日本で生まれ育った女子大生が日本の避妊法の低レベルに驚愕した話私は日本でほとんど教わっていなかった著者福田 和子プロフィール#なんでないの プロジェクト代表 SRHRActivist PDF魚拓




#なんでないの」というプロジェクトがある。

23歳の大学生、福田和子さんが始めたもので、「日本にはなんで世界と同じようなレベルの避妊法がないの」、「なんで世界のような性教育がないの」等々、実体験をもとに、日本の性についてきちんと考えよう、というプロジェクトだ。性教育ひとつとってもバッシングがおきる日本で、若い女性がなぜこの活動をはじめたのだろうか。性教育を「受けないできた」ことを実感している福田さんが、自ら世界を調査した上で率直な想いを語る新連載スタート。



福田さんの声が形になった「#なんでないの」プロジェクト。

「他の避妊法も考えてみた?」の衝撃

他の避妊法も、考えてみた?

それはスウェーデンの産婦人科での出来事だった。低用量ピルを貰いに行った私は、問診票に記入し、ピルの説明を一通り受け、もうすっかり帰る気でいた。

「他の避妊法?」

ピルを貰いにいった先で、ピル以外の方法を紹介されるなんて思っても見なかった私は思わず聞き返した。ピル以外の避妊法なんてあるのだろうか。すると私の目の前に出てきたのは、色とりどりのパンフレットだった。

「これはNUVA Ring、1度挿れると3週間取り出す必要がなくて、ピルと同じ避妊効果が得られるの。ピルを毎日飲むのはどうしても忘れちゃう人にオススメで、最近は結構ユーザー増えてるわね」

「こっちはシール。1週間ごとに貼り変えるのだけど、なかなかはがれることもないからオススメ」

「他にも1度挿れると3年間有効なインプラントっていうのもあってね……」

シールで避妊? 毎日薬を飲まずともできる避妊がある? 避妊法に選択の自由がある?どの方法も一切見たことも聞いたこともなかった私は、この時点で完全に言葉を失っていた。

「人によって向き不向きがあるから、色々知って考えてみるのもいいかも。女性ができる避妊法もたくさんあるから、自分でも調べてみて、分からないことや興味があれば、いつでも聞いて下さいね」

そういって彼女は、ピルのパンフレットに避妊等に関する情報を1度に見られるサイトのURLをさらさらとメモし、私に手渡した。

ドメスティックな女子校育ちの私が受けてきた性教育

私が上記の経験をしたのは2017年1月、交換留学生として、スウェーデンに長期留学していた時のことである。

私にとってはこのスウェーデン留学がはじめての海外長期滞在だった。日本に生まれ、日本語しか話せない家族に育てられ、それと似たバックグラウンドを持つ子の多い日本の学校に高校まで通っていた。そして勿論、家庭内で性に関する話は完全にタブーだった。

そんな私には、これまで受けてきた性教育について覚えていることがふたつある。ひとつめが、女子校に通う中でも男性教員から性教育の授業を受けるという現実。男性に性教育を受けるという段階で私はどうしようもない居心地の悪さを覚えた。教師は早口で授業し、つまりは“こういう”話はしてはいけないものなのだと認識しただけのものだった。

ふたつめが、性教育で繰り返された「自分を大切にしましょう」という言葉。抽象的な内容ばかりで肝心の「どうやったら自分の身体を大切にすることができるのか」という「具体的な方法」については殆ど触れない。女性と一口に言っても環境も考え方も違う。個々に色んな状況がある中で、どう知識を使い、考え、行動できるかが大切なのに、「自分を大切にしましょう」という言葉でまとめられてしまうことに、なんだか無責任、と無性に反発心が湧いたことを覚えている。

今思えば各々の記憶が、現在の性教育の縮図だ。最近でこそ再興を感じるが、2000年代初頭に起きた性教育へのバッシング以降、日本の性教育は停滞、この話題に関する対話は勿論、避妊や性的同意といった具体的知識を伝えることも難しいと感じる土壌が、社会、制度、教員、生徒、それぞれの中で形成されてきた。そして私はまさにその一部だった。
そんな中、性に関することでも当時ひとつだけすんなり入ってきたことがある。それは、女性労働力率のM字カーブや女性が参政権を得るまでの歴史など、「女性の権利」の文脈で教えられた緊急避妊薬(通称アフターピル)の存在だ。その記憶は知識として私に残り、これまで私や友人たちを救ってきた。後述するが、今思えばこの対照的な記憶は、私が避妊具や性教育についても「声を上げていい」と思えたひとつの分かれ道を示している気がする。

そして私は「#なんでないの」と声を上げた

スウェーデン留学から帰国後、私は暫くの間スウェーデン帰りたいあまり意気消沈していた。そんな中、やはり頭を掻き回し続けるのは、現地で知った様々な避妊法や、薬局で販売されていた緊急避妊薬のことだった。



スウェーデン留学中の頃。留学して始めて、女性が選択できる避妊法がたくさんあることを知った 写真提供/福田和子

スウェーデンではあまりに当然に権利として与えられていた知識、選択肢が、日本では与えられない。どんなに「自分を大切に」したくてもその術がない。あまりにショックな現実だった。

その後、私はスウェーデン以外の国の状況についても調査を行った。すると、例えば日本で未認可の避妊インプラントや避妊シール、避妊リングなどについて、日本語で検索をしても、信頼に足る情報など殆ど出てこない。一方、英語で検索すれば「現代的避妊法」として信頼に足るソースは山のようにヒットする。ネットでここまで繋がれる時代に、違和感が募るのだ。

それは緊急避妊薬でも同じだった。スウェーデンのみならず、他の多くの国でも薬局販売されていたり、医療機関で無料配布されている。先進国途上国に限らず、1錠に15000円もかかる国など、日本以外にどこにも見当たらない。スウェーデンでは当然の権利として快く提供された女性の健康を守る必需品の数々が、日本ではポッカリ、存在しないことになっていた。私たちには「なんでないの?」と心から思った。

「なにかをしなければいけない」、そんな思いで「#なんでないのプロジェクト」を始めた。
「#なんでないの?」その一言に込める思い

「#なんでないのプロジェクトの福田和子です」そういうと、大抵は怪訝な顔をされる。そこから、会話をはじめてみるのが最近の私のお決まりだ。

「なんでないの?」と思うことは、それなりに自己肯定感の高い行為だと私は思う。なぜならそこには、あって当然、という前提があるからだ。女性が使えるより確実な避妊の選択肢は決して、「あったらいいな」では済まされない。

あって当然なはずのものがない、その現実に、この一言を通じて気づいてほしいと思った。そして願わくば、この一言をきっかけに、「なくて当たり前、仕方ない」そう感じる様々な出来事に、問いかけや問題提起をしやすい社会になってほしいと思う。そんな思いで、私はこの言葉に辿り着き、「#なんでないの」と日々、SNSで呟いている。

避妊に関することでも、私が声を挙げられた理由

冒頭でお話した、スウェーデンで出会った産婦人科医・ブリギッタとの会話には、実は続きがある。数々の避妊法や、料金の安さ(地域差はあるが、25歳以下なら多くの地域で避妊、緊急避妊、どちらも無料!)にただただ驚く私は、彼女にこんな質問をした。

「避妊の推進だなんて、無防備な性交渉を増やすといった反対はないんですか? なんでこんなに、進んでいるんですか?」

ブリギッタは答えた。

『避妊が中絶を減らす実情』がすでに教育されて浸透しているから、まずそんな反対はないわね。私も含めて誰もがこれだけの医療を受けてきているし、他の人も貧富に関係なく平等に受けられて当然、っていう考えが根幹にあるのよね。だからこそ、お金の少ない若者には負担を減らそうと思っているのではないかしら」

この一言は、私に大きな気づきを与えてくれた。なにかと倫理やタブーに絡めとられがちな性の話。しかしながら、「性」に関わることも、実際は「健康」に関わる無視はできないもので、そこに必要なケアを求めることは当然のこと。彼女はそう、教えてくれたのだ。

とはいえ、私は今でも、性に関してプライベートな話をするのはあまり得意ではない。そこは人それぞれだ。しかし、セーファーセックスや避妊に関しては全く違う。躊躇いもなく話せる。それは私が、上記のような経験を通して、「性」に関わることは自分の健康権利に関わる普通の話、と心から思えたからだと思う。高校の時、権利の文脈に埋められた緊急避妊の話が、頭にすんなり入ってきたのと少し似ている。



2017年5月に、プラハで開催された世界性科学会(World Association for Sexual Health)にも出席 写真提供/福田和子

これからの話、日本でどう「性」を伝えるのか

本プロジェクトをはじめてまもなく1年。これまで様々な場で講演をしたり、文を書いたりする中で、私が最も驚いたことのひとつが、家族の変化だ。

私がこの活動を始めたとき、家族は無論、困惑していた。しかし、ひとまず講演等に呼んでみる中で、「これは大事なこと」と口にしてくれるようになったのだ。他にも、友人が、私の活動をきっかけに、「はじめて家族や彼氏と真面目に性について話せたよ」という声を聞くと、本当にうれしい。

確かに、いくら健康権利の話といえども、そう思えるようになるにはきっかけや時間は必要だと思う。私もそうだった。しかし、そこに向き合わない限り、不本意な性行為や想定外の妊娠など、性を通じた傷つきはなくならない。そのためにも、「気づいたら話せた!」そんな変化を遂げてもらえるような連載にしていきたい。

性を通じて傷つくのではなく、人生豊かになれるひとが増える社会を願って。

https://gendai.media/articles/-/63517?media=frau
日本で生まれ育った女子大生が日本の避妊法の低レベルに驚愕した話

私は日本でほとんど教わっていなかった



福田 和子

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#なんでないの プロジェクト代表 SRHRActivist