「性同一性障害特例法」改正を控えて ―透明化される生物学・構築された性と観念的な身体の問題シバエリシバエリ2024年6月16日 18:13PDF魚拓



フェミニズムは国家による「女性の身体の管理」に異議申し立てをしてきた歴史があります。
ですが、トランス男性のペニスの長さが厳密に測られず、ホルモン治療によって肥大したクリトリスが男性器の「外観に近似」とみなされることを「男性の特権」の延長線上にあるものと捉えることと「女性の身体の管理」への異議申し立てには乖離があるのではないでしょうか。
トランス女性における「外観要件」を違憲とみなしたいがために、男性器を切除し女性器の外観に形成する手術に比べペニスを形成する手術が現時点で技術的に難しく、勃起して性交する機能面が十分でないことや手術が定着する確率も高くないという現実の医療の課題を矮小化し、フェミニズムが議論してきた問題に無理やり紐づけているようにも見えます。

他にも論理が破綻している主張は多々ありますが、とりわけフェミニズムが一枚岩ではないことを雑に扱っていると感じる部分に以下があります。
女性用スペースやフェミニズム(女性運動)の話題で「トランス女性の扱いをどうするか、シス女性が困っている」という情報を目にしたことのある人もいるかもしれませんが、実際は多くのデータで、女性の方が男性よりもトランスに親和的です。つまりトランスの表象に大きな影響与えている根っこの問題は、一部の男性に権力が偏っているという、シスジェンダー側の権力匂配の問題といえます。まず解消されるべきは、メディア内部でのセクシズム(性差別)やトランスフォビアなのです。
『トランスジェンダー入門』P112
ここに至っては、論理が飛躍しており暴論です。
「トランス女性の扱いをどうするか、シス女性が困っている」という事態と「多くのデータで、女性の方が男性よりもトランスに親和的」であることは両立します。「男性と付き合う女性が多いこと」と「男性からのDVを訴える女性が存在する」ことが両立するのと同じです。
さらに言えば、トラブルは無関係の他者よりある程度親和的な他者との間に多く発生します。

一部の男性に権力が偏っているからといって、トランスの権利を擁護する人たちがTERF(ジェンダークリティカル)的な視点からの訴えを透明化することが正当化されるわけではないのです。

〈5〉トイレ風呂は些末な問題?イギリス、歌舞伎町、LGBT法連合会

公衆トイレや公衆浴場の問題は、本当に瑣末な問題なのでしょうか?

トイレに男女別の区分を設けずオールジェンダートイレに一元化することを推奨してきたイギリスでは、2022年7月に「新しく建設する公的建造物は男女別のトイレを設けることを義務付ける」と政府が発表。2024年5月には、「今後、イングランドでレストラン、ショッピング・センター、オフィス、公衆トイレなどを新規に建築する際は、男女別のトイレ設置を義務化する」という新たな法案が女性・平等担当相によって発表されました。
http://www.newsdigest.de/news/news/uk-media/25316-gender-neutral-toilet.html
現在のイギリス政府は、生理や妊娠中の尿漏れなど女性特有のニーズを把握し、女性専用トイレの確保を重要視しているようです。オールジェンダートイレの使用時、57パーセントの女性が「居心地が悪い」と答えている調査もあるようです。

日本でも、新宿「東急歌舞伎町タワー」の「ジェンダーレストイレ」は開業直後から「安心して使えない」「性犯罪の温床になる」などと抗議が殺到し、わずか4カ月で改修されました

オールジェンダートイレすらイギリスの約6割の女性を取り残しているのですから、日本で公衆浴場の問題を楽観視できない人がいることは不自然なことではありません。

実際、最高裁の「生殖不能要件」違憲判決が出た後の2023年11月には、三重県桑名市の温泉施設で、女湯に侵入したとして逮捕された男が、「心は女なのに、なぜ入ったらいけないのか全く理解できません」と話した事件が起きました。
https://www.tokai-tv.com/tokainews/feature/article_20240130_32493
この施設は受付で更衣室のロッカーのカギを渡す形式であり、従業員の女性は「女性の格好をしていた」ため「女性」と判断し女湯のカギを渡したそうです。
厚生労働省は2023年6月、公衆浴場などの男女の区別については「身体的特徴で判断するもの」とする通知を出していますが、差別になる懸念から受付で身体の性別を確認することは難しいという問題があります。

LGBT法連合会は、「生殖不能要件」を違憲とした最高裁の判決に際し、「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律の3条1項4号規定を憲法違反と判断する最高裁判所の決定について」という声明をリリースしました。

この声明では、LGBT法連合会が確認した範囲においては「生殖不能要件を排した国において、手術を要する外観要件のみを温存している国は見られ」なかったと記載されていますが、生殖不能要件と外観要件がともに撤廃されている欧米の多くの国と日本における入浴文化の差異には触れられていません

厚生労働書の衛生行政報告例 平成15年度版によれば、日本全国の公衆浴場の数は26,831件あり、うち公営は5,234件です。
アメリカやヨーロッパにも温泉やスパ施設はありますが水着着用が一般であり、他人の前で裸になり大勢で湯船につかる入浴文化が広く浸透しているわけではないのです。

〈6〉約900本の法を改正する必要がある

自民党の有志議員でつくる「全ての女性の安心・安全と女子スポーツの公平性等を守る議員連盟」によれば、性同一性障害特例法が戸籍上の性別を変更する上で規定する「手術要件」が撤廃された場合、法改正の検討が必要となる法律は900本近くにのぼるといいます。
https://www.sankei.com/article/20240227-GLLGWSDEGFAKNKYZ54ACBZQNRE/
「外観要件」が違憲とされ、手術要件そのものが撤廃された場合は、法律だけでなく、共同浴場の利用は原則男女別に分けるとした厚生労働省の「旅館業における衛生等管理要綱」 等の改正検討も必要となるといいます。

また、性同一性障害の診断がより難しくなり、性別を変更できる人の定義が再度必要となるという指摘もあります。
現実には、15分で「性同一性障害」の診断書が降りるクリニックもあるのです。現行の法に即し、ジェンダークリニックがない/あっても利用しづらい地方の当事者含めて、少しでも早く望んだ形で生きられるように、安全な形でホルモンや手術にアクセスしたり、改名ができるようにすることを目的としたものでしょうが、手術要件がすべて違憲とされれば、こうしたイレギュラーな運用も難しくなるでしょう。

「性同一性障害特例法」に関する最高裁の判決において、生殖不能要件に関しては15人の裁判官全員が違憲を判断しましたが、外観要件に関しては3人しか違憲と判断しなかった。
「外観要件」に関しては、現時点で12人の裁判官が違憲であるとしていないという事実は重要です。

〈7〉レズビアンバーやエステ、リラクゼーション施設などトイレや風呂以外への影響

「外観要件」が違憲とされれば、トイレや風呂以外の「女性専用施設」においても何らかの影響があるでしょう。

「生殖不能要件」が違憲とされる以前から、レズビアンバーのWomen Only イベントがトランス活動家らから「差別である」と指摘されることがありました。
文面だけ見ると差別のようにも見えますが、公的事業ではなく、営利目的で経営されるレズビアンバーが「シスジェンダーの女性」限定のイベントを行うことが差別とされてしまうなら、「ノンケお断り」のゲイバーをはじめ、お店側がある程度客を選ぶことそのものが不可能になってしまいます。

エステやリラクゼーション施設では、裸や裸に近い格好での施術が行われることも少なくありませんが、女湯と同様、差別になる懸念から受付で身体の性別を確認することが難しい問題があります。
営利目的の施設、「商売」である以上、「差別だ」とターゲットにされたら弱く、デマであっても「差別的な施設」という評判が出回る影響は大きいのです。

トランスジェンダーを含むセクシャルマイノリティが相対的に弱い立場に置かれていることに異論はありませんが、だからといって、トランスジェンダーの受け入れに戸惑う営利目的の施設やその経営者、そこで働くスタッフたちが「強者」であるとはかぎりません

レズビアンバーや女性専用のエステやリラクゼーション施設のほとんどは公共事業ではなく、私企業の経営で、強い立場にない者に負荷がかかる、弱い立場の者がツケを支払わさせられることは、個人的には「リベラル」で「先進的」で「多様性に配慮」した姿ではないと思います

誰のための「性同一性障害特例法」なのか?なんのための改正なのか?

新たな「標準化」への懸念

「性同一性障害特例法」の手術要件が「外観要件」を含めて撤廃された場合、主に恩恵を受けるのは、GID性が強くないトランスジェンダーの人たちです。
個人的には、手術したくない人の権利が尊重されることと引き換えに、これまで通り手術をしたい人の権利が「わざわざ手術をするなんて」「手術しなくても良いのだから手術をすべきではない」と非標準化されてはならないと考えています。

法には規範としての側面や「標準化」されるという側面があるため、「手術しないトランスジェンダー」がスタンダードになることで、現時点でもアクセスが悪いホルモン療法や手術へのアクセスが、さらに困難になることは本末転倒だとすら思います。

「性自認」だけで社会を運用できるのか?

今後、ノンバイナリーのトランスジェンダーに戸籍変更は必要か?などさらなる議論が出てくると思いますが、個人的にはアンブレラタームの「トランスジェンダー」で法を設計することは無理だと感じています。

改めて、「性自認」と「パス」「埋没」の問題

「パス」は自己と他者の相互作用で起こるため、トランスジェンダーが社会の中で生きる以上、「自認」の性だけで生きることは原理的に不可能であるということは、改めて周知される必要があると感じました。

「パス」をして社会に適応し、埋没して穏便に暮らしたいGID的なトランスジェンダーと、アイデンティティ・ポリティクスとして社会を啓蒙したり運動したいトランスジェンダーでは、求めているものが異なることが多いことは非当事者ほど知る必要があるでしょう。

透明化される生物学、ジェンダー構築主義者の観念的な性と実際の身体の問題

生物学を透明化し、「トランスジェンダーはアイデンティティである」というのであれば、現代におけるポスト・トゥルースの問題との接点も考えなければならないでしょう。

私個人としては、ジェンダー構築主義者の観念的な性の問題が肥大し、実際の身体の問題が矮小化されれば、法や制度、現実的な社会運用の次元で破綻が起きると考えています。

マイノリティが現実的に社会を生きる上で、マジョリティに負荷をかけすぎることは得策なのでしょうか。
57パーセントの女性が「居心地が悪い」と感じていたイギリスのオールジェンダートイレような施策は、マイノリティにとってもマジョリティにとっても不幸なものだと思います。
また、マイノリティが数字の上でマイノリティであるかぎり、トラブルが起きたとき憎まれたり、しっぺ返しを食らう可能性を加味した現実的な皮算用は大切だと考えています。





最後まで読んでくださりどうもありがとうございます。
頂いたサポートは、参考文献や資料購入にあてたいと思います。

『トランスジェンダーになりたい少女たち』も、『トランスジェンダー入門』『トランスジェンダーと性別変更 これまでとこれから』も「かわいそうのゴリ押し」が過ぎて読むのがキツかったですが、「性同一性障害特例法」の改正にあたり建設的な議論ができるベースが整えばと思い頑張りました!

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「性同一性障害特例法」改正を控えて ―透明化される生物学・構築された性と観念的な身体の問題

シバエリ

2024年6月16日 18:13



公共の建物に男女別トイレの設置義務化へ
- ジェンダー・ニュートラルなトイレの懸念を払拭

今回は、トイレの話です。「え?」と思われるかもしれません。外出したときにトイレを使おうとすると、「男性」「女性」以外に「誰でも使えるトイレ」が用意されていますよね。以前は、障がい者用トイレのほかはジェンダーでは男女だけでした。選択肢の拡大の流れに、ちょっとした変化が起きているのです。

「誰でも使えるトイレ」のドアには「誰でも使える」「ユニーバサル」「ユニセックス」などの表記や、男女、子ども、車椅子などのイラストが付いています。政府は特定のジェンダーで分けない、このようなトイレを「ジェンダー・ニュートラル・トイレ」(Gender Neutral Toilet)に分類しています。生物学的な男女の分類に違和感を抱く人や性的少数者「LGBTQ+」(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クイアほか)への配慮として、こうしたトイレがレストラン、ショッピング・センター、図書館や美術館、公衆トイレ、教育機関などに設置されるようになりました。ジェンダーが「男性」あるいは「女性」という二者択一しかないと、性的少数者は行き場がなくなりますので、時代に即した動きでした。

でも、男女でトイレ施設を共有することへの違和感や不安、懸念を表明する声も出てきました。政府が約1万7000人を対象に意見公募を行ったところ、83パーセントがジェンダー・ニュートラル・トイレの存在を支持しているのですが、世論調査会社ユーガブの今年1月の調査によると、こうしたトイレを使うときに「居心地が悪い」と答えた人は48パーセントで、44パーセントの「問題ない」を少し上回っています。女性だけに聞くと、57パーセントが「居心地が悪い」と答えました。女性が生理のとき、あるいは妊娠中など男性とトイレを共有したくないという気持ちは共感できますよね。男性も女性も、性別を特定したくない人も居心地のよい公共のトイレ施設はどうあるべきなのでしょうか。



5月6日、ケミ・バデノック女性・平等担当相が新たな法案を発表しました。今後、イングランドでレストラン、ショッピング・センター、オフィス、公衆トイレなどを新規に建築する際は、男女別のトイレ設置を義務化する法律の制定を目指します。「男女両方にとってプライバシーと尊厳を否定する」ジェンダー・ニュートラルなトイレ施設の「拡大を終わらせる」と同相は下院で説明しました。法案は、特に「女性の生物学上、健康上、衛生上のニーズ」をより適切に満たすことを重要視しています。また、男女別のトイレ設置と同時に、ユニバーサル・トイレの設置も奨励されます。ユニバーサル・トイレとは、誰でも入れるトイレの一つですが、個室の中に便器と手を洗う場所が入ったスタンド・アローン型になります。ただし、ユニバーサル・トイレだけを設置するのは男女別トイレを設置する「十分なスペースが確保できない」場合のみ、です。

法案が議会を通過すれば、来年から導入の見込みですが、法案の対象には学校は含まれていません。すでにイングランドの学校では8歳以上の男児および女児に、性別のトイレの提供が義務化されているからです。



男女別トイレ設置法案の動きと同時に進行しているのが、国営の国民医療サービス(NHS)での女性専用病棟の取り扱いです。イングランドのNHSには患者、一般市民、職員の権利を規定する「NHS憲章」(NHS Constitution)が設定され、10年ごとに更新されます。現在、更新に向けての見直し中なのですが、焦点となっているのが生物上の性の重要視です。提案の一つが、性器など体の私的部分に関わるケアでは「患者と同じ生物上の性を持つ医療従事者を依頼する権利を持つこと」です。トランスジェンダーが社会的な概念として広く認識されるようになってから日が浅い今、これまでは男女別だった空間をどのように組みなおすのかについて、試行錯誤が続いています。

キーワード

Gender Neutral Toilet(ジェンダー・ニュートラル・トイレ)

性別不問の公共トイレ。さまざまな形態があるが、政府の定義では個室のほかに待機する場所および手洗い場所を男女が共有するトイレを指す。英国では2010年代以降、設置が進められてきた。1人の利用者だけが使える、独立型のトイレ施設「ユニバーサル・トイレ」は「ユニセックス・トイレ」と呼ばれることもある。

http://www.newsdigest.de/news/news/uk-media/25316-gender-neutral-toilet.html
小林恭子の
英国メディアを読み解く



小林恭子 Ginko Kobayashi 在英ジャーナリスト。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ(現ジャパン・ニュース)」の記者・編集者を経て、2002年に来英。英国を始めとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に「英国メディア史」(中央公論新社)



、共著に「日本人が知らないウィキリークス」(洋泉社)



など。


東京・新宿の高層複合施設「東急歌舞伎町タワー」で、多様性を認める街づくりの象徴として設置された性別に関わらず使用できるトイレが改修されてなくなった。4日、男女別のトイレに変わる。

 4月の開業直後から「安心して使えない」「性犯罪の温床になる」などと抗議が殺到したためで、わずか4カ月で新たな試みが失敗に終わった。

◆男女の「専用エリア」と多目的トイレに改修

改修前の性別に関わらず利用できる「ジェンダーレストイレ」。手洗い場や順番待ちする場所は共用だった=©TOKYU KABUKICHO TOWER提供

 注目されたのは飲食店が集まる2階の個室トイレ。「ジェンダーレストイレ」の名称で性別に関係なく使える個室8室のほか、女性用2室、男性用2室、多目的トイレ1室がコの字形に並ぶ設計だった。

 東急は、国連の持続可能な開発目標(SDGs)が掲げる「誰ひとり取り残さない」の実現を目指して、開業時に設置していた。

映画館や劇場、ホテルが入る東急歌舞伎町タワー=東京都新宿区で

 ところが、利用者の受け止めは違った。個室扉の前まで誰でも入れることや手洗い場が共用だったため、「化粧直しがしにくい」「男性に待ち伏せされたら怖い」といった声が交流サイト(SNS)で相次いだ。

 タワー側は開業5日後、警備員を巡回させるなどの防犯対策を発表。しかし懸念の声はやまず、7月下旬から女性専用エリアと男性専用エリア、多目的トイレに分割する間仕切り工事に着手した。ジェンダーレストイレはなくなり、女性用7室、男性用3室、多目的2室の計12室となった。

 東急の広報担当者は「さらに安心して快適にご利用いただけるトイレを目指して改修工事を実施した」と説明した。(三輪喜人)

 ジェンダーレス 主にファッション分野で、女性らしさや男性らしさをなくすという意味で使われてきた。ただ、言葉のイメージや使われ方は定まっていない。性別に関わらず利用できるトイレは「オールジェンダートイレ」と呼ばれることが多い。

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◆子どもや介護者も…「男女別トイレだけでは困る人たちがいる」

2階トイレの改修工事を知らせる案内板=東京都新宿区で(読者提供)

 東急歌舞伎町タワー(東京都新宿区)で、多様性を認める社会の実現を目指して設置された「性別に関わらず利用できるトイレ」が、批判を受けてなくなった。東急側の新たな試みの頓挫に、当事者や専門家は「もっと配慮が必要だったが、今後も設置が求められる」と指摘した。(奥野斐)

 改修前のトイレを利用したことがある都内のトランスジェンダー女性は「性の多様性に配慮した新たな形のトイレを設ける取り組み自体は良かったが、批判を受けて施設側が男女別に改修したのは残念」と話す。

 海外で「オールジェンダートイレ」と呼ばれるのが一般的だが、歌舞伎町タワーでは「ジェンダーレストイレ」と名付けた。交流サイト(SNS)では、この名称から、性別の境界を無くし、女性用トイレを減らそうとしているかのような誤解が広がった面がある。

 これが前述のトランスジェンダー女性には気掛かりだった。「必要としているのはトランスジェンダーに限らない。にもかかわらず、トイレ問題が当事者への批判に利用され、悲しい」

改修前の性別に関わらず利用できるトイレ。手洗い場や順番待ちする場所は共用だった=©TOKYU KABUKICHO TOWER提供

 誰もが使いやすいトイレのあり方を研究する金沢大の岩本健良准教授(ジェンダー学)は「多くの人が使う飲食フロアという場所や、配置などに配慮がさらに必要だった」と指摘し、「他フロアに男女別トイレがあることを案内するなど、利用者に選択肢を示すことも重要」と話す。

 障害のある子どもや高齢者の介助で異性トイレを利用しづらいなど、男女別トイレだけでは困る人たちがいる。一方、設置時に広い場所が必要となる多目的トイレは、予算面などから数が少ないのが現状だ。岩本さんは「オールジェンダートイレの設置は広い意味でバリアフリー化につながり、今後も求められる」と強調した。

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「ジェンダーレストイレ」わずか4カ月で廃止 新宿・歌舞伎町タワー 「安心して使えない」抗議殺到の末に

2023年8月3日 22時02分