国際政治学者で福井県立大名誉教授の島田洋一氏は10日、産経新聞の取材に応じ、LGBTなど性的少数者への理解増進を図る法案について「何が差別に当たるかが明示されていない」と指摘し、法案に否定的な考えを示した。 19日に開幕する先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)を前に、理解増進法案の成立を目指す動きがある。米民主党の(エマニュエル)駐日大使も要求しているようだが、LGBT法を巡っては米国も分断されている。 連邦レベルでは民主党が提出した包括的なLGBT差別禁止法案(名称は平等法)は成立していない。トランスジェンダー女性(生まれつきの性別は男性、性自認は女性)の権利が女性の権利の上位に置かれかねず、共和党が反対している。 逆に、米下院ではトランスジェンダー女性が学校の女子スポーツへの参加を禁止する法案が可決された。全米大学体育協会(NCAA)選手権女子自由形で、トランスジェンダーの自称女子選手が優勝するなど、女性の権利が切り崩される事態が起きているためだ。 日本に黒人差別禁止に特化した法律はない。黒人差別がないためだが、似たことがLGBTにも当てはまる。キリスト教は宗派で違いはあれど、同性愛を罪深い行為とみなす考えは根強い。日本とは立法する上での条件が違う。 理解増進法が必要な理由に、性的少数者の子供がいじめられているためとの主張がある。どんないじめも許されない。そういう原則で周囲の大人や教師が指導すべき話で、何となくLGBT教育が足りないからというのは方向が違う。幼少期に特定のLGBTイデオロギーを教え込めば、性観念が不安定な子供たちを混乱させかねない。 理解増進法案の問題は、何が差別に当たるかが明示されていないことだ。差別の解釈が恣意(しい)的に拡大され、活動家に悪用される恐れがある。問題の多い米国のLGBT差別禁止法案ですら差別の中身を具体的に列挙する努力はしている。 LGBTに特化し、定義があいまいな差別を禁ずる法律は活動家を利するだけで教育現場を混乱させる。百害あって一利なしだ。(聞き手 奥原慎平)