「シークレット・スクール(秘密の学校)」を始めた。代表のザビーフ・マハディさん(33)らは、タリバンに見つかる危険を覚悟の上で、学校を懸命に運営している。(山中正義)

オンライン取材でアフガンの実情を語るザビーフ・マハディさん

◆「裁縫教室」に偽装した民家で

 アフガン国内に2カ所ある学校は、机や椅子のない一般住宅の部屋を教室に使い、対面とオンラインの授業を無料で提供する。日本の中高校生に相当する女子生徒約30人が物理や化学、歴史などを学ぶ。

 マハディさんによると、学校は電子メールで脅迫を受けたこともあり、そのたびに休校や教室の場所を変えてきた。生徒らは通学時、タリバン兵に行き先を尋ねられた際には「裁縫教室に行く」と答えて逃れているという。実際に「裁縫教室」と記した看板を掲げていたが、何者かに壊されてしまった。

◆「脅迫に負けない」学びへの思い

 「ガフワラ」はアフガンの公用語の一つダリー語で「ゆりかご」の意味だ。以前は幼稚園や学校などに絵本を寄贈し、子どもたちへの読み聞かせの活動などをしていた。しかし、タリバン復権後は安全への配慮から大半の活動を中断。こうした状況を打開するため、昨年10月ごろに始めたのが「秘密の学校」だった。

 「私たちの将来や社会、人々のためにも、子どもたちは学び、私たちは教育しないといけない」。教師の女性は決意を話してくれた。女子中等教育が認められない現状は「受け入れられない。誰もが教育を受ける基本的な権利があるはずです」と訴えた。

 生徒たちも取材に「脅迫に負けずに勉強を続ける」「勉強すれば自分たちの将来のためになる。医者や教師にもなれる」と口々に思いを語った。

◆「未来を変える唯一の方法」

 タリバンは政権奪取後、教育など女性の権利について「イスラムの枠組みで保障する」と宣言し、女性を抑圧していた前回のタリバン政権(1996〜2001年)とは異なる政策をとる姿勢を示した。現在、大学は男女別での教育が認められ、小学校には男女とも通学できる。

 復権直後に中断した女子中等教育についても今年3月に通学再開が予定されていた。だが、政権側は通学環境が整っていないなどとして、当日になって急きょ再開延期を発表。9月には独自に再開していた東部パクティア州の学校は閉鎖された。政権内には女子教育に対する意見の相違があるとみられるが、再開の見通しは立たない。

 マハディさんは「できることを続ける。教育こそ未来を変える唯一の方法だと信じている」と話す。アフガンへの国際的な関心が薄れているとして、「再びテロや過激主義の温床になってからでは遅すぎる。アフガンは『時限爆弾』のように、いつ爆発するか分からない」と憂慮する。

 教育を含む女性の権利抑圧は、国際社会によるタリバン政権承認への障害の一つ。国連アフガニスタン支援団(UNAMA)は9月、声明で「少女やアフガンの未来にとって大きな損害だ」と非難した。

 タリバン イスラム原理主義の神学生らが1994年にアフガニスタン南部で結成した組織で、96年に政権を樹立した。2001年の米中枢同時テロ後、国際テロ組織アルカイダの指導者ビンラディン容疑者の引き渡しを拒み、米軍などの攻撃を受けて政権は崩壊。その後も武装闘争を続け、駐留米軍撤退を前にした昨年8月15日、政権を再び掌握した。国際社会は政権を承認していない。

アフガニスタン「秘密の学校」タリバンの脅迫にも屈しない…抑圧される女性を教育で支援する現場の苦闘

2022年10月2日 06時00分



【ニューヨーク=杉藤貴浩】女子教育の重要性を訴え、母国パキスタンでイスラム武装勢力に銃撃されたノーベル平和賞受賞者マララ・ユスフザイさんが19日、米ニューヨークで開かれた国連教育サミットで演説した。マララさんは「安全で持続可能な未来を作りたいのなら、教育へ真剣に取り組んでほしい」と各国に訴えた。

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 国連は持続可能な開発目標(SDGs)の一環として、2030年までに質の高い教育の普及やジェンダー平等を達成することを掲げているが、アフガニスタンで女性の権利に抑圧的なイスラム主義組織タリバンが復権するなど、男女同権に向けた国際情勢は停滞している。

 マララさんは「(ロシアが侵攻した)ウクライナなどの国々では、紛争や暴力が少女たちを教室から遠ざけている」と指摘。無償の女子教育の普及は「すべての国や社会、企業に利益をもたらす」と訴え、先進国の資金援助の拡大などを求めた。教育内容から性差による偏見をなくす必要性も強調した。

 教育サミットは国連総会に合わせて開催。総会は20~26日に各国首脳の一般討論演説を行い、ウクライナ情勢や食料危機などを議論する。岸田文雄首相は20日午後(日本時間21日午前)に演説する。

マララさん「紛争や暴力が…」国連で各国に訴え 「安全で持続可能な未来のため教育を」

2022年9月20日 11時31分